ID番号 | : | 08956 |
事件名 | : | 地位確認等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 淀川海運事件 |
争点 | : | 海上運送及び限定貨物運送会社トレーラー運転手(労組執行委員長)が、整理解雇を争った事案(労働者敗訴) |
事案概要 | : | 海上運送及び限定貨物運送会社Yの労組委員長であったトレーラー運転手Xが、Yが行った整理解雇は、有効要件を欠き、また不当労働行為に当たり無効であるとして、地位確認と賃金支払を求めた事案の控訴審判決である。 第一審の東京地裁は、本件解雇時点において、Yには高度の人員削減の必要性がなく、また十分な解雇回避努力がなされておらず、人選の合理性にも公正さに欠くとして、手続の相当性判断以前に解雇は無効とした。Y控訴。 第二審の東京高裁は、まず〔1〕整理解雇の必要性について、会社は年間の売上高を上回る長短期の借入金債務を負担しており、人員の削減以外に有効な対策がなかった、〔2〕解雇回避努力義務の履行については、ワークシェアリング制再開について労働組合の同意が得られず、希望退職者4名募集に対しても応募者3名で、Xには退職勧奨を断られ、また技能職員から事務職員に配置転換することも困難であったこと等から、Yは回避努力を講じていたと認められ、〔3〕被解雇者の合理性については、他の従業員との関係から見てXを被解雇者に選定した判断には一定の合理性が認められる、〔4〕手続の妥当性については、Xの反発や不信感を増幅させるようなYの対応もなかったわけでもないことがうかがわれるものの、なお解雇の違法性を基礎付けるほどの手続上の問題があったとは認められないとして整理解雇は権利濫用に当たらず有効と判示した。さらに不当労働行為についても、Xの第1次訴訟等の提起は組合活動として行われたものではないことは明らかであり、本件整理解雇が労組法7条1号所定事由にも3号所定事由にも当たらないとして原審判決を取り消し、Xの請求を棄却した。 |
参照法条 | : | 労働契約法16条 労働組合法7条 民法1条 |
体系項目 | : | 解雇(民事)
/整理解雇
/整理解雇の必要性 解雇(民事) /整理解雇 /整理解雇の回避努力義務 解雇(民事) /整理解雇 /整理解雇基準・被解雇者選定の合理性 解雇(民事) /整理解雇 /協議説得義務 解雇(民事) /整理解雇 /整理解雇の要件 |
裁判年月日 | : | 2013年4月25日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成23(ネ)6678 |
裁判結果 | : | 原判決一部取消し、一部棄却 |
出典 | : | 労働経済判例速報2177号16頁 |
審級関係 | : | 第一審/東京地平成23.9.6/平成22年(ワ)第28847号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇(民事)‐整理解雇‐整理解雇の要件〕 第3 当裁判所の判断 1 被控訴人は、本件解雇が無効である理由として、〈1〉整理解雇の要件を欠き、解雇権の濫用に当たること、〈2〉淀川海運ユニオンに対する不当労働行為(不利益的取扱い、支配介入)に当たることを主張しているので、以下、これらの無効事由について順次検討するところ、当裁判所は、本件解雇が、有効な整理解雇とされるための要件を具備している上、不当労働行為に当たるとも解されないから、解雇権の濫用には当たらず、本件解雇は有効なものというべきであり、被控訴人の本訴請求(判決確定後の賃金等の支払を求める部分を除く。)はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおりである。 2 解雇権の濫用について (1) 本件解雇はいわゆる整理解雇であり、対象とされた従業員に対して、経営上の必要から人員削減を実現するために、従業員にとって生計の途である労働契約関係を解消することの当否が争点となっている事案である。そして、労働契約法によれば、解雇が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、解雇権の濫用として無効となる(同法16条)のであり、整理解雇は、従業員の側には責めに帰すべき事由がないにもかかわらず、使用者による一方的な解雇の意思表示によって雇用関係を解消するというものであるから、整理解雇を巡る事情を総合的に考慮し、使用者の経営上の必要性と、解雇される従業員の利害得失とを比較考量して、その効力を判断する必要があるというべきである。そして、整理解雇の有効性については、具体的には、〈1〉整理解雇(人員整理)が経営不振など企業経営上の十分な必要性に基づくものか否か、又はやむを得ない措置と認められるか否か(整理解雇の必要性)、〈2〉使用者が人員整理の目的を達成するための整理解雇を行う以前に、労働者の不利益がより小さく、客観的に期待可能な措置を取っているか否か(解雇回避努力義務の履行)、〈3〉被解雇者の選定方法が相当かつ合理的なものであるか否か(被解雇者選定の合理性)、〈4〉整理解雇の必要性とその時期、規模、方法等について使用者が説明をして、労働者と十分に協議しているか否か(手続の妥当性)などを総合的に勘案した上で、整理解雇についてのやむを得ない客観的かつ合理的な理由の有無という観点からその効力を判断するのが相当である。 