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ID番号 08974
事件名 給与等請求事件
いわゆる事件名 国家公務員給与減額事件
争点 非現業国家公務員の給与を減額する法改正の効力等が争われた事案(原告敗訴)
事案概要 (1)非現業国家公務員が、給与減額支給措置実施のために施行された給与改定・臨時特例法は憲法及びILO条約に違反し無効であるとして本法施行前の給与相当額との差額給与の支払を求め、選択的に、本法に基づき給与を支払った行為等が、国賠法上違法であるとして損害賠償を求め、また、内閣総理大臣が団体交渉を行わなかったこと等につき国賠法に基づく損害賠償を求めたもの。
(2)東京地裁は、請求のいずれも棄却した。  
参照法条 日本国憲法28条
日本国憲法72条
日本国憲法73条
国家賠償法1条
国家公務員法28条
国家公務員法64条
国家公務員法108条の5
1949年の団結権及び団体交渉権条約(第98号)6条
結社の自由及び団結権の保護条約(第87号)3条
国家公務員の給与の改定及び臨時特例に関する法律
体系項目 労基法の基本原則(民法)/国に対する損害賠償請求
賃金(民法)/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
裁判年月日 2014年10月30日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成24年(行ウ)347号/平成24年(行ウ)501号/平成24年(行ウ)502号 
裁判結果 棄却
出典 訟務月報61巻7号1327頁
判例時報2255号37頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 4 争点(1)ア(ア)(給与改定・臨時特例法は、人事院勧告に基づいていないことにより憲法28条等に違反するか)
給与改定・臨時特例法が人事院勧告に基づいていないことをもって、直ちに憲法28条に反するとはいえない。そして、当該立法が必要性がなく、又は、人事院勧告制度の本来の機能を果たすことができないと評価すべき不合理な立法といえるか否かは、後記5において、具体的に検討することとする。
5 争点(1)ア(イ)(給与改定・臨時特例法が立法の必要性がないこと又は立法内容が合理性を欠くことによって憲法28条等に違反するか)
給与改定・臨時特例法は、国の厳しい財政事情に加えて東日本大震災への対処の必要性に鑑み立法されたものであるところ、厳しい財政事情に加えて東日本大震災への対処の必要性が存在することにおいて、同法の必要性は否定できず、この点に関する国会の判断を不合理なものとはいえない(公務員連絡会は、「東日本大震災からの復旧・復興は大変困難な道のりであり、公務員連絡会としても被災者・被災地とともに歩んで行かなければならないという思いをもって今回の提案・交渉結果を受け入れることとする。」との見解(中略)を、人事院総裁は、一定の留保は付けつつも「東日本大震災という未曾有の国難に対処するに当たっては、平時とは異なって、内閣及び国会において、大所高所の立場から、財源措置を検討することはあり得ることと考える。」との見解(中略)をそれぞれ声明している。)。したがって、給与改定・臨時特例法が必要性が認められないにもかかわらず立法されたものということはできない。
給与減額支給措置が恒久的、あるいは長期間にわたるものや、減額率が著しく高いものであればともかく、今回、前記(中略)の必要性のもと、東日本大震災を踏まえた2年間という限定された期間の臨時的な措置として、平均7.8%という減額率で実施された本件給与減額支給措置について、人事院勧告制度がその本来の機能を果たすことができなくなる内容であると評価することは相当ではない。
6 争点(1)ア(ウ)(本件の団体交渉について違憲・違法な点が認められるか、また、それによって給与改定・臨時特例法が憲法28条等に違反するか)
6回の交渉経過をみると、国公労連は、人事院勧告制度に基づかない給与減額支給措置は憲法違反であるなどとして政府提案にはおよそ賛成できないことを前提として交渉に臨み、一方、政府は、国公労連の求めに応じて給与減額支給措置の必要性について資料(略)を示し、また、景気への影響、公務員の士気への影響、地方公務員の給与への影響及び現行制度に基づかない交渉形式などについての見解を示すなどしたが、給与減額支給措置の法案提出そのものを撤回しないという態度を譲ることはなく、結局のところ、両者間において給与臨時特例法案の実質的内容について協議が行われることはなく、交渉を終了した。このような経過を辿った主な原因は、給与臨時特例法案が違憲であるかどうかという点に関して両者の間に基本的な見解の相違があることによると考えられるが、この点に関する政府の見解については前記のとおり不相当なものとはいえない。また、合計6回の交渉がされ、国公労連の要求・主張に対して政府は一応資料を提示するなどして回答・説明を行っていることを考慮すると、政府の上記交渉における対応については、議題の内容につき実質的検討に入ろうとしない交渉態度であったとか、合意達成の意思のないことを当初から明確にした交渉態度をとったとはいえない。そして、前記(3)(略)のとおりの勤務条件法定主義の観点から一定の限度がある団体交渉義務の範囲内では、政府の対応も止むを得ないものであったといわざるを得ず、原告国公労連の団体交渉権を侵害する違憲、違法な行為があったと評価することは相当ではない。
7 争点(1)イ(給与改定・臨時特例法に基づく給与減額支給措置がILO第87号条約及びILO第98号条約に違反するか)
ILO第87号条約及びILO第98号条約は、いずれも国家公務員の団体交渉権を保障したものではなく、内閣総理大臣が人事院勧告に基づく給与法案を国会に提出しないことや国会議員が給与改定・臨時特例法案を可決・成立させた行為が、これらの条約に反するものとはいえず、原告らの主張には理由がない。
8 争点(2)(個人原告らの国家賠償請求)
人事院勧告に基づかずに制定された給与改定・臨時特例法に違憲・違法な点はなく、前記6のとおり、給与改定・臨時特例法の制定に際し、原告国公労連の団体交渉権の侵害を認めることはできないから、内閣総理大臣に個人原告らが主張するような義務または義務違反は認められない。
9 争点(3)(原告国公労連の国家賠償請求)
前記4、5のとおり、給与改定・臨時特例法に違憲・違法な点は認められず、前記6のとおり、給与改定・臨時特例法の制定に関して、原告国公労連の団体交渉権が侵害されたと認めることはできないから、原告国公労連の主張には理由がない。