ID番号 | : | 08915 |
事件名 | : | 地位確認等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 学校法人東奥義塾事件 |
争点 | : | 4年間の有期契約の任期半ばで解雇された私立高校の塾長が地位確認と賃金等を求めた事案(塾長勝訴) |
事案概要 | : | 私立高等学校を設置する学校法人と4年間の有期契約を結んでいた塾長(校長)Xが任半ばで解雇され、地位確認と賃金等の支払いを求めた事案の控訴審である。 第一審青森地裁弘前支部は、解雇にやむを得ない事由があるとはいえず無効であるとして、Xの請求のうち、地位の確認と、住居手当を除く賃金及び賞与全額並びにこれらに対する遅延損害金の支払いを認容した。Yが控訴。第二審仙台高裁秋田支部は、Xは、卒業祝賀会や礼拝での配慮を欠いた発言や、事業部が炭酸飲料の撤去に直ちに応じないのに対し自動販売機に無断で張り紙をするなど、塾長としての見識が十分でない面があることは否定できないものの、張り紙行為については生徒の健康を図る目的があり、卒業祝賀会の発言は父兄の労苦をねぎらうなどの意図でなされたものと認められ、また礼拝での言動は、Xが高校から排除される懸念を抱いたことによりなされたものとも推測され、それぞれ極めて不適切とはいえないとした。一方、Xの塾長としての活動により、職員会議への職員の出席率が向上し、学生の態度に良好な変化があったと認められ、4年の任期の初年度においてすでに塾長として一定の成果を出していたことも認められ、Xが塾長として教職員らからの一定の信頼を得ていたこと等の諸事情を勘案すると、本件解雇にやむを得ない事由があったとは認め難いとして、控訴を棄却した。 |
参照法条 | : | 民法536条2項 民法709条 労働契約法16条 労働契約法17条1項 |
体系項目 | : | 解雇(民事)
/解雇事由
/企業秩序・風紀紊乱 解雇(民事) /解雇事由 /名誉・信用失墜 解雇(民事) /解雇事由 /人格的信頼関係 |
裁判年月日 | : | 2012年1月25日 |
裁判所名 | : | 仙台高秋田支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成23(ネ)85 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例1046号22頁 |
審級関係 | : | 一審/青森地弘前支平成23.5.18/平成22年(ワ)第178号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇(民事)‐解雇事由‐企業秩序・風紀紊乱〕 〔解雇(民事)‐解雇事由‐名誉・信用失墜〕 〔解雇(民事)‐解雇事由‐人格的信頼関係〕 ア 被控訴人が、理事会の存在価値を否定し、学歴のない理事を批判したとする点について 前記事実のとおり、被控訴人は、職員会議や運営委員会において、理事会や理事に対する不満を述べ、その中には「学歴のない理事がいる」などという適切さを欠いた発言もあった事実が認められる。しかしながら、前記事実によれば、被控訴人は、平成21年度第1回理事会において、理事会が最高意思決定機関である旨を理解して、そうではないとした意見を撤回しており、実際にも、平成21年秋以降、被控訴人の理事会や理事に対する批判的な言動が止んでいたと認められる。そうすると、被控訴人の当該言動自体を、やむを得ない事由の有無を検討する上で、考慮することはできない。 イ 被控訴人が、塾友会の定時総会において、生徒の知能や東奥義塾高校の教師の能力が低いなどと発言をした点について〔中略〕 この発言は塾長就任後約2か月のものである上、被控訴人は、生徒及び教師の能力について自らが調査して認識したところを塾友会会員に指摘する趣旨で発言したものと認められ、その目的は、東奥義塾高校の生徒や教員を非難するというものではなく、会員らとの間で同校の問題点につき共通認識を持ち、その改善の方策を示し、会員らに対し、具体的な協力を要請することにあったと認められる。そうすると、その発言をもって、不適切とはいえない。 ウ 被控訴人が、東奥義塾高校内の清涼飲料水の自動販売機設置につき、清涼飲料水の危険性を指摘した張り紙を貼るなどし、また、張り紙のはがし方に抗議したBに対しても、配慮を欠いた言動をしたとする点について 事業部の管理に係る物品に一方的に張り紙をした点は、これが生徒の健康を考慮したものとしても、理事会に諮るなどせずに、一方的に実行したもので、適切であったとはいえない。