ID番号 | : | 08946 |
事件名 | : | 未払賃金等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 帝産キャブ奈良事件 |
争点 | : | タクシー会社の乗務員らが、最低賃金との差額と未払割増賃金の支払を求めた事案(労働者一部勝訴) |
事案概要 | : | タクシー会社Yの乗務員Xら30名が、支払われた賃金が最低賃金を下回っており、さらに、割増賃金の一部に未払がある等と主張して、賃金の差額、労働基準法114条に基づく付加金及びそれぞれの遅延損害金の支払を求めた事案である。 奈良地裁は、まず最低賃金との差額について、Yからの不就労時間の存在の主張には立証がなかったと斥け、組合活動を行っていた時間については、所定労働時間の実数から控除してこなかった慣習があったとして控除せず、公休日勤務の手当ては賃金に含めないと認定したうえで実就労時間を算定し、最低賃金との差額を認定し未払部分の支払を命じた。また、同様に割増賃金についても未払分を認定し、Yからの和解の成立は斥けたが、時効該当期間分については、中断ないし時効援用権の喪失があったと認めることはできず、時効は成立しており請求権は消滅したとして支払を認めなかった。さらに、割増賃金の付加金については、支払を怠った違反があり、公判でも根拠を示さないまま不就労時間がある旨の主張を繰り返すなどしてきたとして、付加金の支払を命じた(遅延損害金も認容)。 |
参照法条 | : | 最低賃金法4条 労働基準法114条 労働基準法37条 労働基準法115条 民法147条 |
体系項目 | : | 賃金(民事)
/最低賃金
/最低賃金 賃金(民事) /賃金請求権の発生 /争議行為・組合活動と賃金請求権 賃金(民事) /賃金の支払い原則 /賃金請求権と時効 雑則(民事) /時効 /時効 雑則(民事) /付加金 /付加金 賃金(民事) /割増賃金 /割増賃金の算定方法 |
裁判年月日 | : | 2013年3月26日 |
裁判所名 | : | 奈良地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成23(ワ)825 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1076号54頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金(民事)‐最低賃金‐最低賃金〕 1 争点1(最低賃金以上の支払の有無)について〔中略〕 原告らの賃金が最低賃金を下回るものであったか否かは、原告らに支給された賃金の1時間当たりの額と最低賃金とを比較することにより判断されるものであり、固定給及び歩合給からなる原告らの賃金の1時間当たりの額は、(固定給/1か月の所定労働時間の実数)+(歩合給/1か月の総労働時間)によって算出されるということ、上記計算式のうち、固定給=基本給-遅刻早退控除+諸手当であること並びにA形態の1か月の所定労働時間の実数は争いがない。〔中略〕 イ 不就労時間の控除について 被告は、就業時間中に原告ら乗務員が就労していなかった時間があり、かかる不就労時間は所定労働時間から控除すべきであると主張する。 この点、前記(1)のとおりの賃金台帳の記載、B勤務乗務員らの提出するタイムカード(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によれば、原告らが主張する始業時間から終業時間までの間については、労務の提供があったことが推認できる。 これに対し、被告は、就業時間中の不就労時間として主張する各時間につき、不就労時間が存在することを被告が認定した旨主張するにとどまり、いつ、いかなる不就労があったのかについて、何ら具体的に主張及び立証しようとしない。 そうすると、被告の主張は採用できず、被告主張の不就労時間を1か月の所定労働時間の実数から控除すべきとはいえない。 〔賃金(民事)‐最低賃金‐最低賃金〕 〔賃金(民事)‐賃金請求権の発生‐争議行為・組合活動と賃金請求権〕 ウ 組合活動時間の控除について (ア) 被告は、就業時間中に原告らが組合活動を行っていた時間については、所定労働時間の実数から控除すべきである旨主張する。 (イ) この点、争いのない事実並びに証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、組合との間で、就業時間中に組合活動を行った場合について、労働時間から控除しない旨の合意をしており、実際に、本件請求期間中、原告ら乗務員が組合活動を行う旨の届出を行った場合でも、労働時間から控除しないという取扱いをしてきたことが認められる。 (ウ) そうすると、最低賃金の計算に当たり、所定労働時間の実数から組合活動時間を控除すべきである旨の被告の主張は理由がない。 〔賃金(民事)‐最低賃金‐最低賃金〕 かかる事実を前提とすれば、被告と原告ら乗務員との間では、特勤手当は、被告と原告ら乗務員との間の雇用契約とは別個に労務を提供し、別個に報酬を支払う旨の合意が成立していたと認めるのが相当である。 そうすると、特勤手当を歩合給に算入することは相当ではない。〔中略〕 ウ 以上より、総労働時間は、1か月の所定労働時間の実数+(公出日数×7.5時間)+賃金台帳上の残業時間+賃金台帳に算入されていない残業時間+賃金台帳上の深夜残業時間+賃金台帳に算入されていない深夜残業時間により算出でき、具体的には、B勤務乗務員らについては別紙裁判所算定表〈9〉’欄のとおり、その余の原告ら乗務員については別紙裁判所算定表〈9〉欄のとおりとなる。 (6) 差額の計算 被告は、原告ら乗務員に対し、最低賃金を下回る賃金しか支払っていなかった場合、原告らに対し、その差額を支払う義務を負う。 さらに、基本となる給与が最低賃金を下回っていた場合、それに基づいて支払われていた割増賃金にも不足があったこととなるから、差額に対する割増賃金も支払う必要がある。 〔賃金(民事)‐割増賃金‐割増賃金の算定方法〕 2 争点2(割増賃金等の未払の有無)について〔中略〕 各月の時間外割増賃金は、各月の固定給に対する時間外割増賃金(固定給(精励給を含む。)÷1か月の所定労働時間の実数×1.25×時間外労働時間)と、各月の歩合給に対する時間外割増賃金(歩合給÷1か月の総労働時間×0.25×時間外労働時間)とを合算した額であり、各月の深夜割増賃金は、各月の固定給に対する深夜割増賃金(固定給(精励給を含む。)÷1か月の所定労働時間の実数×0.25×深夜労働時間)と各月の歩合給に対する深夜割増賃金(歩合給÷1か月の総労働時間×0.25×深夜労働時間)とを合算した額である。 以上により計算すると、本件において、被告とB勤務乗務員らとの間の雇用契約に基づき、B勤務乗務員らに支給されるべき割増手当(基本給が支給されていない部分については、その基本給を含む。)は、別紙裁判所算定表〈18〉欄のとおりとなる。これに対し、被告がB勤務乗務員らに支給してきた割増賃金は、別紙裁判所算定表〈13〉欄のとおりであり(争いがない。)、その差額は同表の〈19〉欄のとおりである。そして、差額の各人当たりの合計額は、別紙裁判所算定表のB勤務未払賃金計欄記載のとおりである。 よって、被告は、雇用契約に基づき、B勤務乗務員らに対し、同欄記載の金員を支払う義務を負う。 また、本件は、1勤務当たりの所定労働時間を超える勤務に対する割増手当及び深夜割増手当のうち未払の部分の支払を求めるものであるから、労働基準法37条1項及び4項に照らしても、被告は、前記と同様の支払義務を負う。 〔賃金(民事)‐賃金の支払い原則‐賃金請求権と時効〕 〔雑則(民事)‐時効‐時効〕 4 争点5(消滅時効の成否)について (1) 前記第2の1(5)で判示したとおり原告らが本件訴訟を提起したのは平成23年10月20日であるところ、被告は、労働基準法115条の適用により、少なくとも平成21年10月20日以前の勤務に係る請求権は時効により消滅していると主張している。 これに対し、原告らは、被告が第一次精算を行ったことにより、時効の中断ないし時効援用権の喪失が生じた旨主張する。〔中略〕 よって、平成21年10月20日以前に支払期の到来した平成21年9月度分以前の勤務に係る請求権については、時効により消滅したものと認められ、原告らの請求のうち、同期間の勤務に係る部分は理由がない。 〔雑則(民事)‐付加金‐付加金〕 5 争点3(労働基準法114条に基づく付加金の請求)について 前記2で判示したとおり、被告は、B勤務乗務員らに対し、時間外労働に対する割増賃金及び深夜労働に対する割増賃金の支払を怠った違反がある。 そして、本件において、被告は、本訴提起前及び本訴提起後に一部の未払賃金の存在を認め、口頭弁論終結時までに原告らに対して一定の支払を行ってきたものの、本訴提起後においても、根拠を示さないまま不就労時間がある旨の主張を繰り返すなどしてきた。 かかる事情に照らすと、前記4で判示した本訴が提起された日において時効期間の徒過していない平成21年10月度以降の割増賃金の合計額と同額の付加金の支払を命じることが相当である。 |