ID番号 | : | 09035 |
事件名 | : | 損害賠償請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 社会医療法人T会事件 |
争点 | : | HIV情報を取得した医療法人による就労制限の違法性が争われた事案(労働者一部勝訴) |
事案概要 | : | (1) 社会医療法人Y(被告、控訴人)が経営するB病院(本件病院)の看護師であり、C大学病院で受けた血液検査の結果によりHIV陽性と診断されたX(原告、被控訴人)が、〈1〉同病院の医師から上記情報を取得した本件病院の医師及び職員がXの同意なく本件病院の他の職員らに伝達して情報を共有したこと(本件情報共有)が個人情報の保護に関する法律23条1項及び16条1項に反し、Xのプライバシーを侵害する不法行為であり、〈2〉その後に本件病院が行ったXとの面談(本件面談)においてHIV感染を理由にXの就労を制限したことがXの働く権利を侵害する不法行為であるとして、使用者であるYに対し、民法715条に基づき、損害賠償の支払を求め提訴したもの。 (2) 福岡地裁はXの請求を約120万円の限度で認容したため、Yが控訴したところ、福岡高裁は原判決を変更し、Xの請求を約60万円の限度で認容した。 |
参照法条 | : | 個人情報の保護に関する法律23条1項及び16条1項 民法709条 |
体系項目 | : | 労働契約/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償 |
裁判年月日 | : | 2015年1月29日 |
裁判所名 | : | 福岡高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成26年(ネ)第692号 |
裁判結果 | : | 原判決変更 |
出典 | : | 判例時報2251号57頁/労働判例1112号5頁/労働経済判例速報2239号21頁 |
審級関係 | : | 平成26年8月8日/福岡地方裁判所久留米支部/判決/平成24年(ワ)7号 上告、上告受理申立 |
評釈論文 | : | 浅井弘章・銀行法務2159巻7号68頁2015年6月 阿部理香・法政研究〔九州大学〕82巻1号117~131頁2015年7月 小宮文人・季刊労働法251号280~281頁2015年12月 長谷川栄治・経営法曹187号51~66頁2015年12月 淺野高宏・法律時報88巻3号129~132頁2016年3月 長谷川聡・専修法学論集126号383~400頁2016年3月 |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕 3 争点(1)(本件情報共有による不法行為の成否)について 個人情報保護法16条3項2号は、同意を得ない目的外利用が許容される要件として、本人の同意を得ることが困難であることを必要としているから、何らかの労務管理上の措置をとる必要があったとしても、HIV感染の情報をそうした目的に利用することについて事前にXの同意を得ることは十分に可能であったにもかかわらず、同意を得る努力もしないまま本件情報共有をしたことが違法であることに変わりはない。そして、このことは、法23条1項2号の「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合」に当たるため、同意を拒否したことが「本人の同意を得ることが困難であるとき」に当たる場合であったとしても、未だ同意が拒否されていない以上、同様である。 カ 以上によれば、上記特段の事情は認められず、本件情報共有は、Xのプライバシーを侵害する不法行為に当たる。(中略) 争点(2)(本件面談における不法行為の成否)について 本件情報共有も当時は担当医師2名を含めて6名に限られて、本件情報がY病院の職員に広く知られていたものではなく、Y病院は、9月14日の話合いにおいて本件情報共有の事実経過とともに勤務内容を変更して働くことも可能なことを説明している(甲12、乙イ14の1、2)ことに加えて、XのHIV感染や梅毒の状況等を考慮すると、Xの退職やうつ病とYの不法行為との間に相当因果関係は認められない。 |