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ID番号 08976
事件名 損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 肥後銀行事件
争点 過労によるうつ病自殺に対する事業主の不法行為責任等が争われた事案(原告一部勝訴)
事案概要 (1) 被告(Y)の従業員であった者(亡A)の遺族である原告(X)らが、Yは業務の遂行に伴う従業員の疲労や心理的負荷が過度に蓄積して心身の健康を損なうことがないように注意する義務を怠ったとして、不法行為等に基づき損害賠償を求め提訴したもの。
(2)東京地裁は、遺族年金について損益相殺する一方、保険契約に基づく弔慰金は損益相殺を認めなかった。
なお、熊本労働基準監督署長は、亡Aの自殺について、業務災害であると認定し、原告X1は、葬祭料及び遺族補償年金の支給を受けており、また、原告X1は、厚生年金保険法に基づき、遺族厚生年金の支給を受けている。
参照法条 民法709条
労働者災害補償保険法
厚生年金保険法1条
厚生年金保険法58条
厚生年金保険法59条
体系項目 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/安全配慮(保護)義務・使用者の責任
労災補償・労災保険/損害賠償等との関係/労災保険と損害賠償
裁判年月日 2014年10月17日
裁判所名 熊本地
裁判形式 判決
事件番号 平成25年(ワ)520号
裁判結果 一部認容、一部棄却、確定
出典 判例時報2249号81頁
労働判例1108号5頁
審級関係
評釈論文
判決理由 亡Aは、平成24年4月23日から同年10月17日まで、継続的に長時間労働に従事しており、同年6月20日以降の時間外労働時間は常に1か月合計100時間を超えており、同人が死亡する前の1か月については合計209時間にまで上っていたことが認められる。
使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意すべき義務を負うところ、Yは、上記のような亡Aの著しい長時間労働を認識し得たにもかかわらず(争いなし)、漫然と、上記のような過重な長期間労働に従事させていたのであるから、Yは上記の注意義務を怠ったものと認められる。
本件遺族年金規定に基づく遺族年金について(争点(1))
遺族年金規定(証拠略)に基づく遺族年金は、在職中に死亡した従業員の遺族の生活安定と遺児の育英に資することを目的としており(1条)、本人が在職中死亡したときに、本人が死亡当時扶養していた配偶者及び満23歳未満の遺児(ただし、満18歳以上満23歳未満の遺児については高等学校又は大学に在学中の者及びこれに準ずると認められる者に限る)を対象に支給することとされている(2条1項、2項)。他方、厚生年金保険法にもこれらと同趣旨の規定が置かれており(同法1条、58条1項1号、59条)、このように対象者の死亡に際して遺族に支給すべき年金について、本件遺族年金規定と厚生年金保険法が同趣旨の規定を定めていることに照らせば、これらの年金は同じ性質を有するものと解するのが相当である。不法行為により死亡した被害者の相続人が、その死亡を原因として厚生年金保険法に基づく遺族厚生年金の受給権を取得したときは、被害者の逸失利益全般との関係で、支給を受けることが確定した遺族厚生年金を控除すべきものと解される(最高裁平成16年12月20日第二小法廷判決・判例タイムズ1173号154頁)こととの均衡からすれば、本件遺族年金規定に基づく遺族年金についても、これをX1及びX2らの逸失利益分の損害から各々控除するのが相当であり、これに反するXらの主張は採用できない。
本件保険取扱規定に基づく弔慰金(争点(2))
従業員が死亡した場合に、生命保険会社との間における総合福祉団体定期保険契約に基づき支給される保険金は生命保険契約に基づく保険金としての性質を有するものと解される。そして、生命保険契約に基づいて給付される保険金は、既に払い込んだ保険料の対価の性質を有し、不法行為ないし債務不履行の原因と関係なく支払われるべきものであるから、これを損益相殺の対象とすることはできないというべきである。