全 情 報

ID番号 09032
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 日本航空(整理解雇)事件
争点 会社更生手続中に更生管財人が行った整理解雇の有効性が問われた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 (1) Y(日本航空、被告)の会社更生手続中に更生管財人が行った整理解雇の対象となったXが、整理解雇は無効であるとして、労働契約上の地位にあることの確認と、解雇後、平成23年1月支払期から本判決確定までの賃金の支払を求めるとともに、Xに対する整理解雇や退職勧奨が違法なものであったとして、損害賠償を求め提訴したもの。
(2) 大阪地裁は、本件整理解雇は無効であるが、本件整理解雇や退職勧奨が不法行為に当たるということはできないとした。
参照法条 労働契約法16条
体系項目 解雇(民事)/整理解雇/整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 2015年1月28日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成23年(ワ)8408号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 判例時報2282号121頁/判例タイムズ1421号187頁/労働判例1126号58頁/労働法律旬報1840号72頁
審級関係
評釈論文 増田尚・労働法律旬報1840号15~18頁2015年5月25日
森戸英幸・ジュリスト1481号4~5頁2015年6月
判決理由 〔解雇(民事)/整理解雇/整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
 (1) 人選基準の合理性について
ア 本件整理解雇は、対象とされる労働者に解雇されるに足りる責めに帰すべき事由がないにもかかわらず行われるものである以上、仮に人員削減の必要性が肯定できるとしても、解雇されるか否かを分ける本件人選基準の設定については、もちろん使用者側の裁量が認められることは否定できないものの、恣意的なものであってはならず、解雇されなかった労働者との比較において、当該労働者に解雇を受忍させるに足りる合理性が必要というべきである。
イ 本件整理解雇における人選基準は、前提事実(8)ア、ウのとおりであり、(a)病欠・休職等基準(復帰日基準も含む)、(b)人事考課基準、(c)年齢基準で構成されている。(中略)
エ 以上を総合考慮すると、本件人選基準は前記ウで述べたとおり、当初の人選基準案に現在乗務復帰できた者は本件整理解雇の対象から除外するという復帰日基準を追加しながら、その基準日を、同基準を提示した平成22年11月15日ではなく、当初の人選基準案を提示した同年9月27日に遡らせた点において、同月1日から同月27日までに復職した労働者が本件整理解雇を免れることと比較した場合に、上記趣旨で設定された復職日基準の追加が提示された同年11月15日までに復職できている点は同じであるにもかかわらず、同年9月28日から同年11月15日までに復職した者が依然本件整理解雇の対象者とされることになり、その余の点を判断するまでもなく不合理といわざるを得ない。
〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外 の損害賠償〕
(1) しかし、〈1〉については、整理解雇が無効であり、雇用契約上の地位を有することが確認され、いわゆるバックペイが支払われることで、労働者としての地位が回復され、また、経済的損害も填補されることからすれば、整理解雇が解雇権の濫用に当たるとして無効となる場合であっても、そのことをもって直ちに不法行為が成立することになるものではなく、当該整理解雇が、当該労働者を排除することのみを目的としたり、当該労働者に対する嫌がらせとして行われたものであるなど、その手段・態様に照らし、著しく社会的相当性に欠けるものである場合に、不法行為に当たると解するのが相当である。
 これを本件についてみると、本件整理解雇が解雇権の濫用として無効となるのは、前記2認定説示のとおり、Yが当初の人選基準案を公表した後、その後、労働組合からの要望を受けて、復職日基準を追加して本件人選基準を公表したものの、復職日基準の基準日を人選基準が確定した日ではなく、当初の人選基準案を発表した日とした点が合理性を欠くと判断されたためであるものの、Yによるそのような復職日基準の基準日の設定が、Xに対する嫌がらせであるなど著しく社会的相当性を欠くとまではいえず、ほかに、本件整理解雇が、著しく社会的相当性に欠けるものであることをうかがわせる事情があることを認めるに足りる証拠もない。
(2) 〈2〉については、確かに、Yを退職する意思のないXとしては、退職勧奨を受けることが不本意であったことは推察に難くない。
 しかし、本件において、Yが行った退職勧奨は、電話あるいは面談によるものであるところ、面談の回数は2回、時間は約40分間、Y側の出席者の数も2名であったことからすれば、Xに対する退職勧奨が、その態様・方法において、社会通念上、相当性を欠くとまではいえず、ほかに、面談時におけるY担当者らの発言が、相当性を欠くものであったことをうかがわせる事情を認めるに足りる証拠もない。
 また、Xは、日に何度もYから電話がかかってきた旨主張するが、Y担当者が常軌を逸した時間あるいは回数にわたって電話をかけたことを裏付ける証拠はなく、仮に、電話あるいは面談の際に、Xが主張するとおり、Y担当者がXの休暇の時期を間違えた発言をしたこと、不在着信が10件以上あったことを前提としても、その内容・程度に鑑みると、やはり同様である。
(3) 以上からすると、本件において、Xに対する本件整理解雇や退職勧奨が不法行為に当たるということはできず、Xの損害賠償請求は理由がない。