全 情 報

ID番号 : 08909
事件名 : 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 : 日本基礎技術事件
争点 : 建設コンサルタント会社から試用期間中に解雇の意思表示を受けた者が地位確認等を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 建設コンサルタント及び地盤調査等工事会社Yで、試用期間中に技術社員としての資質や能力などの適格性に問題があるとして解雇の意思表示を受けたXが、解雇は無効であるとして、地位確認、賃金の支払いを求めた事案である。 第一審大阪地裁は、技術社員としての適格性を著しく欠くとともに、諸種の点で改善の指摘を受け、指導を受けたにもかかわらず改善がみられないなどとしてXの請求を棄却した。第二審大阪高裁は、試用期間中の解約権の留保は、通常の解雇よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものであるとした上で、4か月弱が経過した時点で、繰り返し行われた指導による改善の程度が期待を下回っており、睡眠不足についてはようやく少し改められたところがあったという程度でいまだ改善とはいえないなど研修に臨む姿勢についても疑問を抱かせるものであり、今後指導を継続しても、能力を飛躍的に向上させ、技術社員として必要な程度の能力を身につける見込みも立たなかったと評価されてもやむを得ない状態であるとした。一方、Xも改善の必要性は十分認識し、改善に必要な努力の機会も十分に与えられていたというべきで、Yも本採用すべく十分な指導、教育を行って解雇回避の努力を怠っていたとはいえないことから、解雇はXの技術社員としての適性不足と、改善可能性の少なさにあり、解雇権の濫用には当たらないとして控訴を棄却した。
参照法条 : 労働契約法16条
体系項目 : 労働契約(民事) /試用期間 /本採用拒否・解雇
解雇(民事) /解雇事由 /勤務成績不良・勤務態度
解雇(民事) /解雇事由 /職務能力・技量
裁判年月日 : 2012年2月10日
裁判所名 : 大阪高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成23(ネ)1506
裁判結果 : 控訴棄却
出典 : 労働判例1045号5頁
審級関係 : 一審/大阪地平成23.4.7/平成21年(ワ)第8472号
評釈論文 :
判決理由 : 〔労働契約(民事)‐試用期間‐本採用拒否・解雇〕
〔解雇(民事)‐解雇事由‐勤務成績不良・勤務態度〕
〔解雇(民事)‐解雇事由‐職務能力・技量〕
1 認定事実
 当裁判所が認定する事案は、次のとおり付加ないし訂正するほか、原判決「事実及び理由」第3の1に記載のとおりであるから、同部分を引用する。
(1) 原判決20頁24行目末尾の後に「控訴人は、平成20年4月18日の問題行動について、手元作業員も他の班員も離れた所におり、具体的危険性はなかったと主張するが、仮に、そうだったとしても、そのような問題行動を繰り返していれば、いずれ負傷者が発生することは確実であって、当該行動に対する前記の評価を否定する事情となるものではない。」を付加する。
(2) 原判決21頁24行目「を総合すると、」の後に、「G副部長が2、3分様子を見ていたものの、控訴人がメモを取るのに一生懸命だったので、声を掛けて止めさせたという証人Aの供述するような状況であったと考えるのが自然であり、他の班員が離れていることを確認し、チャックの回転部の安全カバーが閉じられていることも目視してチャックを最上部まで上げる操作を行った後、手元作業員らの方を見て声かけをしていたが、控訴人が空回りさせた時点で他の班員から声をかけられたとの控訴人の供述は研修日誌の記載と状況が整合しないから採用できず、」を付加する。
(3) 原判決23頁3行目「を総合すると」を「、特に証人Aの供述が具体的であることを総合すると、新入社員評価に記載がないことや接続端子部分の形状(〈証拠略〉、端子部分に触れる可能性が低いことは認められるが、接触事故が100パーセント起こり得ないとまでは認められないし、可能性が低かったとしても、触れようとする行為自体が危険な行為で、このような行為を看過したまま事故が発生すれば、雇用主は安全配慮義務違反を免れないから問題行為と評価すべきことは当然である。)を考慮したとしても、」に改める。
(4) 原判決30頁8行目「理由がない。」の後に「仮に、ショートではなかったとしても、控訴人が事前の指導に反した行動を取ったこと、その行為が控訴人本人及び周囲の作業員の生命身体に関わる危険な行為であることに変わりはなく、解雇事由としての評価に変わりはない。」を加える。
2 本件解雇の当否
 当裁判所も、被控訴人が留保解約権を行使して控訴人を解雇したことには相当性が認められると考えるが、その理由は、次のとおり、付加ないし訂正するほか、原判決「事実及び理由」第3の2に記載のとおりであるから、同部分を引用する。
(1) 原判決35頁15行目末尾の後に改行して、「控訴人は、試用期間中の解雇であっても普通解雇の場合と同様に厳格な要件の下に判断されるべきであると主張するが、解約権の留保は、採否決定の当初においては、その者の資質、性格、能力その他適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行い、適切な判定資料を十分に蒐集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解されるのであって、今日における雇傭の実情にかんがみるときは、一定の合理的期間の限定の下にこのような留保約款を設けることも、合理性を有するものとしてその効力を肯定することができるというべきである。それゆえ、留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものといわなければならない(最高裁昭和48年12月12日大法廷判決・民集27巻11号1536頁参照)。したがって、控訴人の主張は理由がない。」を付加する。
(2) 原判決39頁7行目「総合すると、」の後に「4か月弱が経過したところではあるものの、繰り返し行われた指導による改善の程度が期待を下回るというだけでなく、睡眠不足については4か月目に入ってようやく少し改められたところがあったという程度で改善とまではいえない状況であるなど研修に臨む姿勢についても疑問を抱かせるものであり、今後指導を継続しても、能力を飛躍的に向上させ、技術社員として必要な程度の能力を身につける見込みも立たなかったと評価されてもやむを得ない状態であったといえるから、」を付加する。
(3) 原判決39頁20頁「そうすると、」の後に、「控訴人としても改善の必要性は十分認識でき、改善するために必要な努力をする機会も十分に与えられていたというべきであるし、被控訴人としても本採用すべく十分な指導、教育を行っていたといえるから、被控訴人が解雇回避の努力を怠っていたとはいえないし、改めて告知・聴聞の機会を与える必要もないのであって、」を付加する。
(4) 原判決40頁1、2行目「上記認定説示したとおりであって」を、「上記認定説示したとおり控訴人の技術社員としての適性不足と、改善可能性の少なさにあるのであって、そのことは、改正前の就業規則7条の内容やE部長らの対応によって左右されるものではないから、」に改める。
3 以上によれば、控訴人の請求は理由がなく、同人の請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。