ID番号 | : | 09038 |
事件名 | : | 懲戒処分無効確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 海遊館事件 |
争点 | : | セクハラ行為を理由としてなされた懲戒処分とそれを理由とする降格の有効性が問われた事案(労働者敗訴) |
事案概要 | : | (1) 海遊館の経営及び遊戯施設の経営等を目的とする株式会社Y(被告、被控訴人)の従業員であるX1、X2(原告、控訴人ら)が、セクシュアルハラスメント行為等を理由としてYから受けた懲戒処分(出勤停止)の無効、懲戒処分を受けたことを理由とする降格の無効を主張し、それぞれ、〈1〉懲戒処分の無効確認、〈2〉降格前の地位の確認、〈3〉懲戒処分による出勤日数の減少を原因として減額された給与及び賞与の減額分、〈4〉降格を原因として減額された給与の減額分の各支払を求め、さらに、無効な懲戒処分及び降格をしたことが不法行為に当たるとして、〈5〉慰謝料の支払を求め提訴したもの。 (2) 大阪地裁は、Xらの請求をいずれも棄却したためXらが控訴したところ、大阪高裁は原判決を変更してXらの請求を一部認めたためYが上告したところ、最高裁は、Yの原審での敗訴部分を破棄し、Xらの請求を棄却した。 |
参照法条 | : | 労働契約法15条 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇/懲戒権の濫用/懲戒権の濫用 労働契約(民事)/人事権/降格 |
裁判年月日 | : | 2015年2月26日 |
裁判所名 | : | 最高裁第一小 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成26年(受)第1310号 |
裁判結果 | : | 破棄自判 |
出典 | : | 裁判所時報1623号2頁/判例時報2253号107頁/判例タイムズ1413号88頁/労働判例1109号5頁/労働経済判例速報2243号3頁/労働法律旬報1843号81頁 |
審級関係 | : | 控訴審 平成26年3月28日/大阪高等裁判所/第6民事部/判決/平成25年(ネ)2860号 判例 一審 平成25年9月6日/大阪地方裁判所/第5民事部/判決/平成24年(ワ)5163号 確定 |
評釈論文 | : | 荒井太一、金丸祐子・NBL1046号77~80頁2015年3月15日 水町勇一郎・ジュリスト1480号4~5頁2015年5月 安倍嘉一・会社法務A2Z97号20~25頁2015年6月 山本圭子・労働法学研究会報66巻10号26~31頁2015年5月15日 山崎文夫・労働法律旬報1843号17~23頁2015年7月10日 山下昇・月刊法学教室418号49~54頁2015年7月 中丸隆・ジュリスト1483号80~82頁2015年8月 慶谷典之・労働法令通信2388号22~23頁2015年6月28日 幡野利通・労働法令通信2389号21~23頁2015年7月8日 野崎薫子・ジュリスト1486号95~98頁2015年11月 木村貴弘・経営法曹187号11~37頁2015年12月 山崎文夫・民商法雑誌151巻2号60~68頁2014年11月 柏崎洋美・京都学園大学経済経営学部論集1号37~45頁2015年11月 皆川宏之・判例評論684号(判例時報2277)203~209頁2016年2月1日 永石一郎・法の支配180号119~130頁2016年1月 |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇/懲戒権の濫用/懲戒権の濫用〕 X1は、営業部サービスチームの責任者の立場にありながら、別紙1のとおり、従業員Aが精算室において1人で勤務している際に、同人に対し、自らの不貞相手に関する性的な事柄や自らの性器、性欲等について殊更に具体的な話をするなど、極めて露骨で卑わいな発言等を繰り返すなどしたものであり、また、X2は、前記2(5)のとおり上司から女性従業員に対する言動に気を付けるよう注意されていたにもかかわらず、別紙2のとおり、従業員Aの年齢や従業員Aらがいまだ結婚をしていないことなどを殊更に取り上げて著しく侮蔑的ないし下品な言辞で同人らを侮辱し又は困惑させる発言を繰り返し、派遣社員である従業員Aの給与が少なく夜間の副業が必要であるなどとやゆする発言をするなどしたものである。