ID番号 | : | 08949 |
事件名 | : | 遺族補償給付等不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 国・中央労働基準監督署長(三井情報)事件 |
争点 | : | 腹部の塞栓症で死亡したシステム会社のプロジェクトマネージャーの妻が遺族補償年金等を求めた事案(妻勝訴) |
事案概要 | : | 情報システム会社のプロジェクトマネージャーAが腹痛を訴えて病院に搬送され、小腸の摘出手術を受けたが翌日死亡したことにつき、Aの妻Xが、Aの死亡は業務に起因するものとして労災保険法による遺族補償年金及び葬祭料の支給を求めたが、いずれも不支給とする旨の処分がなされたため、その取消しを求めた事案である。 東京地裁は、業務起因性があるというためには、その業務に従事しなければ当該疾病は生じなかったという条件関係だけでなく、両者の間に相当因果関係があることが必要で(最二小判昭和51年11月12日)、相当因果関係の有無は、その疾病が業務に内在する危険の現実化として発症したと認められるか否かによって判断すべきとし(最三小判平成8年1月23日)、本件疾病について判断するには、脳・心臓疾患に関する新認定基準を参考とするのが相当とした。その上で、Aは、少なくとも本件疾病発症前5か月以上の長期にわたり、月平均100時間以上の時間外労働を要し、多忙かつストレスが多く精神的緊張を伴う「著しい疲労の蓄積」をもたらす業務に継続従事したことによって心房細動等の不整脈を発症し、心房内の血流が滞ったことによって形成された塞栓子が大動脈弁を通過して上腸間膜動脈内に移動し、その下部の血管を閉塞したことで、小腸部分を広範囲に壊死させた結果(塞栓症)死亡するに至ったと推認されるから、本件死亡は業務に起因するものと解するのが相当とした。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法7条 労働者災害補償保険法17条 労働者災害補償保険法16条 労働基準法79条 労働基準法80条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険
/業務上・外認定
/脳・心疾患等 労災補償・労災保険 /補償内容・保険給付 /遺族補償(給付) 労災補償・労災保険 /補償内容・保険給付 /葬祭料 |
裁判年月日 | : | 2013年3月29日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成23(行ウ)450 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働判例1077号68頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険‐業務上・外認定‐脳・心疾患等〕 〔労災補償・労災保険‐補償内容・保険給付‐遺族補償(給付)〕 〔労災補償・労災保険‐補償内容・保険給付‐葬祭料〕 1 本件疾病の業務起因性の判断枠組みについて 当該疾病について業務起因性があるということができるためには、労働者がその業務に従事しなければ当該結果(疾病)は生じなかったという条件関係が認められるだけでは足りず、両者の間に法的に見て労災補償を認めるのを相当とする関係(相当因果関係)があることが必要である(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁参照)。 そして、このような相当因果関係の有無は、労災補償保険制度の前提となる使用者の補償責任が危険責任に基づく無過失責任であること等に照らすと、当該疾病が、当該業務に内在する危険の現実化として発症したと認められるか否かによって判断すべきである(最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決・裁判集民事178号83頁参照)。すなわち、〈1〉 当該業務による負荷が、日常業務を支障なく遂行できる労働者にとって、客観的に当該疾病を発症させるに足りる程度の負荷と認められること(危険性の要件)、〈2〉 当該業務による負荷が、その他の業務外の要因に比して相対的に有力な原因となって本件疾病を発症させたと認められること(現実化の要件)が必要であるというべきである。 また、本件疾病(血栓症または塞栓症による上腸間膜動脈の閉塞)の発生機序は、血管の閉塞を原因とする脳・心臓疾患に類似するから、その業務起因性(相当因果関係)を判断するに当たっては、脳・心臓疾患に関する新認定基準の考え方を参考とするのが相当である。〔中略〕 以上のとおり、一郎は、少なくとも本件疾病の発症前5か月以上の長期間にわたって、月平均100時間以上の時間外労働を要し、多忙かつストレスが多く精神的緊張を伴う「著しい疲労の蓄積」をもたらす業務に継続して従事したことによって心房細動等の不整脈を発症し、心房内の血流が滞ったことによって形成された塞栓子が、大動脈弁を通過し動脈を流れて上腸間膜動脈内に移動し、その下部の血管を閉塞し、当該血管から血液の供給を受けていた小腸部分を広範囲に壊死させた結果(塞栓症)、本件手術の甲斐もなく死亡するに至ったと推認されるものであるから、本件疾病による一郎の死亡は、業務に起因するものと解するのが相当である。 4 結論 以上の次第で、本件疾病の業務起因性を否定し、原告の遺族補償年金等の請求を認めなかった本件処分は違法であるから、取消しを免れない。 よって、主文のとおり判決する。 |