ID番号 | : | 08937 |
事件名 | : | 地位確認等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル(自然退職)事件 |
争点 | : | 自然退職扱いとされたホテル従業員がパワハラを理由に損害賠償と地位確認等を求めた事案(労働者一部勝訴) |
事案概要 | : | ホテル経営会社Y1に雇用され、営業本部セールスプロモーション部門に所属し、休職期間満了による自然退職扱いとされた従業員Xが、上司Y2からパワハラを受けたことにより精神疾患等を発症し、その結果、治療費の支出、休業による損害のほか多大な精神的苦痛を受けたとして、不法行為に基づく損害賠償金の連帯支払を求めるとともに、この精神疾患等は業務上の疾病だとして、地位確認及び賃金支払を求めた事案の控訴審判決である。 第一審東京地裁は、不法行為については慰謝料と遅延損害金の支払を一部認めたが、自然退職扱いは有効だとして地位確認等は棄却した。双方控訴。Xは予備的に債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく請求を付した。 第二審東京高裁は、パワハラについて、指揮命令関係にある上司等が部下に対して職務上の地位・権限を逸脱・濫用し、社会通念に照らし客観的な見地からみて通常人が許容しうる範囲を著しく超えるような有形・無形の圧力を加える行為をしたと評価される場合に限り人格権を侵害する、との判断の下、Y2による一連のパワハラ行為を大筋で不法行為を認定しつつも精神疾患等の発症との因果関係は認定困難とし、原審同様に慰謝料のみ認め(Y1には使用者責任を適用)、パワハラによる精神的苦痛を考慮し金額を増額した。自然退職については、休職からの手続きに違法はなく、また復職希望の機会にも申出をしなかったとして一審判決を支持し控訴を棄却した。 |
参照法条 | : | 民法1条 民法709条 民法710条 民法715条 労働基準法9章 |
体系項目 | : | 労働契約(民事)
/労働契約上の権利義務
/使用者に対する労災以外の損害賠償請求 退職 /任意退職 /任意退職 |
裁判年月日 | : | 2013年2月27日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成24(ネ)2402 |
裁判結果 | : | 原判決一部変更、一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1072号5頁 |
審級関係 | : | 第一審/東京地平成24.3.9/平成22年(ワ)第11853号/08896/ |
評釈論文 | : | 原俊之・横浜商大論集47巻1号161~184頁2013年9月 |
判決理由 | : | 〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕 (1) 一審被告丙川によるパワハラ行為の有無・評価 ア 本件出張中のパワハラ1-〈1〉、〈2〉、パワハラ2の有無等 一審被告丙川が、平成20年5月11日から12日にかけて、極めてアルコールに弱い体質の一審原告に対し、執拗に飲酒を強要したことは、前記認定事実のとおりである。一審原告は、英文パンフレットの件で迷惑をかけたこともあり、上司である一審被告丙川の飲酒強要を断ることができなかった。一審原告は、少量の酒を飲んだだけでもおう吐しており、一審被告丙川は、一審原告がアルコールに弱いことに容易に気付いたはずであるにもかかわらず、「酒は吐けば飲めるんだ」などと言い、一審原告の体調の悪化を気に掛けることなく、再び一審原告のコップに酒を注ぐなどしており、これは、単なる迷惑行為にとどまらず、不法行為法上も違法というべきである(本件パワハラ1-〈1〉)。また、その後も、一審被告丙川の部屋等で一審原告に飲酒を勧めているのであって、本件パワハラ1-〈1〉に引き続いて不法行為が成立するというべきである(本件パワハラ1-〈2〉)。また、一審被告丙川は、翌日(平成20年5月12日)、昨夜の酒のために体調を崩していた一審原告に対し、レンタカー運転を強要している。たとえ、僅かな時間であっても体調の悪い者に自動車を運転させる行為は極めて危険であり、体調が悪いと断っている一審原告に対し、上司の立場で運転を強要した一審被告丙川の行為が不法行為法上違法であることは明らかである(本件パワハラ2)。〔中略〕 ウ 本件パワハラ4の有無等 一審被告丙川は、平成20年7月1日、直帰せずに一旦帰社するよう指示していた一審原告が、同指示を無視したことに憤慨し、同日午後11時少し前に、一審原告に対し、「まだ銀座です。