〔中略〕 本件証拠上、Bが、被控訴人に対し張り紙を付近に捨てただろうなどと詰問し押し問答となっていった際に、これにつき特段の根拠をもっていたとは認められないことに照らせば、Bが、被控訴人に対し礼節を要求できる立場にあったとは必ずしもいえない。そうすると、被控訴人の行為が不適切であるとまではいい難い。 エ 被控訴人が、交換留学生のホストファミリーの心情に配慮した言動を取れなかったとする点について〔中略〕 被控訴人なりに自己の経験から留学生の心情や留学生活の充実を憂慮したための言動と認められるほか、教職員らの対応により、問題は終息しており、当該事情をもって、やむを得ない事由の有無を検討する上で、考慮することはできない。 オ 被控訴人が卒業式において、学歴の話をした点について 卒業式において、いかなる文脈においても学歴の話ができないなどとはいえず、被控訴人の話の具体的内容に照らしても、不適切なものがあったとは認められない。 カ 東奥義塾高校の卒業祝賀会における被控訴人の発言について 被控訴人は、卒業祝賀会の塾長の祝辞を述べるに当たり、「落ちこぼれ」「停学くらった」などの言葉を不用意に使用しており、出席した父兄の中には不快に感じる者もいたというのも当然であり、これが配慮を欠いた式辞であったことは明らかであり、すでに塾長就任から1年になろうとする時期の発言であることも踏まえると、被控訴人には、教育者として、また、東奥義塾高校の校務全体をつかさどる職責を有する塾長として、見識に欠けるものがあったといわねばならない。 キ 被控訴人の東奥義塾高校の平成22年3月4日の礼拝説教における発言について 被控訴人は、控訴人の外部団体が自動販売機の飲み物で儲けており、被控訴人がこの外部団体の商売を妨害していると激怒して被控訴人を憎むようになり、今では被控訴人を排除する計画を立てている旨発言したと認められるが、これは、紛争当事者の一方のみがその立場を主張したものというほかなく、また、被控訴人の話を耳にする生徒らの心情への配慮にも薄く、上記カ同様に、被控訴人の見識に欠けるところがあったといわざるを得ない。 ク 被控訴人が、未だ理事会において採用する旨議決されていなかったCを平成22年度のオルガン奏者とする人事案を理事会に提案しないまま職員会議において公表した点について〔中略〕 被控訴人の行為が寄附行為に反するなどとは認め難い。 ケ 以上の諸点を総合的に検討すると、被控訴人は、卒業祝賀会や平成22年3月4日の礼拝に際し、学校関係者への配慮を欠いた発言をしており、また、事業部が炭酸飲料の撤去に直ちに応じないのに対し、事業部の管理に係る自動販売機に無断で張り紙をするなど、やや乱暴で思慮を欠くというべき行動をとっており、校務をつかさどり、所属職員を監督する塾長としての見識が十分でない面があることは否定できない。 しかしながら、清涼飲料水の自動販売機などに張り紙を貼るなどした行為については、東奥義塾高校の生徒の健康を図る目的があり、卒業祝賀会における発言については、父兄の労苦をねぎらうなどの意図でなされたものと認められ、極めて不適切とはいえず、平成22年3月の言動は、被控訴人が、東奥義塾高校から排除される懸念を抱いたことによりなされたものとも推測され、その後、実際に本件解職処分が行われたことも踏まえると、同様に極めて不適切とはいえない。そして、被控訴人の塾長としての活動により、職員会議への職員の出席率が向上し、学生の態度に良好な変化があったと認められ(〈人証略〉)、被控訴人は、4年の任期の初年度において、すでに、塾長として一定の成果を出していたことに照らすと、被控訴人が、塾長として、教職員らからの一定の信頼を得ていたと認められる。これに加え、証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人には、そもそも管理職経験はおろか国内における一般的な教職経験もなかったものであり、乙山理事長をはじめとする理事会がこれを承知であえて被控訴人を塾長として採用したと認められるのであって、各理事、理事会においても、これを踏まえて、被控訴人の経験不足の点を補完すべきであったと解されるところ、理事会がこれを全うしたとは認められない。 以上の諸事情を勘案すると、本件解職処分には、法17条1項にいうやむを得ない事由があったとは認め難い。 (3) したがって、その余の点を判断するまでもなく、本件解職処分は法17条1項により無効であり、被控訴人は、控訴人に対して、労働契約上の地位を有すると認められる。 |