全 情 報

ID番号 09013
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 メイコウアドヴァンス事件
争点 社長らによるパワーハラスメントと急性ストレス反応の発症・自殺の間の相当因果関係が争われた事案(原告一部勝訴)
事案概要 (1) 金属琺瑯加工会社(Y1)の従業員として勤務していた亡Aの相続人である原告ら(Xら)が、Aが自殺したのは、Y1の代表取締役である被告(Y2)及びY1の監査役である被告(Y3)のAに対する暴言、暴行あるいは退職強要といった日常的なパワーハラスメントが原因であるなどとして、損害賠償金の支払等を求め提訴したもの。
(2) 東京地裁は、Y1らによるパワーハラスメントと急性ストレス反応の発症・自殺の間の相当因果関係を認め、損害賠償金等の支払を命じた。
なお、労働基準監督署長は、業務上災害として遺族補償年金等の支給を決定している。
参照法条 民法709条
会社法350条
体系項目 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 2014年1月15日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 平成24年(ワ)1947号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 判例時報2216号109頁
労働判例1096号76頁
労働経済判例速報2203号11頁
審級関係 控訴後和解
評釈論文
判決理由 Aの各言動の時期及び内容に照らすと、同言動は、(中略)の被告Y2の暴言や暴行が原因となっていたものであり、同年秋ころ以降には、Aは、仕事でミスをすることのほかに、ミスをした場合にY2から暴言や暴行を受けるということについて、不安や恐怖を感じるようになり、これらが心理的なストレスとなっていたと解するのが相当である。
さらに、Aは、その後も、ミスを起こして、Y2から暴言や暴行を受けていたと認めるのが相当であるから、本件暴行を受けるまでの間に、Aの心理的なストレスは、相当程度蓄積されていたと推認できる。
Aは、自殺7日前に、全治約12日間を要する傷害を負う本件暴行を受けており、その原因について、たとえAに非があったとしても、これによって負った傷害の程度からすれば、本件暴行は仕事上のミスに対する叱責の域を超えるものであり、本件暴行がAに与えた心理的負荷は強いものであったと評価するのが相当である。
さらに、Aは、自殺3日前には、本件退職強要を受けているところ、その態様及び本件退職届の内容からすれば、本件退職強要がAに与えた心理的負荷も強いものであったと評価するのが相当である。
以上によれば、短期間のうちに行われた本件暴行及び本件退職強要がAに与えた心理的負荷の程度は、総合的に見て過重で強いものであったと解されるところ、(中略)、Aは、警察署に相談に行った際、落ち着きがなく、びくびくした様子であったこと、警察に相談した後は、「仕返しが怖い。」と不安な顔をしていたこと、自殺の約6時間前には、自宅で絨毯に頭を擦り付けながら「あーっ!」と言うなどの行動をとっていたことが認められることに照らすと、Aは、従前から相当程度心理的ストレスが蓄積していたところに、本件暴行及び本件退職強要を連続して受けたことにより、心理的ストレスが増加し、急性ストレス反応を発症したと認めるのが相当である。
以上の経緯と、(中略)本件遺書の記載内容を併せ考えると、Aは、上記急性ストレス反応により、自殺するに至ったと認めるのが相当である。
したがって、Y2の不法行為とAの死亡との間には、相当因果関係がある。
Y2は被告会社の代表取締役であること、及び、Y2によるAに対する暴言、暴行及び本件退職強要は、Y1の職務を行うについてなされたものであることが認められるのであるから、会社法350条により、Y1は、Y2がAに与えた損害を賠償する責任を負う。