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ID番号 09024
事件名 損害賠償請求控訴、同附帯控訴事件
いわゆる事件名 国(護衛艦たちかぜ〔海上自衛隊員暴行・恐喝〕)事件
争点 いじめ自殺の予見可能性と先輩自衛官らの指導監督責任が争われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1) 海上自衛官として護衛艦の乗員を務めていた者の遺族ら(Xら)が、同人(A)の自殺は、先輩自衛官による暴行・恐喝が原因であり、上司職員には安全配慮義務違反があったとして、国(Y1)及び先輩自衛官(Y2)に対し損害賠償等を求め提訴したもの。
(2) 横浜地裁は、暴行・恐喝及び、上司の指導監督義務違反を認定したものの、自殺についての予見可能性を否定して、死亡によって発生した損害を認めず、請求の一部のみを認容したため、Xらが控訴したところ、東京高裁は、自殺を予見することが可能であったとして、原審判決を変更し、死亡によって発生した損害も認めた。
参照法条 国家賠償法1条
国家賠償法2条
民法709条
民法710条
民法711条
民事訴訟法247条
体系項目 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 2014年4月23日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成23年(ネ)3738号/平成23年(ネ)6634号
裁判結果 原判決変更、附帯控訴棄却、確定
出典 判例時報2231号34頁
労働判例1096号19頁
労働経済判例速報2213号9頁
審級関係 一審 横浜地裁/H23.1.26/平成18年(ワ)1171号
評釈論文
判決理由 争点(1)(被控訴人Y2の責任)について
被控訴人Y2のAに対する上記暴行の中には、Y2がAの仕事ぶりにいらだちを感じた際に、先輩隊員として指導的立場にあったY2が業務上の指導と称して行ったものが含まれており、それらについては、外形的にみてY1の職務行為に付随してされたものとして、Y1が国賠法1条1項に基づき損害賠償責任を負う反面、その範囲で、Y2の個人としての責任は免除される。
しかし、上記認定のY2による暴行の大部分は、エアガンの撃ちつけを含め、Y2の機嫌が悪いときや単にAの反応を見ておもしろがるときなど、業務上の指導という外形もなく行われている上、上記恐喝は、Y2の職務の執行とは全く無関係に行われたものであることが明らかである。そして、後記のとおり、これらがAの自殺の原因になったものと認められる。
したがって、Y2は、Y1の職務と無関係に行われたこれらの暴行及び恐喝につき、個人としての不法行為責任を負うものと認められる。
争点(2)(Y1の責任)について
Y1は、Y2のAに対する暴行のうち、業務上の指導と称して行われたものにつき、国賠法1条1項に基づく責任を負うほか、Y2の上司職員において、Y2に対する指導監督義務違反があったと認められる場合には、上司職員の職務執行につき違法な行為があったものとして、同項に基づく責任を負う。
K第2分隊長は、(中略)平成16年5月中旬頃、Aから、Y2にたまにふざけてガスガンで撃たれることがある旨の申告を受けている。(中略)直ちにエアガン等の使用の実態等について調査して、自ら同人に対し、持込みを禁止されている私物のエアガン等を取り上げ、また、エアガン等で人を撃つなどの暴行をしないように指導・教育を行ったり、又は上司に報告して指示を仰ぐなどするべきであった。
しかし、(中略)K第2分隊長は、Aのかかる申告を受けても、何らの措置を講じることもなく、上司に報告等も行っていない。この点においてK第2分隊長はY2に対する指導監督義務に違反していたものといわざるを得ない。
C先任海曹は、(中略)艦内の規律を乱すものであるとしてY2のエアガン等を取り上げるか、少なくともエアガン等を持ち帰るように指導すべきであったのに、何らの措置も講じなかった。
また、C先任海曹は、同年6月頃、Aが突然、髪型をパンチパーマにしたこと、その背後にY2の強要などの規律違反行為がある可能性があることを認識しながら、Y2やHへの事情聴取など必要な調査を尽くさなかった(中略)。C先任海曹には、この点についてもY2に対する指導監督義務違反があった。
さらに、C先任海曹は、平成16年10月1日、Aの身体にYにエアガン等で撃たれた形跡があるとの情報を得たにもかかわらず、Yによる暴行の実態について必要な調査を尽くさず、上司への報告もしなかった。そして、C先任海曹は、Y2に対し、「人に向けて撃つな。」との注意をしたのみで、エアガン等を取り上げることをせず、かえって、その翌日、Y2に頼まれ、引き続きY2がエアガン等を艦内において所持することを黙認した(中略)。この点もC先任海曹の指導監督義務違反というべきである。
E班長には、班長として、Y2の規律違反行為や粗暴な行動をやめさせる機会は十分にあったと認められるのであり、それにもかかわらず、これを放置した点において、Y2に対する指導監督義務違反が認められ、その責任は重いといわざるを得ない。
争点(3)(因果関係)について
Aは、Y2から暴行及び恐喝を受けることに非常な苦痛を感じ、それが上司職員の指導によって無くなることがなく、今後も同様の暴行及び恐喝を受け続けなければならないと考え、自衛官としての将来に希望を失い、生き続けることがつらくなり、自殺を決意し実行するに至ったものと認めるのが相当である。
Aは、少なくとも親しかった同僚には、Y2から受けた被害の内容を告げ、そのことに対する嫌悪感を露わにし、自殺の1か月ほど前から自殺をほのめかす発言をしていたのであるから、上司職員らにおいては、遅くとも、C先任海曹にY2の後輩隊員に対する暴行の事実が申告された平成16年10月1日以降、乗員らから事情聴取を行うなどしてY2の行状、後輩隊員らが受けている被害の実態等を調査していれば、Aが艦内においても元気のない様子を見せ、自殺を決意した同月26日の夜までに、Aが受けた被害の内容と自殺まで考え始めていたAの心身の状況を把握することができたということができる。
そして、前記認定のとおり、Aは、同月1日にC先任海曹からY2に対して指導が行われたことを親しかった同僚等に報告していたことからすると、C先任海曹の指導によりY2の暴行等が無くなることを強く期待していたことが推察されるところ、上司職員において上記調査を行い、その時点でY2に対する適切な指導が行われていれば、Aが上記期待を裏切られて失望し自殺を決意するという事態は回避された可能性があるということができる。
したがって、Y1の上記主張(略)は採用することができず、前記事実関係の下において、Y2及び上司職員らは、Aの自殺を予見することが可能であったと認めるのが相当である。