ID番号 | : | 09019 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 日本アスペクトコア事件 |
争点 | : | 労働契約締結時の説明義務とパワーハラスメントが争われた事案(原告敗訴) |
事案概要 | : | (1) 原告(X)が被告(Y)に対し、労働契約締結時において労働内容について説明する義務を怠り、また、Y担当者からパワーハラスメント(同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為のこと)を受け、損害を被ったとして、損害賠償を求めたもの。 (2) 東京地裁は、説明義務違反があるとは認めず、パワーハラスメント(以下、パワハラという。)による不法行為責任も認めなかった。 |
参照法条 | : | 労働契約法4条 労働基準法15条 民法709条 民法715条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事)/労働条件の原則 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/労働義務の内容 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/安全配慮(保護)義務・使用者の責任 |
裁判年月日 | : | 2014年8月13日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成25年(ワ)20297号 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働経済判例速報2237号24頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 労基法15条1項にいう労働契約締結時とは、労働契約が締結された時点であると解すれば、本件において労働契約が締結された時点としては、労働契約書が作成された7月2日であり、同時点においては、労働契約書上、Xの業務内容は「デザイン業務」と正確に明示されていることからすれば、本件において、労基法15条1項に違反しているとはいえない。 ただし、本件においては、採用決定通知書がXに交付された時点(6月28日頃)において、いわゆる内定の段階すなわち、解約権留保付きの労働契約が成立したと解することもできる。そうすると、採用決定通知書がXに交付された段階をもって労基法15条1項にいう労働契約締結時とみることもでき、そうすると本件では、採用決定通知書が交付された段階において誤った業務内容が原告に伝えられていることから、労働契約締結時に誤った労働条件が明示されているとして、労基法15条1項に違反していると解することもできる。 しかしながら、(中略)労基法15条1項違反の法的効果としては労基法15条2、3項に定めるところに留まるものであり、直ちに説明義務違反が成立するものではない。また、本件のように、正式な労働契約書が作成された時点においては誤りのない労働条件が明示され、Xもこれに応じて、労働契約書に署名押印し、労働契約が成立している場合には、最終的にはYにおいて説明義務が果たされているものといえ、説明義務違反があるとは認めがたい。 次に、信義誠実義務違反について検討するに、確かに、Yが、Xに採用決定通知書を交付した段階において、誤って業務内容をコピー・製本業務と伝えていることは認められる。しかしながら、正式な労働契約書の作成段階では業務内容がデザイン業務であることが明示されていることに加え、Xは、7月3日にデザイン業務は自分には無理であるとして断り、7月4日以降、コピー・製本業務に従事しており、Xは、希望どおりの業務に従事することができ、その後、労働契約期間の満了をもって労働契約が終了しているところである。そうすると、本件において、YがXに対して、内定段階において、本来はデザイン業務とすべきところ、誤ってコピー・製本業務と明示したことは認められるものの、労働契約書が作成された段階では正しい業務内容が明示されていること、実際に、Xは、希望していたコピー・製本業務に従事することができていることからすれば、Yにおいて信義誠実義務違反が成立するとは認めがたい。 Xは、その他、CやEからパワハラ的な言動を受けたと主張し、その旨述べる。 そもそも、パワハラについては、上記第2の1(略)のとおり、一応の定義付けがなされ、行為の類型化が図られているものの、極めて抽象的な概念であり、これが不法行為を構成するためには、質的にも量的にも一定の違法性を具備していることが必要である。具体的にはパワハラを行ったとされた者の人間関係、当該行為の動機・目的、時間・場所、態様等を総合考慮の上、企業組織もしくは職務上の指揮命令関係にある上司等が、職務を遂行する過程において、部下に対して、職務上の地位・権限を逸脱・濫用し、社会通念に照らし客観的な見地からみて、通常人が許容し得る範囲を著しく超えるような有形・無形の圧力を加える行為をしたと評価される場合に限り、被害者の人格権を侵害するものとして民法709条の所定の不法行為を構成するものと解するのが相当である。 本件についてみるに、そもそも、Xがパワハラを受けたと主張する時期や前後の経緯などは明確でなく、そもそも、Xの主張するところをもって、民法上の不法行為が成立しうるものといえるのか疑問であるし、その点をおくとしても、CやEは、Xに対して、Xが主張するような言動をとったことはないと否定しており、Xの供述以外に、Xの主張を裏付ける客観的な証拠もない。 以上からすれば、本件においてXが主張するように、Yに不法行為責任が生じるようなEやCによるパワハラの存在を認めることはできない。 |