このように、同一部署内において勤務していた従業員Aらに対し、Xらが職場において1年余にわたり繰り返した上記の発言等の内容は、いずれも女性従業員に対して強い不快感や嫌悪感ないし屈辱感等を与えるもので、職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切なものであって、その執務環境を著しく害するものであったというべきであり、当該従業員らの就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招来するものといえる。 しかも、Yにおいては、職場におけるセクハラの防止を重要課題と位置付け、セクハラ禁止文書を作成してこれを従業員らに周知させるとともに、セクハラに関する研修への毎年の参加を全従業員に義務付けるなど、セクハラの防止のために種々の取組を行っていたのであり、Xらは、上記の研修を受けていただけでなく、Yの管理職として上記のようなYの方針や取組を十分に理解し、セクハラの防止のために部下職員を指導すべき立場にあったにもかかわらず、派遣労働者等の立場にある女性従業員らに対し、職場内において1年余にわたり上記のような多数回のセクハラ行為等を繰り返したものであって、その職責や立場に照らしても著しく不適切なものといわなければならない。 そして、従業員Aは、Xらのこのような本件各行為が一因となって、本件水族館での勤務を辞めることを余儀なくされているのであり、管理職であるXらが女性従業員らに対して反復継続的に行った上記のような極めて不適切なセクハラ行為等がYの企業秩序や職場規律に及ぼした有害な影響は看過し難いものというべきである。(中略) 以上によれば、Xらが過去に懲戒処分を受けたことがなく、Xらが受けた各出勤停止処分がその結果として相応の給与上の不利益を伴うものであったことなどを考慮したとしても、X1を出勤停止30日、X2を出勤停止10日とした各出勤停止処分が本件各行為を懲戒事由とする懲戒処分として重きに失し、社会通念上相当性を欠くということはできない。 したがって、YがXらに対してした本件各行為を懲戒事由とする各出勤停止処分は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合に当たるとはいえないから、Yにおいて懲戒権を濫用したものとはいえず、有効なものというべきである。 〔労働契約(民事)/人事権/降格〕 Yは、Xらがそれぞれ出勤停止処分を受けたことを理由に、本件資格等級制度規程に基づき、XらをそれぞれM0からS2に1等級降格したものであるところ、同規程には降格事由の一つとして就業規則46条に定める懲戒処分を受けたことが規定されており、また、上記のとおりXらに対する各出勤停止処分は有効であるから、Xらについては降格事由に該当する事情が存するものといえる。 また、本件資格等級制度規程は、社員の心身の故障や職務遂行能力の著しい不足といった当該等級に係る適格性の欠如の徴表となる事由と並んで、社員が懲戒処分を受けたことを独立の降格事由として定めているところ、その趣旨は、社員が企業秩序や職場規律を害する非違行為につき懲戒処分を受けたことに伴い、上記の秩序や規律の保持それ自体のための降格を認めるところにあるものと解され、現に非違行為の事実が存在し懲戒処分が有効である限り、その定めは合理性を有するものということができる。そして、Xらが、管理職としての立場を顧みず、職場において女性従業員らに対して本件各行為のような極めて不適切なセクハラ行為等を繰り返し、Yの企業秩序や職場規律に看過し難い有害な影響を与えたことにつき、懲戒解雇に次いで重い懲戒処分として上記(3)のとおり有効な出勤停止処分を受けていることからすれば、YがXらをそれぞれ1等級降格したことが社会通念上著しく相当性を欠くものということはできず、このことは、上記各降格がその結果としてXらの管理職である課長代理としての地位が失われて相応の給与上の不利益を伴うものであったことなどを考慮したとしても、左右されるものではないというべきである。 以上によれば、YがXらに対してした上記各出勤停止処分を理由とする各降格は、Yにおいて人事権を濫用したものとはいえず、有効なものというべきである。 |