うらやましい。僕は一度も入学式や卒業式に出たことはありません。」との内容のメールを送り、さらに同日午後11時過ぎ2度にわたって携帯電話に電話をし、その留守電に、「えー甲野さん、あの本当に、私、怒りました。明日、本部長のところへ、私、辞表を出しますんで、本当にこういうのはあり得ないですよ。よろしく。」、「甲野さん、こんなに俺が怒っている理由わかりますか。本当にさっきメール送りましたけど、電話でいいましたけど、明日私は、あのー、辞表出しますので、でー、それでやってください。本当に、僕、頭にきました。」と怒りを露わにした録音を行った(本件7・1留守電)。 本件7・1留守電やメールの内容や語調、深夜の時間帯であることに加え、従前の一審被告丙川の原告に対する態度に鑑みると、同留守電及びメールは、一審原告が帰社命令に違反したことへの注意を与えることよりも、一審原告に精神的苦痛を与えることに主眼がおかれたものと評価せざるを得ないから、一審原告に注意を与える目的もあったことを考慮しても、社会的相当性を欠き、不法行為を構成するというべきである。 エ 本件パワハラ5の有無等 一審被告丙川が本件8・15留守電に及んだことは明らかであり、深夜、夏季休暇中の一審原告に対し、「ぶっ殺すぞ」などという言葉を用いて口汚くののしり、辞職を強いるかのような発言をしたのであって、これらは、本件8・15留守電に及んだ経緯を考慮しても、不法行為法上違法であそことは明らかであるし、その態様も極めて悪質である。〔中略〕 (3) 一審被告らの損害賠償責任 前記説示のとおり、一審被告丙川は、本件パワハラ1-〈1〉、〈2〉、本件パワハラ2、本件パワハラ4及び本件パワハラ5について不法行為責任を負う。そして、これらは、本来の勤務時間外における行為も含め、いずれも一審被告会社の業務に関連してされたものであることは明らかであるから、一審被告会社は、民法715条1項に基づき使用者責任を負うというべきである。 〔退職‐任意退職‐任意退職〕 (6) 一審原告の自然退職の有効性 ア 一審原告は、本件休職命令の満了日である平成21年7月13日の経過まで一審被告会社に復職することができなかった。 イ 一審原告は、「一審被告会社において、休職期間満了時に、一審原告に対し、その時点における主治医作成の診断書を提出させたり、産業医に診察させてその意見を聴取するなどの措置を全くとらず、軽減された他職種等への就労可能性及び原職への復帰の見通し等を検討することもなく本件退職扱いにしたことは、労働契約における信義則上の配慮義務に著しく違反したもので、権利の濫用である」旨主張する。 前記認定事実によれば、〈1〉 一審被告会社は、本件休職期間満了日の3週間程前である平成21年6月23日に、一審原告に対し、休職期間が同年7月13日をもって満了となることを予告し、復職に関する相談は、できる限り早期にしてほしい旨メールで発信していること、〈2〉 一審原告は、同年7月7日、一審被告会社に対し、同月11日に担当医による診断があるので相談する旨、労災認定に向けて三田労働基準監督署に相談しており、申立書を作成次第、送付するので、必要事項を記入の上、返信してほしい旨をメールで送信していること、〈3〉 その後、一審原告から復職願の提出はなく、本件休職期間が経過したこと、以上の事実が認められる。 以上によれば、一審原告は、本件休職命令に対し、一審被告会社に異議を唱えたことはなく、平成21年7月13日に休職期間が満了すること及び復職の相談があれば早期に申し出るよう一審被告会社から告知を受けていたが、復職願や相談等の申出を提出することなく本件自然退職に至ったものであって、一審被告会社が労働契約上の信義則に反したとか、本件退職扱いが権利の濫用であるとはいえない。 ウ また、一審被告丙川及び一審被告会社の作為又は不作為と一審原告が復職しなかったこととの間に因果関係があるとはいえないから、当審における一審原告の予備的請求も理由がない。 4 まとめ (1) 以上によれば、一審原告の請求は、一審被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償として慰謝料150万円及びこれに対する不法行為後である平成21年3月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるが、その余の請求(当審における予備的請求を含む。)はいずれも理由がないことになる。 |