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ID番号 : 08958
事件名 : 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 : NTT東日本-北海道ほか事件
争点 : 電信電話会社から雇止めを受け転籍に合意した労働者らが錯誤無効により地位確認等を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 : 電信電話会社Y1との間でそれぞれ期間の定めのある雇用契約を締結し、契約社員として複数回契約を更新していた労働者Xらが、Y1から雇止めすると告げられ、Y1との雇用契約を合意解約して関連労働者派遣会社Y2へ転籍する旨の意思表示をしたことにつき、当該意思表示の錯誤無効などを主張して、Y1との雇用契約上の地位を有することの確認と、精神的損害に対する慰謝料の連帯支払を求めた事案の控訴審判決である。 第一審の札幌地裁は、解雇に関する法理は類推適用されないなどとして、労働者らの請求を棄却した。Xが控訴。 第二審の札幌高裁は、〔1〕業務の消滅、業務量の減少等の業務上の都合がある以上、たとえ自らの部署では雇止めがないものと期待したとしても、それを合理的なものと認めることはできないこと、〔2〕契約更新の際に一応の説明が行われており、また、業務の消滅、業務量の減少等を理由として契約社員を複数名雇止めすることが毎年行われていたことからしても、契約更新の手続が形式的、機械的なものになっていたとは認め難いこと、〔3〕人員配置基本方針等に鑑み契約更新手続において個別面談がなされていることなどを併せ考慮すれば、この時期にも個別面談がなされていたものと認めるのが相当であること等から、本件に解雇に関する法理が類推適用されるとは認められず、雇止めは有効であり雇用契約は期間満了により終了すべきものとして、控訴を棄却した。
参照法条 : 労働契約法16条
労働基準法2章
民法709条
体系項目 : 解雇(民事) /短期労働契約の更新拒否(雇止め) /短期労働契約の更新拒否(雇止め)
労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求
裁判年月日 : 2013年5月17日
裁判所名 : 札幌高
裁判形式 : 判決
事件番号 : 平成24(ネ)478
裁判結果 : 控訴棄却
出典 : 労働経済判例速報2177号9頁
審級関係 : 第一審/札幌地平成24.9.5/平成22年(ワ)第1928号/08869/
評釈論文 :
判決理由 : 〔解雇(民事)‐短期労働契約の更新拒否(雇止め)‐短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
 第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所も、控訴人らの請求のうち、控訴人ら各自と被控訴人テレマートとの間において控訴人ら各自が被控訴人NTT北海道との雇用契約上の地位を有することの確認を求める訴えは、いずれも確認の利益がなく、不適法であるから、却下すべきであり、被控訴人テレマートに対するその余の請求及び被控訴人NTT北海道に対する請求は、いずれも棄却すべきであると判断する。その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決書「事実及び理由」欄の第3の1及び2に記載のとおりであるから、これを引用する。〔中略〕
 「c この点に関し、控訴人Aは、雇用契約更新に対する合理的期待の有無を判断する上では、当該契約社員の勤務する部署における雇止めの有無が重要であると主張するが、業務の消滅、業務量の減少等の業務上の都合というものが全く想定されない部署であれば格別、そうでない限り、たとえ自らの部署では雇止めがないものと期待したとしても、それを合理的なものと認めることはできないから、控訴人Aの主張は採用することができない。」〔中略〕
 「 これに対し、控訴人Aは、契約更新の際の説明は、契約書に基づく形式的なものであり、雇止めの具体的な可能性があると認識させるような説明はなされていなかったと主張する。しかしながら、契約更新の際に一応の説明が行われていたと認められることは前示のとおりであり、実際に、業務の消滅、業務量の減少等を理由として契約社員を複数名雇止めすることが毎年行われていたことからしても、雇用契約更新の手続が形式的、機械的なものになっていたとは認め難く、他にこの認定を左右するに足りる的確な証拠はない。したがって、控訴人Aの上記主張は理由がない。」〔中略〕
 「個別面談を行った旨の証人Gの証言及び陳述(証拠略)があり、同証人は、平成18年2月に個別面談を行い、その際又はその直後に契約書を交付した旨陳述しているところ(書証略)、控訴人B及び控訴人Cは、個別面談はされなかった旨供述及び陳述する(証拠略)とともに、同年4月の契約更新に関する電子メール(書証略)を提出する。この点、確かに、上記電子メールは同年3月になってから契約書を手交したことを示しているから、同年2月ころに契約書を手交したという点に関しては、証人Gの陳述は間違いであったといわざるを得ない。しかしながら、契約書の手交と個別面談の実施とは別の事柄であり、上記電子メールは、あくまでも契約書の手交に関するものであって、個別面談の実施に関するものではないから、個別面談を行ったという点に関してまで、証人Gの証言及び陳述が信用できないと即断すべきことにはならないのであって、控訴人B及び控訴人Cの供述及び陳述を直ちに採用することもできない。前示の人員配置基本方針等に鑑み、その後の契約更新の手続において個別面談がされていることや、控訴人Aに関して検討したところも併せ考慮すれば、この時期にも個別面談が行われていたものと認めるのが相当であり、他にこの認定を左右するに足りる的確な証拠はない。」〔中略〕
 「控訴人Bの場合と同様に、控訴人Cと被控訴人NTT北海道との間の雇用契約に係る契約書(書証略)にも、退職及び解雇に関する事項、契約の更新及びその基準等の記載があることや、前示のとおり、実際に、業務の消滅、業務量の減少等を理由として契約社員を複数名雇止めすることが毎年行われていたことからしても、控訴人Cの上記各供述は容易に採用することができないというべきである。」〔中略〕
 「 これに対し、控訴人B及び控訴人Cは、契約更新の際の説明は、契約書に基づく形式的なものであり、雇止めの具体的な可能性があると認識させるような説明はなされていなかったと主張する。しかしながら、契約更新の際に一応の説明が行われていたと認められることは前示のとおりであり、実際に、業務の消滅、業務量の減少等を理由として契約社員を複数名雇止めすることが毎年行われていたことからしても、雇用契約更新の手続が形式的、機械的なものになっていたとは認め難く、他にこの認定を左右するに足りる的確な証拠はない。したがって、控訴人B及び控訴人Cの上記主張は理由がない。」
 (43) 原判決書32頁2行目の「いうべきである」の次に次のとおり加える。
 「(なお、控訴人B及び控訴人Cは、大阪地裁平成23年9月29日判決が本件に類似する事案について解雇に関する法理を類推適用した裁判例であると主張するが、この判決が本件とは事案を異にし、本件で参照するのに適切とはいえないことは前示のとおりである。)」
 (44) 原判決書32頁5行目の本文冒頭から6行目末尾までを次のとおり改める。
 「以上によれば、控訴人らと被控訴人NTT北海道との間の雇用契約に解雇に関する法理が類推適用されるとは認められず、被控訴人NTT北海道による雇止めが許されないとはいえないので、控訴人らと被控訴人NTT北海道との間の雇用契約は、いずれも期間満了により終了すべきものであるから、被控訴人NTT北海道との間の雇用契約が継続していることを前提に同契約上の地位の確認を求める控訴人らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。したがって、被控訴人NTT北海道が、控訴人らを雇止めすることができないことを知っていたことを前提に、被控訴人テレマートと共謀して、その意思に反して被控訴人テレマートへの転籍に応じさせたという、雇用契約上の債務不履行又は同契約上の地位を違法に侵害する不法行為があったと認めることもできないから、控訴人らの被控訴人らに対する慰謝料請求も、いずれも理由がない。」