ID番号 | : | 08992 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | ザ・トーカイ(本訴・懲戒解雇)事件 |
争点 | : | 営業協力費の無断依頼等を理由とする解雇の効力が争われた事案(労働者一部勝訴) |
事案概要 | : | (1) 被告(株)ザ・トーカイ(Y)に雇用されていた原告(X)が、①Yによる懲戒解雇は無効であると主張して労働契約上の地位の確認等を求め、②YがXに対して巨額の損害賠償請求通知書を送付したことが、Xに対する不法行為に当たると主張し、慰謝料の支給等の支払いを求め提訴したもの。 (2) 東京地裁は、解雇は無効であるとした。 |
参照法条 | : | 労働契約法15条 民法536条 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇/解雇権の濫用 懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/職務上の不正行為 解雇(民事)/解雇事由/不正行為 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/労働者の損害賠償義務 |
裁判年月日 | : | 2014年7月4日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成25年(ワ)5726号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1109号66頁 |
審級関係 | : | 控訴 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 争点①(本件懲戒解雇の有効性)について 使用者が労働者に対して行う懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由として、一種の秩序罰を課(科)するものであるから、具体的な懲戒の適否は、その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものであり、また、使用者は当該懲戒処分当時認識していながら懲戒事由に挙げていなかった非違行為については後に懲戒事由として追加することは許されないというべきである。 Yは、本件懲戒解雇当時、本件懲戒解雇対象行為①(本件営業協力費についての無断依頼-編集者注)、②(Yへの虚偽報告-編集者注)及び⑤(本件確認書提出の隠蔽行為-編集者注)については、解雇事由とはしていなかったと解するほかなく、また、これらの事実を、本件懲戒解雇の理由として追加することもできないと言わざるを得ない。 したがって、本件懲戒解雇の有効性の判断において検討対象とすべきは、本件懲戒解雇対象行為③(印鑑盗用-編集者注)及び④(本件確認書提出-編集者注)のみと解することが相当である。 事実経過を踏まえると、E社による本件営業協力費の拠出がXの依頼に端を発するものであったことは、H営業部長も了解していたというべきである。 その上で、H営業部長(ないしY)において、E社が本件営業協力費を拠出し、その結果、本件案件の受注に至れば、Yにとってもプラスであるとの判断の下、Xをして、E社に対し、リスクを負わせることになる本件営業協力費の支払を止めさせなかったものと解される。 前記経緯に、A社がYに営業協力費を返還するとの念書を取得していたこと及びYのE社に対する直接の債務負担行為ではないこと、E社訴訟において、E社のYに対する請求は棄却されており、Yには損害が発生していないこと等を併せ考えれば、本件懲戒対象行為③及び④について、その悪質性が高く懲戒解雇がやむを得ないものであると評価するまでには至らない。 また、本件懲戒解雇以前に本件懲戒処分が行われていることを考慮に入れてもなお、Xの本件懲戒解雇対象行為③及び④をもって、Xの懲戒解雇が相当であるとまでいうことはできない。 以上のとおり、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとも認められないから、Yによる懲戒権の濫用によるものであり、無効である(労働契約法15条)。 争点②(本件普通解雇の有効性)について ここでは(懲戒解雇の意思表示では-編集者注)、懲戒解雇事由を具体的に特定し、就業規則の懲戒解雇に関する定めを摘示しているものの、普通解雇をも行う意思であることについては、何ら記載がない。また、他に本件懲戒解雇が普通解雇の意思表示を包含するものであることを窺わせる事情は見当たらない。 したがって、YのXに対する本件懲戒解雇の意思表示に、普通解雇の意思表示が包含されていたと認めることはできず、仮に、この点をおくとしても、前記で説示したところに照らせば、Xを普通解雇とするにもなお相当性を欠くというほかない。 よって、本件普通解雇に関するYの主張には、理由がない。 争点③(本件懲戒解雇2の有効性)について Yは、本件懲戒解雇対象行為①~⑤(本件確認書提出-編集者注)に加え、J社の登録失効の件はXの責に帰すべきものであって、懲戒解雇事由に加える旨主張する。 しかしながら、J社の登録が失効したのは、本件懲戒解雇2より7年近く前の平成16年の出来事である上、登録失効当時や、平成20年に行われた本件懲戒処分時にも、この件について、Yが、Xに対する懲戒処分等、Xの責任追及行為に出たとの事実は証拠上何ら認められないのであって、Yの主張する本件懲戒解雇事由の存在を認めるに足りない。 したがって、Yの本件懲戒解雇2に関する主張は、理由がない。 争点④(本件普通解雇2の有効性)について J社の登録失効の件がXの責に帰すべきものであったと認めるに足りないことは、前記で説示したとおりでるから、よって、Yの本件普通解雇2に関する主張にも、理由がない。 争点⑤(解雇期間中の未払賃金額)について 原告は、解雇期間中の労務の提供を、Yの責に帰すべき事由によって履行できないため、反対給付たる賃金請求権を失わず、Yは、Xに対し、解雇期間中の賃金を支払う義務を負っている(民法536条2項)。 争点⑥(解雇期間中の賞与請求権の有無)について 本件各解雇が無効であって、Xが、民法536条2項により賃金請求権を失わないとしても、賞与についてこれと同様に解すべき根拠はないといわざるを得ない。 よって、本件解雇期間中において、XのYに対する賞与請求権は発生せず、この点に関するXの主張に理由はない。 争点⑦(YのXに対する不法行為の成否) 一般に、債権者が債務者に対し、金銭債務の履行をするに当たり、債権者としては根拠がある請求であると思っていたが、後にその理由がないことが判明した場合に、直ちに不法行為が成立するということはできず、債務の履行請求又は受領が暴行、脅迫等を伴うものであったり、債権者において、当該債権が現実的、法律的根拠を欠くものであることを知りながら、又は容易に知りえたのに、あえてその請求をしたりしたなど、その行為の態様が社会通念に照らして著しく相当性を欠くという例外的な場合に限り、請求行為が不法行為を構成すると解される。 Yが、Xを畏怖させる目的で、法律上請求根拠のない損害賠償請求権をあえてXに対し主張したという根拠は見いだせないところである。 したがって、YのXに対する本件通知書の送付行為は、不法行為を構成しないというべきであり、この点に関するXの主張には、理由がない。 |