ID番号 | : | 08969 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | プロッズ事件 |
争点 | : | パワーハラスメント等の有無と時間外手当の支払い等が争われた事案(労働者一部勝訴) |
事案概要 | : | (1)原告(X)が被告会社(Y1)の代表者である被告(Y2)から継続的にパワーハラスメント(以下「パワハラ」という。)やセクシュアルハラスメント(以下「セクハラ」という。)等を受けたことに対する損害賠償と時間外労働に対する割増賃金等の支払いを求めたもの。 (2)東京地裁は、社会保険への加入遅延についてのみ損害を認め、その余の請求はすべて棄却した。 |
参照法条 | : | 民法415条 民法709条 民法724条 会社法350条 会社法429条 労働基準法37条 労働基準法39条 労働基準法115条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/安全配慮(保護)義務・使用者の責任 労基法の基本原則(民事)/男女同一賃金、同一労働同一賃金 労基法の基本原則(民事)/均等待遇/セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント 賃金(民事)/割増賃金/支払い義務 賃金(民事)/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額人 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損 |
裁判年月日 | : | 2014年12月24日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成21年(ワ)34761号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 労働経済判例速報2238号11頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 争点1(Y2の違法なパワハラ・セクハラ等の有無)について Y2がX及びその他の従業員に対し、業務上の理由に基づく正当な職務行為の範囲を逸脱した恫喝行為等を日常的に行っていたとまで認めることはできない。 Yらの主張や、これに沿うY2の供述(書証略)及びその他の関連証拠(書証略)にも照らせば、Xの前記一連の時間外労働等が、Y1の指揮監督下にあるものとして割増賃金の対象となることはさておき(当該割増賃金については、前述のとおり、Y1において既にXに支払済みである。)、Y2による業務指示やY1の指揮監督の在り方が常軌を逸した「強要」に当たり、慰謝料請求を肯認するのが相当であるとまで認めることはできず、他にXの主張を認めるに足りる証拠はない。 関係証拠(書証略)からは、男女賃金差別が存在していたことを窺うことはできず、むしろ、各従業員の給与の差はキャリア・能力による「個体差」である旨のYらの主張を裏付けるものといえる。これらに照らしてみると、本件において、男女賃金差別の存在を認めることはできず、他にXの主張を認めるに足りる証拠はない。 Y2(書証略)及びYの従業員ら(書証略)の供述内容及び関連書証(書証略)に照らせば、Xに対しては、通院への配慮や業務量の調整等、Yら主張に係る一定の業務軽減配慮がなされていたものと認めるのが相当である。 別訴においてXによる賃金の減額による差額及び賞与の減額分相当額の支払請求の一部が認容され、その認容分に係る金額がY1により支払われているのであるところ、ここで改めてY1において既に履行済みの賃金減額に伴う差額分の支払義務及び賞与減額に伴う差額相当分の不法行為に基づく損害賠償義務に加えて、更に慰謝料請求を肯認すべき事情まで認めるに足りる証拠はない。 労働災害の隠蔽等の不当な目的で退職強要や恫喝がなされた事実を認めることはできず、他にXの主張を認めるに足りる証拠はない。 Xに無断で一方的に自己都合退職の扱いをしたものと評価することはできず、慰謝料請求を肯認すべき事情があると認めることはできない。 Y2が、Xの前記一連の欠勤を無断欠勤と捉え、これに基づくY1内での発言や訴訟上の主張を行うことを「でっち上げ」とまでいうことはできず、Xの主張は採用できない。 Y1の対応は、労災保険申請手続上、通常想定されている事業主の対応でないとはいえるが、(中略)診断書の提出依頼に応じないXに係る対応が前記のようなものとなったものであるから、上記Y1の対応について、これを直ちに不当な「拒否」と評価するのは必ずしも相当ではなく、他に慰謝料請求を肯認すべきほどの事情を認めるに足りる証拠はない。Xの前記主張は採用することができない。 Xは、Y1の職場内における水着姿で肌を露出した女性の人形の展示(中略)がセクハラ行為であるとまで認めることはできない。 Xは諸々の事実を主張するが、(中略)社会保険加入手続の遅滞に係るXの主張を除いて、Yらの反論主張も踏まえて一連の証拠を検討するに、その存在自体を認め難いか、あるいは慰謝料請求を肯認すべきほどの事情であるとは認め難いというべきであって、Xの主張を採用することはできない。 Xの社会保険加入手続の遅滞の主張を取り上げて検討するに、(中略)Xは、Y2に対し、早急にXにつき社会保険の加入手続を取るように求めていたこと、Y2は、Xの上記求めにもかかわらず、約1年にわたり社会保険への加入手続を遅滞させていたことが認められる。そうすると、Y2は、Y1の代表取締役として、労働契約上、Xについて社会保険として厚生年金加入の手続を取ることをすべき義務を負いながら、あえて約1年にわたりその手続を怠って、違法にXの有する上記法律上保護される利益ないし期待権を侵害し、Xにおいて、将来における厚生年金の受給関係に被保険者期間が資格期間を満たさないなどの悪影響があるかもしれないという精神的負荷をかけ、この精神的負荷による精神的苦痛という損害を与えたことが認められるのであり、これは民法709条所定の不法行為となるべきものである。 XのYらに対する慰謝料及び弁護士費用の損害賠償請求は、社会保険加入手続の遅滞に係る部分について前記認定に係る金額の限度で理由があるというべきである。 争点2(Yらの不法行為に基づく割増賃金相当額の損害賠償義務の有無)について Xの当該不法行為に基づく損害賠償請求権は、平成26年2月14日の第24回弁論準備手続期日においてなされたYらのXに対する消滅時効の援用の意思表示により消滅したものと解される。 Xは、Yらによる消滅時効援用の意思表示につき、信義則違反を主張するが、争点1に関する前述の認定判断に照らすと、当該時効援用を信義則違反により無効と解すべき具体的事情があるとはいえず、他にXの主張を認めるに足りる証拠はない。 |