ID番号 | : | 08957 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 社会福祉法人新島はまゆう会事件 |
争点 | : | 介護施設を定年退職後再雇用され後に雇止めされた調理員が雇止めの無効を争った事案(労働者勝訴) |
事案概要 | : | 介護施設を経営する社会福祉法人Yを定年退職後再雇用され、後に雇止めされた調理員Xが、雇止めは無効であるとして、地位確認と雇止め後の月例賃金及び期末手当の支払を求めた事案である。 東京地裁は、まず締結された再雇用契約書及び交付された労働条件通知書から「契約更新なし」の文言が敢えて削除されていたという経緯に照らし、本件再雇用契約では更新の合意が含まれていたと認定し、またXを調理員として配置することが可能であったかについては、Xを含めた人員体制は、要介護度等に応じて要求されるきめ細かなサービスの質を維持するために必要な体制であったというべきであり、また、1年以上の育休を取得する予定であった従業員が急遽職場に復帰していることなどを併せ考慮すれば、調理室の人員が過剰になったとも認められないことなどから、Xを調理室に配置することは可能であったとした。さらに、Xは調理業務以外の業務に就くことも拒否しておらず、このことから更新要件はすべて満たしているとして、再雇用職員就業規則9条1項に基づき本件再雇用契約は更新されたものと認められるとした。その上で、この間の賃金相当部分の支払を命じた一方で、判決確定日の翌日以降の金員の支払を求める部分は訴えの利益を欠き不適法として斥けた(遅延損害金利率については、商事法定利率6%の請求に対し民法所定の5%とした)。 |
参照法条 | : | 労働基準法9章 労働契約法6条 民法623条 民法404条 民事訴訟法135条 |
体系項目 | : | 解雇(民事) /短期労働契約の更新拒否(雇止め) /短期労働契約の更新拒否(雇止め) |
裁判年月日 | : | 2013年4月30日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成24(ワ)19511 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却、一部却下 |
出典 | : | 労働判例1075号90頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇(民事)‐短期労働契約の更新拒否(雇止め)‐短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕 第4 当裁判所の判断 1 争点1について 原告が本件再雇用契約締結のために署名押印したのは、「契約更新なし」の記載が削除された労働契約書であること、原告には当該労働契約書と同じ時期に「契約更新なし」の記載が削除された労働条件通知書が交付されたことは、(証拠略)によって認められる。 したがって、本件再雇用契約の締結の経過は、原告主張のとおりであったと認められ、「契約更新なし」の文言が敢えて削除されたという経緯に照らすと、本件再雇用契約は更新の合意が含まれていたものと認められる。 2 争点2について (1) まず、原告を調理員として配置することが可能であったかを検討する。 ア(ア) 被告の調理室においては、平成23年4月に調理員が新たに採用され、8名体制となった。この8人と栄養士の合計9人で、午前5時から午後7時30分までシフトを組んで、朝昼夕各四十数食を提供していた(〈証拠略〉、弁論の全趣旨)。 (イ) 平成23年12月に調理員のAが産休に入った。Aは、生まれた子が1歳6か月に達するまで育休を連続して取得することを希望していたため(なお、Aは、実際には、平成24年3月に調理員として復帰している。)、従前から調理員として勤務していたBが定年後再雇用された(〈証拠略〉、弁論の全趣旨)。 (ウ) 原告の退職が発表された後の平成24年2月23日に開かれた調理室会議では、職員の中から、昨年度調理員が増員になった分、多忙な中でもサービスの向上を図ってきたのに、原告の退職でサービスの低下が懸念されるとの趣旨の発言がされた(〈証拠略〉)。 イ 上記認定の調理室会議における職員の発言に照らすと、平成23年の調理員の増員は、村の雇用政策への協力という趣旨もあったかもしれないが、調理室のサービス等の向上を図るという趣旨もあり、8人体制は、施設入所者各人の要介護度等に応じて要求されるきめ細かなサービスの質を維持するために必要な人員体制であったというべきである。また、1年以上の育休を取得する予定であったAが平成24年3月には急遽職場に復帰していることも併せ考慮すると、本件通知時に調理室の人員が過剰であったとは認められない。 なお、平成24年2月9日に障害者1名を調理員として雇用することが決定されているが、食器の洗浄程度の業務しか予定されておらず(〈証拠略〉)、上記障害者の雇用により調理室の人員が過剰になったとも認められない。 したがって、本件通知時においても、原告を調理室に配置することは可能であったと認められる。 (2) そして、自殺した介護職員の後任の枠は確実にあったといえる。なお、原告は、本件再雇用契約更新の申出に際して、調理業務に就くことを希望しているが(〈証拠略〉)、それ以外の業務に就くことを拒否していたという事情は見当たらない。 3 したがって、原告は、本件更新要件をすべて満たす者と認められ、平成24年2月1日に更新の申込みをしたことにより、再雇用職員就業規則9条1項に基づいて本件再雇用契約が更新されたと認められる。 4 訴えの利益を欠く部分 本件訴えのうち、本判決確定日の翌日以降の金員の支払を求める部分は訴えの利益を欠き不適法である。 5 遅延損害金利率 原告は、遅延損害金利率を商事法定利率6%とするが、本件においては商事法定利率を適用する根拠がないので、民法所定の年5%を遅延損害金利率とする。 6 結論 よって、原告の請求は、主文第2項ないし第4項の範囲で理由がある。なお、民訴法64条但書を適用して、すべての訴訟費用を被告に負担させることとする。 |