全 情 報

ID番号 09000
事件名 給与等請求事件
いわゆる事件名 学校法人市邨学園(名古屋経済大学短期大学部)事件
争点 本人の病気を配慮しない異動命令に対する労務不提供・賃金不払いが争われた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 (1) 大学の准教授として勤務していた原告(X)が、娘の自殺のために医師から悲嘆反応と診断され、適応障害と不眠症の症状が続いていたところ、大学(Y)がXに週4日の出勤を義務づけ、業務内容の具体性に欠ける資格支援講座担当としての研究室待機を命じたため、それ以降の給与等の支払を求め提訴したもの。
(2) 名古屋地裁は、昇給後の給与の額を除き、Xの主張を容認した。
参照法条 民法536条
民法623条
体系項目 配転・出向・転籍・派遣/配転命令権の濫用
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/安全配慮(保護)義務・使用者の責任
賃金(民事)/賃金請求権の発生/就労拒否(業務命令拒否)と賃金請求権
賃金(民事)/賃金請求権の発生/定期昇給
賃金(民事)/賞与・ボーナス・一時金/賞与請求権
裁判年月日 2014年4月23日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 平成24年(ワ)2624号
裁判結果 一部認容、一部棄却、確定
出典 労働判例1098号29頁
審級関係
評釈論文 長谷川聡・労働法学研究会報66巻4号34~39頁2015年2月15日
判決理由 争点(1)(Xが、Yに対して労務を提供しないのは、Yの責めに帰すべき事由による履行不能か。)について
Yは、前記(略)自宅待機命令以降、Xからの労務の提供を受けることを拒否し続ける一方で、自宅待機を名目的に解除するために実質に欠ける資格支援講座担当命令を、Xの体調に対する配慮をも欠いたまま発しているものと認められるから、本件各命令は、業務上の必要性に乏しく、かつ、使用者の安全配慮義務を尽くそうとすることなく発せられたものとして違法との評価を免れず、実質的にはXの労務提供の受領を拒絶する状態が継続しているものと解するのが相当である。
そうすると、Xには、本件各命令に従う義務はなく、XがYに対して労務を提供できないのは、Yの責めに帰すべき事由による履行不能と認められる。
争点(2)(Xの給与の額)について
昇給については、Yの給与規程第5条1項において、「教員が1年を下らない期間を良好な成績で勤務したときは1号俸上位の号俸に昇給させることができる。」と定められていることが認められるのであるから、Xが毎年当然に昇給するものと認めるのは相当でない。
そして、Xが、平成19年から平成22年にかけて毎年1号俸ずつ昇給していたことを考慮しても、Yにおいて、勤務成績に関わりなく毎年1号俸以上の号俸に昇給させる慣習があったとは認めるに足りない。
争点(3)(Xの賞与の額)について
特段の事情がない限り、Xにおいても同様の賞与請求権が具体的に発生していると認めるのが相当であるところ、証拠(証拠略)によれば、Yは、前記前提事実記載の額(略)しかXに対して支給しておらず、これを正当化する事情は窺われない。
したがって、Xは、Yに対し、上記賞与の計算式によって計算された賞与の支給を受けることができたと認めるのが相当であり、その額は、以下のとおり(略)である。
なお付言すると、XはYに対して現実に労務を提供していないが、これは、Yの責めに帰すべき事由によるものと認められるのは前記で判示したとおりであるから、XはYに対して現実に労務を提供していないとの理由で、賞与を減額されたり、賞与請求権を失ったりすることはない。
まとめ
以上によれば、Xにおいて、平成23年1月以降、当然に昇給していたものと認めることはできないから、Xの請求のうち、同月分の給与から平成24年3月分までの給与について、定期昇給した場合の給与と実際に支給された給与の差額の支払を求める部分には理由がなく、棄却すべきである。
他方、平成22年度及び平成23年度の賞与については、減額を正当化する事情はなく、Xの請求のうち、上記各賞与の未払分の支払を求めるものについて、前記認定額と実際に支給された額の差額の支払を求める部分については理由があるから、その限りで認容すべきである。
また、XがYに対して労務を提供できないのは、Yの責めに帰すべき事由によるものであり、Xの請求のうち、平成24年4月分以降の給与及び平成24年度の賞与の支払を求める部分について、前記認定額の限りで理由があるから、その限りで認容すべきである。