ID番号 | : | 08940 |
事件名 | : | 遺族補償給付不支給処分決定取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 常総労働基準監督署長事件 |
争点 | : | 電気会社で脳出血を発症して死亡した労働者の父が遺族補償給付等の不支給処の取消しを求めた事案(父勝訴) |
事案概要 | : | 電気会社に勤務していたAが脳出血を発症して死亡したのは、業務に起因するものであるとして、Aの父が、労災保険法による遺族補償給付及び葬祭料の支給を求めたが、いずれも不支給とする旨の処分がなされたため、これの取消しを求めた事案である。 東京地裁は、Aは、発症前1か月間に72時間15分、発症前2か月間ないし4か月間においては1か月当たり65時間以上の長時間の時間外労働に従事していた上、新会計システム導入プロジェクト及び会計システム統合プロジェクトという精神的緊張を伴う業務に相次いで従事し、生活リズムの悪化をもたらす可能性がある深夜に及ぶ勤務も増加傾向にあったところ、本件死亡のわずか2日前から3日前にかけて出張に伴う長距離の夜間運転業務に従事したのであって、量的にも質的にも業務による過重な負荷があったものと認められ、他方、Aの本件死亡はくも膜下出血である可能性が高いところ、Aには喫煙習慣、高血圧保有、1週間に150g以上の飲酒といった危険因子や基礎疾患があったことは認められないから、本件死亡はAが従事した過重な業務に内在する危険が現実化したものであり、本件死亡と業務との間には相当因果関係があるものと認めるのが相当であるとして、父親の請求を認めた。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法7条 労働者災害補償保険法17条 労働基準法79条 労働基準法80条 労働基準法施行規則35条別表1の2 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険
/業務上・外認定
/脳・心疾患等 労災補償・労災保険 /補償内容・保険給付 /遺族補償(給付) 労災補償・労災保険 /補償内容・保険給付 /葬祭料 |
裁判年月日 | : | 2013年2月28日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成22(行ウ)705 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 判例時報2186号103頁/判例タイムズ1394号167頁/労働判例1074号34頁/労働経済判例速報2184号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険‐業務上・外認定‐脳・心疾患等〕 〔労災補償・労災保険‐補償内容・保険給付‐遺族補償(給付)〕 〔労災補償・労災保険‐補償内容・保険給付‐葬祭料〕 (3) 前記認定事実によれば、被災者の時間外労働時間は、本件把握方法により算定される労働時間だけでも、発症前一か月間に七二時間一五分、発症前二か月間ないし四か月間において、一か月当たり六五時間以上(最大六八時間〇七分)に及び、最新の医学的知見に基づく専門検討会報告書(乙一)において、業務と発症との関連性が強いとされる発症前一か月間に概ね一〇〇時間、発症前二か月間ないし六か月間にわたって一か月当たり概ね八〇時間を超える時間外労働までは認められないものの、これを超えて時間外労働時間が長くなるほど業務と発症との関連性が徐々に強まるとされる発症前一か月間ないし六か月間にわたって一か月当たり概ね四五時間を超える時間外労働については発症前一か月間ないし四か月間において少なくとも二〇時間以上は超えており、被災者の実労働時間が本件把握方法により算定される労働時間に加え、発症前一か月間においては平成二一年六月一四日及び同月六日の各数時間、また、全期間を通じて、別紙六のうちの*を付した日の終業時刻後に十数分から数十分程度を加算した時間であると認められることをも考慮すれば、被災者の時間外労働は相当に長時間に及んでいたものということができる。 (4) また、前記前提事実及び認定事実(以下「前記認定事実等」という。)によれば、被災者は、平成二〇年一一月から新会計システム導入プロジェクトに関わり、平成二一年四月末から同年五月初めには新会計システムに登録するデータの確認作業や登録作業に従事し、また、同年六月からは会計システム統合プロジェクトに関わり、その打合せのために本件沼津出張に行ったことが認められる。これらのプロジェクトにおける経理チームのリーダーは、同僚の丁原ではあるものの、同人には分からず、被災者にしか分からない部分もあることから、被災者も主体的に関与することが求められていたものと認められ、また、これらのプロジェクトは、日常業務にはない負担であるのみならず、将来にわたる会計システムの構築に関わる本件会社にとって重要な業務であり、会計システムの導入予定時期という期限の定めもあることから、相応の精神的緊張を伴う業務であったものと認められる。 さらに、前記認定事実等によれば、被災者は、本件沼津出張において、いずれも所定労働時間内は業務に従事した後に、上司を含む同僚を乗せた社用車の運転を片道約一七〇kmという長距離かつ不慣れな道について夜間にわたって往復とも一人で担当したことが認められ、往復とも途中で夕食を含む休憩をとっていることや被災者が毎日の通勤に自動車を用いていたことを考慮しても、相当程度の肉体的負担・精神的負担があったものと認められる。 加えて、前記認定事実等によれば、被災者は、月末月初に繁忙期となる経理業務の性質上、特に月末月初において深夜に及ぶ勤務を余儀なくされる傾向にあり、平成二一年四月末から同年五月初めには新会計システム導入プロジェクトにおける新会計システムに登録するデータの確認作業や登録作業にも従事したことから、深夜に及ぶ勤務が増加し、終業時刻が午後一〇時を超える勤務は発症前四か月目は一日間、同五か月目は三日間、同六か月目は三日間であるのに対し、発症前三か月目には七日間、同二か月目には六日間、同一か月目には六日間に及んでいること、終業時刻が午前〇時を超える勤務は発症前四か月目ないし六か月目は〇日間であるのに対し、発症前三か月目には三日間、同二か月目には五日間、同一か月目には二日間に及んでいることが認められる。被災者の深夜に及ぶ勤務は、経理業務の性質に由来するものについては一定程度予測可能性があったとはいえるものの、日常業務とは異なる新会計システム導入プロジェクトに従事したこと等の影響もあって発症前三か月間に明らかな増加傾向にあったものと認められ、このような深夜に及ぶ勤務が少なからず睡眠―覚醒のリズムを障害し、生活リズムの悪化をもたらしたものと認められる。 (5) 以上のとおり、被災者は、発症前一か月間ないし四か月間にわたって相当に長時間の時間外労働に従事していた上、新会計システム導入プロジェクト及び会計システム統合プロジェクトという精神的緊張を伴う業務に相次いで従事し、生活リズムの悪化をもたらす可能性がある深夜に及ぶ勤務も増加傾向にあったところ、本件死亡のわずか二日前から三日前にかけて本件沼津出張に伴う長距離の夜間運転業務に従事したのであって、量的にも質的にも業務による過重な負荷があったものと認められ、他方、前記認定事実によれば、被災者の本件死亡はくも膜下出血である可能性が高いところ、被災者には喫煙習慣、高血圧保有、一週間に一五〇g以上の飲酒といった危険因子(乙三四)や基礎疾患があったことは認められないから、本件死亡は被災者が従事した過重な業務に内在する危険が現実化したものであり、本件死亡と業務との間には相当因果関係があるものと認めるのが相当である。 三 結論 以上によれば、被災者の本件死亡には業務起因性が認められ、これと異なる判断をした本件処分は違法であるから、その取消しを求める原告らの請求は理由がある。 |