全 情 報

ID番号 08971
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 アメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッド事件
争点 業務外の疾病による療養休職期間満了による解雇が争われた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 (1)被告(Y)と雇用契約(労働契約)を締結した後、業務外傷病(うつ状態)により傷病休暇及び療養休職を取得した原告(X)が、療養休職期間満了時に休職事由が消滅したから、XY間の雇用契約がYの就業規則により終了するものではない等として地位確認等を求めたもの。
(2)東京地裁は、解雇は無効であるとした。  
参照法条 労働契約法9条
労働契約法10条
民法536条
体系項目 休職/休職の終了・満了
解雇(民事)/解雇事由/就労不能
就業規則(民法)/就業規則の一方的不利益変更/その他
裁判年月日 2014年11月26日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成25年(ワ)2363号
裁判結果 一部却下、一部認容
出典 労働判例1112号47頁
労働経済判例速報2234号20頁
審級関係 控訴
評釈論文 山添拓・季刊労働者の権利309号85~87頁2015年4月
判決理由 争点(1)(本件就業規則24条3項が原告を拘束するか。)についての判断
本件就業規則24条3項は、従来規定されていない「健康時と同様」の業務遂行が可能であることを、療養休職した業務外傷病者の復職の条件として追加するものであって、労働条件の不利益変更に当たることは明らかである。Yにおいて、従前から上記復職条件が業務外傷病者の復職条件として労使間の共通認識となっていたことや、本件変更前から本件内規の本件判定基準9項目により、上記の復職条件を満たすか否かを判断する運用をしていたことを認めるに足りる証拠はない。
そして、業務外傷病のうち特に精神疾患は、一般に再発の危険性が高く、完治も容易なものではないことからすれば、「健康時と同様」の業務遂行が可能であることを復職の条件とする本件変更は、業務外傷病者の復職を著しく困難にするものであって、その不利益の程度は大きいものである一方で、本件変更の必要性及びその内容の相当性を認めるに足りる事情は見当たらないことからすれば、本件変更が合理的なものということはできない。
したがって、本件変更は、労働契約法10条の要件を満たしているということはできず、本件就業規則24条3項がXを拘束する旨のYの主張を採用することはできない。
争点2(本件療養期間満了時において、Xの休職事由が消滅したか。)についての判断
業務外傷病により休職した労働者について、休職事由が消滅した(治癒した)というためには、原則として、休職期間満了時に、休職前の職務について労務の提供が十分にできる程度に回復することを要し、このことは、業務外傷病により休職した労働者が主張・立証すべきものと解される。
本件診断書及び本件情報提供書における、Xが就労可能であるとするC医師の診断の信用性を争う旨のYの主張は、いずれも採用することができない。
Yとしては、本件診断書及び本件情報提供書の内容について矛盾点や不自然な点があると考えるならば、本件療養休職期間満了前のXの復職可否の判断の際にC医師に照会し、Xの承諾を得て、同医師が作成した診療録の提供を受けて、Yの指定医の診断も踏まえて、本件診断書及び本件情報提供書の内容を吟味することが可能であったということができる。
Yは、そのような措置を一切とることなく、何らの医学的知見を用いることなくして、C医師の診断を排斥し、本件判定基準9項目のうち「⑦昼間の眠気がないこと」及び「⑨休職期間が満了するまでに問題なく職務が遂行できる健康状態に回復していること」を満たしていないと判断しているところ、そのようなYの判断は、Xの復職を著しく困難にする不合理なものであり、その裁量の範囲を逸脱又は濫用したものというべきである。
以上の検討によれば、Xの病状は、本件療養休職期間満了時において、少なくとも、本件傷病休暇取得前に現実に従事していた、Yの経理部給与課のチームメンバー(バンド25)の職務について労務の提供が十分にできる程度に回復したものと認めるのが相当である。