ID番号 | : | 08934 |
事件名 | : | 定年年度確認請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 大阪経済法律学園(定年年齢引き下げ)事件 |
争点 | : | 大学教授らが定年年齢を引下げる就業規則変更を無効として地位確認、賃金の支払等を求めた事案(労働者勝訴) |
事案概要 | : | 大学を設置する学校法人Yの教授職にあるXらが、Yが就業規則を変更して教授の定年年齢を引き下げたのは無効であるとして、定年を満70歳の誕生日の属する年の年度末までとする雇用契約上の権利を有する地位の確認並びにYが決めた定年退職日を過ぎた2名について賃金及び一時金の支払を求めた事案である。 大阪地裁は、まず、本件確認書が労働協約に当たるとしても、その合意内容は定年制に関する諸規程を定めることを前提に、その内容を裁定委員会に委ねるというものであり、本件確認書をもって、Yと組合との間に具体的に定年を満70歳とする旨の労働協約が成立したとは認められないとした。次に、定年引下げについて、少子化及び大学数の増加に伴う私立大学間の競争激化や周辺他大学の動向といった本件大学を取り巻く環境の変化に対応するため一定の必要性は認められ、また、満67歳という定年も合理的なものであるといえるとする一方で、それが緊急の課題とまではいえないこと、定年の段階的引下げのような経過措置や、退職金の割増しのような適切な措置がとられていないこと等から、本件定年引下げは使用者側の必要性と比較して労働者側の被る不利益が大きく、これへの代償措置等も十分に尽くされているとは認められないから、就業規則の不利益変更として合理性を有さず、無効であるといわざるを得ないとした。(将来請求の必要性は否認、一時金の請求も斥けた)。 |
参照法条 | : | 労働基準法9章 労働契約法9条 労働契約法10条 民法536条 民事訴訟法135条 |
体系項目 | : | 就業規則(民事)
/就業規則の一方的不利益変更
/定年制 就業規則(民事) /就業規則と協約 /就業規則と協約 |
裁判年月日 | : | 2013年2月15日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成23(ワ)9702 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部却下、一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1072号38頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔就業規則(民事)‐就業規則の一方的不利益変更‐定年制〕 〔就業規則(民事)‐就業規則と協約‐就業規則と協約〕 1 争点1について 前提事実(2)のとおり、被告の定年制は、昭和54年12月10日付けの本件確認書(〈証拠略〉)及びこれに基づき裁定委員会が作成した同月17日付け裁定書(〈証拠略〉)を受けて、就業規則として定められたものであるところ、本件確認書には、「裁定委員会を設けて、定年制に関する諸規程を民主的ルールにのっとって決定する」、「上記の決定について、双方は、異議をとなえない」と記載され、被告及び本件組合が記名押印しているが、この記載内容に照らすと、本件確認書が労働協約に当たるとしても、その合意内容は、定年制に関する諸規程を定めることを前提に、その内容を裁定委員会に委ねるというものであり、本件確認書をもって、被告と本件組合との間に、具体的に定年を満70歳とする旨の労働協約が成立したとは認められない。 〔就業規則(民事)‐就業規則の一方的不利益変更‐定年制〕 イ 本件定年引き下げの必要性について 前記認定事実によれば、少子化及び大学全入時代という背景の下で、私立大学間の競争が激化していること、在阪ないしその近隣の他の私立大学をみても、定年を引き下げる大学が複数あり、満70歳定年制を維持している大学はむしろ少数であること、本件大学の専任教員の平均年齢が、全国平均に比して高いこと、財団法人日本高等教育評価機構の平成22年度大学機関別認証評価においても、「参考意見」として、教員の年齢構成の偏りが指摘されていること(前記(1)イ、エ)などが認められるから、これらの事実を総合的に考慮すると、教育・研究内容の活性化を図るとともに、高齢の層に偏った教授らの年齢構成を是正するため、本件大学の教授の定年を引き下げることには、一定の必要性が認められるというべきである。