ID番号 | : | 08930 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | リーディング証券事件 |
争点 | : | 証券会社で試用期間中に解雇された者が地位確認、残存雇用期間の未払賃金等の支払を求めた事案(労働者敗訴) |
事案概要 | : | 証券会社Yに雇用期間1年間の約定で採用され、試用期間中に解雇(留保解約権の行使)されたXが、留保解約権の行使は労働契約法17条1項に違反し無効であるとして、地位確認、残存雇用期間の未払賃金等及び違法な留保解約権の行使等による慰謝料等の支払を求めた事案である(なお、地位確認請求は後に取り下げた。)。 東京地裁は、まず本件試用期間の定めは、少なくともXとの関係では、試用期間3か月間の限度で有効と解され、Yは、その期間に限り、Xに対し、留保解約権を行使し得るとした。その上で、採用決定後の調査により、または試用中の勤務状態等により、スピードが遅い、日本語のレベルが低い、分析力・専門知識が日本の証券会社に勤めるアナリストに比べると低い、などの事実についてYは知ったものであり、〈1〉その者を引き続き当該企業に雇用しておくことが適当でないと判断することが、解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であり、〈2〉雇用期間の満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由が存在するものと認められる場合に当たるから、従業員としての適格性具備の前提(基礎)となる使用者との間の信頼関係を根本から喪失させる事実があったものであり、Yが留保解約権を行使したのは有効であったとして、Xの請求をいずれも棄却した。 |
参照法条 | : | 労働契約法17条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事)
/試用期間
/本採用拒否・解雇 解雇(民事) /解雇事由 /職務能力・技量 労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求 |
裁判年月日 | : | 2013年1月31日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成23(ワ)26760 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働経済判例速報2180号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 矢野昌浩・法学セミナー58巻12号119頁2013年12月大石玄・季刊労働法243号140~149頁2013年12月 |
判決理由 | : | 〔労働契約(民事)‐試用期間‐本採用拒否・解雇〕 〔解雇(民事)‐解雇事由‐職務能力・技量〕 (3) 判断 ア 以下、前記前提事実及び基礎事実に基づき、本件留保解約権の行使が労契法17条1項所定の要件を満たし有効であるか否かについて検討する。 前記(2)イ(イ)において検討したとおり、有期労働契約における留保解約権の行使は、使用者が、採用決定後の調査により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らし、〈1〉その者を引き続き当該企業に雇用しておくことが適当でないと判断することが、解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であること(労契法16条。以下「要件〈1〉」という。)に加え、〈2〉雇用期間の満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由が存在するものと認められる場合(労契法17条1項。以下「要件〈2〉」という。)に限り適法となるものと解される。 そこで問題は、本件留保解約権の行使が上記要件〈1〉と〈2〉を満たすかである。 イ 前記前提事実(1)~(3)及び同基礎事実によると被告は、「本件サンスン電子レポートからうかがわれるような、いわゆるネイティブレベルの日本語力でもって、証券アナリストレポートを作成することが可能な能力を有する即戦力の従業員(専門職)」として原告を採用した上、アナリストレポートの作成だけを専門に扱うリサーチセンターに所属させ、実際に自動車産業全体のほか、韓国企業の各種銘柄につきアナリストレポートの原案を作成させてみたところ、(ア)その出来映えは、別紙1(略)(本件自動車産業レポート)及び同2(略)(本件各銘柄レポート)に記載のとおり良くなく、原告の日本語能力は、実際には、当初、被告が期待した上記レベルには遠く及ばないものであることが判明したばかりか、(イ)原告が、採用を決定付けた本件サンスン電子レポートの作成に当たって日本人である夫にその文章を見て貰っていたことを秘匿していた事実が明らかになった。 そして、これら(ア)及び(イ)の各事実は、本件雇用契約の締結時において、これを知ることができず、また知ることを期待できないような事実に当たるところ、これらの事実は、原告が被告従業員として適格性に欠け、被告の上記期待に応えることがおよそ不可能な従業員であることをうかがわせるに足るものである上、従業員としての適格性具備の前提(基礎)となる使用者との間の信頼関係を根本から喪失させるものであるということができる。 そうだとすると、被告において原告を引き続き雇用しておくことが適当でないものと判断したことは、解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当である上(要件〈1〉)、雇用期間の満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由も存在している(要件〈2〉)ものといわざるを得ず、してみると、本件留保解約権の行使は、上記〈1〉及び〈2〉の要件を満たし、適法(有効)であると解される。 ウ よって、本件留保解約権の行使は有効であることに帰着する。 なお原告は、原告作成の職務経歴書「語学力」欄に「日本語」は「(fluent)」との記載があることを指摘し、採用に当たって日本語検定を受けさせたり、あるいは日本語の試験等を実施していたならば、原告の日本語力の低さは容易に判明していたはずであるなどと主張するが、上記のとおり被告が原告の日本語力を確かめるべく提出を求めた本件サンスン電子レポートの文章からは、正に日本人(ネイティブ)並みの文章力がうかがわれたのであるから、その他に上記職務経歴書の語学力欄の「(fluent)」との記載があるとして、被告に対し日本語の試験等の実施まで求めるのは適当ではない。原告の上記主張も、当裁判所の上記判断を左右するものではない。 〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕 3 争点(2)についての判断 前記第2の4(2)において摘示した、不法行為に基づく損害賠償請求に関する原告の主張は、あくまで本件留保解約権の行使が違法(無効)であることを前提としているが、上記2で詳細に検討したとおり本件留保解約権の行使は適法(有効)であるから、原告の上記主張は、その余の点を検討するまでもなく理由がないものというべきである。 |