〔解雇(民事)‐整理解雇‐整理解雇の必要性〕 (2) そこでまず、整理解雇の必要性(人員削減の必要性)について検討する。 ア 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、平成20年9月に発生したいわゆるリーマン・ショックによる景気減速の影響を受けて、1か月当たりの売上げが急減し(それ以前の月平均の売上金額に比べて、同年11月は約15%、同年12月は約25%減少した。)、燃料費の高騰等も加わり、その採算性が悪化していたこと、同年12月には、顧客の淀川製鋼所等から代金の繰上げ支払を受け、また、消費税や社会保険料の支払を留保して、ようやく従業員の給与等の支払原資を確保できるほどの厳しい経営状態であったこと、控訴人は、平成13年頃以降、金融機関からの新規融資が受けられず、上記のような淀川製鋼所等からの支援を得ることができたものの、同社等からは事業規模に合わせた設備や人員の縮小を求められていたこと、そのような経緯を踏まえて、控訴人は、平成21年1月15日付けの本件会社再生計画(書証略。原判決4頁15行目参照)を策定したことが認められる。〔中略〕 以上のような経緯ないし状況を踏まえて、控訴人は、平成22年5月に希望退職者4名を追加募集したものの、応募者が予定数に達しなかったことから、本件解雇に踏み切った(原判決7頁5行目以下参照)のであり、本件解雇時において人員削減の必要性があったものと認めるのが相当である(なお、甲38(書証(略))によれば、控訴人は、平成23年8月と平成24年6月にそれぞれ1名の技能職員を新規採用していることが認められるが、いずれも本件解雇後のことであり、平成22年11月、同年12月、平成23年1月、同年3月及び平成24年9月に各1名の技能職員が退職していることに照らすと、上記の新規採用の事実により、上記の結論が左右されるものではない。)。 〔解雇(民事)‐整理解雇‐整理解雇の回避努力義務〕 (3) 次に、解雇を回避するための努力義務の履行について検討する。〔中略〕 そして、(2)で認定した控訴人の当時の経営状態に加え、これを打開する適切な改善策が見当たらない状況において、上記のような本件解雇に至る経緯を考慮すると、控訴人は、被控訴人を解雇するに先立って、これを回避するための方策を講じていたものと評価するのが相当である。 〔解雇(民事)‐整理解雇‐整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕 (4) 次に、人選の合理性について検討する。〔中略〕 ウ 技能職員を削減する必要がある状況のもとにおいて、勤務成績等に照らし、被控訴人以外に被解雇者として選定されてもやむを得ないといえる職員がいたにもかかわらず、上記の嫌悪感等を主たる理由として被控訴人が選定されたというのであればともかく、そのような職員の存在を認めるに足りる証拠のない本件においては、そもそも労働契約が労使間の信頼関係に基礎を置くものである以上、他の従業員と上記のような関係にあった被控訴人を、業務の円滑な遂行に支障を及ぼしかねないとして、被解雇者に選定した控訴人の判断には企業経営という観点からも一定の合理性が認められるというべきであって、これを不合理、不公正な選定ということはできない。なお、本件においては、控訴人の経営陣も、イで述べた従業員と同様の被控訴人に対する強い嫌悪感を抱いており、そのことが整理解雇の対象者の人選に影響していることは否定できないところであるが、そのような事情があったからといって、被控訴人を対象者に選定したことが直ちに不合理、不公正なものとなるものではないと解するのが相当である。 〔解雇(民事)‐整理解雇‐協議説得義務〕 (5) 以上のような人員削減の必要性や、本件解雇の回避に向けた控訴人の対応及び人選の合理性を総合的に考慮すると、本件解雇は整理解雇が有効とされるための実体的な要件を具備しているものというべきであり、本件解雇が控訴人による解雇権の濫用に当たり違法なものであったとは解することができず、また、控訴人が保有車両の減少を理由に人員を削減する方針を採っていることは被控訴人も承知していたところであり、控訴人は本件解雇に際して、「会社並びに従業員間の協調性に欠けるという点を重視して、選定した」などと解雇理由等について被控訴人に説明しているのであるから、本件解雇に至る手続においても、これを個別に見ると被控訴人の反発や不信感を増幅させるような控訴人の対応もなかったわけではないことはうかがわれるものの、なお解雇の違法性を基礎付けるほどの手続上の事由があったとは認めることができないというべきである。 したがって、本件解雇は、整理解雇が有効とされるための要件を具備しているから、解雇権の濫用に当たらず、有効というべきである。 |