〔中略〕 ウ 新規程及び本件再雇用制度の内容の相当性について 次に、新規程の内容は、満67歳の誕生日の属する学年度末日に退職するというものであり、在阪ないしその近隣の他の私立大学と比較して平均的な定年年齢であることからすると、本件定年引き下げ後の新規程の内容自体は、相当なものであるといえる。 もっとも、前記のとおり、本件定年引き下げは、原告らの重要な労働条件に不利益を課すものであるから、これが合理的であるといえるためには、被告が本件定年引き下げの代償措置ないし経過措置であると主張する本件再雇用制度が、かかる不利益に対する経過措置・代償措置として相当なものであるといえることが必要である。 そこで次に、この点について検討すると、本件再雇用制度によれば、同制度に基づいて再雇用された教授は、原則として、専任教員として旧規程の定年である満70歳の誕生日の属する学年度末まで雇用され、給与も退職時と同額であり、さらに、賞与、諸手当及び退職金も専任教員と同様に支給されるのであるから(前記(1)カ(エ))、満67歳で退職金が一旦支払われる結果、退職金の支給総額が多少減額される点を除けば、旧規程とほぼ同様の処遇を受けられるものといえる。そうすると、本件再雇用制度は、再雇用される教授にとっては、代償措置として十分に機能することとなる。 これに対し、再雇用されなかった教授は、特別専任教員又は客員教授として再雇用されなければ、新規程に基づく定年である満67歳の誕生日の属する年の年度末で雇用契約が終了することになるところ、特別専任教員又は客員教授としての再雇用は、本件定年引き下げ以前から存在する制度であるから、これらをもって、本件定年引き下げの代償措置と評価することはできない。〔中略〕 したがって、本件再雇用制度が、本件定年引き下げにより不利益を受ける教授に対する代償措置としての機能を果たしているとは評価できず、被告の主張には理由がない。〔中略〕 以上のとおり、本件定年引き下げについては、少子化及び大学数の増加に伴う私立大学間の競争激化や周辺の他の私立大学の動向といった本件大学を取り巻く環境の変化に対応するため、一定の必要性は認められ、また、満67歳という定年も合理的なものであるといえる。 しかし、他方で、教員の平均年齢の引き下げや年齢構成の偏りの是正は、中堅層の採用等によってある程度実現されており、緊急の課題とまではいえないこと、本件定年引き下げにより不利益を被る労働者に対する代償措置・経過措置として被告が主張する本件再雇用制度は、本件定年引き下げと一体としてみれば、旧規程の下で満70歳まで働くことが可能であった労働者の一部について、解雇理由がなくても満67歳で解雇できるようにしたのと同様の効果しかなく、本件定年引き下げにより不利益を被る労働者に対する代償措置、経過措置とは評価できないこと、特別専任教員や客員教授の制度は、旧規程の下でも存在した制度であり、本件定年引き下げの代償措置、経過措置とは評価できないこと、他に、定年の段階的引下げのような経過措置や、退職金の割増しのような代償措置はとられていないところ、これらの措置をとることが不可能ないし困難な事情があったとはいえないことなどが認められる。 そうすると、本件定年引き下げは、使用者側の必要性と比較して、労働者側の被る不利益が大きく、これに対する代償措置等が十分に尽くされているとは認められないから、その余の点について判断するまでもなく、就業規則の不利益変更として合理性を有しているとは評価できず、無効であるといわざるを得ない。 3 原告A及び同Bの賃金及び賞与の請求について (1) 賃金請求について 以上によれば、原告A及び原告Bは、未だ本件大学の教授たる地位にあることが認められ、同人らが労務を提供することができないのは、被告の責めに帰すべき事情によるものであるといえるから、原告A及び原告Bは、賃金請求権を失わない。もっとも、本判決確定日の翌日以降の賃金については、将来請求の必要性があるとはいえないから、不適法である。 (2) 一時金(期末手当、勤勉手当及び賞与)の請求について 一方、一時金については、証拠(〈証拠略〉)によれば、毎年、労使交渉の結果を踏まえて金額が決定されていることが認められるところ、平成24年度以降の一時金の額について決定されたことを認めるに足りる証拠はないから(なお、平成24年度分については少なくとも仮の支給額は決定し、他の教員には支給されていると思われるが、その金額も証拠上明らかでない。)、原告A及び原告Bの一時金の請求には理由がない。 |