全 情 報

ID番号 09042
事件名 残業代請求事件
いわゆる事件名 プロポライフ事件
争点 従業員による残業代請求が争われた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 (1) 不動産業等を目的とする株式会社である被告Y(プロポライフ)の社員である原告Xは、Yに対し、主位的に、労働契約に基づき、未払賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めるとともに、労働基準法(以下「労基法」という。)114条に基づき、付加金及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、予備的に、債務不履行に基づき、損害125万3735円及びこれに対する遅延損害金の支払を求め提訴したもの。
(2) 東京地裁は、主位的請求を一部認容し、予備的請求を棄却した。
参照法条 労働基準法37条
労働基準法114条
体系項目 労働時間(民事)/労働時間の概念/労働時間の始期・終期
雑則(民事)/付加金/付加金
裁判年月日 2015年3月13日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成25年(ワ)第18279号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働時間(民事)/労働時間の概念/労働時間の始期・終期〕
 検討するに、本件手帳(甲3)の内容は,各日欄に出勤時刻及び退勤時刻を記載しているのみであること、既に認定したとおり、Xは、平成24年6月29日には少なくとも遅刻をしたことが認められるところ、本件手帳の同日欄には午前9時30分から午後11時まで勤務した旨の記載がされていること、Y事務所の施錠記録(乙7)よりも後の時刻を退勤時刻と記載している日が平成24年6月以降に散見されること等に照らせば、その記載内容の正確性については、Xの供述(甲19、X本人)の存在にもかかわらず、重大な疑いを抱かざるを得ないのであって、Xの始業時刻及び終業時刻を、本件手帳の記載をもとに認定することはできないというほかない。
 なお、Xの電子メール(甲4)については、証拠(X本人)及び弁論の全趣旨によれば、XがY事務所で使用していたノート型PC又は携帯端末(iPhone)のいずれからでも電子メールの送信が可能な状態にあったことが認められ、この事実によれば、前記電子メールの送信が必ずしもXのY事務所における勤務を裏付ける事実ということはできない。
(ウ)他方、証拠(乙19、乙20、証人P3、証人P4)及び弁論の全趣旨によれば、Yにおいては、出退勤時刻を記入した勤務表を上長に提出することによって従業員の労働時間管理を行っていること、本件勤務表(乙5)は、Xが出退勤時刻を記入し、その各日の記入に対応する形で上長が認印を押捺していること等に照らし、労働時間に関する裏付けとして信用するに足りるものと評価することができる。
 Xは、午後10時以降の残業や休日出勤についての申請書を提出できる雰囲気ではなかったため、勤務表には午後10時に退勤した旨、また休日出勤はしていない旨の記載をした旨を主張し、これに沿う証拠(甲9、甲19、甲20、X本人)もある。
 しかしながら、午後10時以降の残業又は休日出勤の申請書を提出できる雰囲気ではなかった旨のXの供述(甲19、X本人)はそれ自体として曖昧であって採用するに足りない。また、平成24年7月8日午前10時59分付けの電子メール(甲9)によれば、〔1〕午後10時を超えて勤務を継続する場合には事前に所属の担当役員に対して時間外・休日勤務申請書で許可を得る必要がある旨、〔2〕前記申請書の提出がされていない状態で勤務表に午後10時を超える残業時間を記入してもYはこれを認めない旨が記載されていること、また証拠(甲20)によれば、Xが平成24年6月に午後10時を超える残業をした旨の記載をした勤務表があることが認められるものの、前記電子メールについては、使用者が労働者の労働時間を管理し、残業時間を削減するための方策として、それ自体は何ら不合理なものではないのであるし、Xの平成24年6月分の勤務表(甲20)については,裏面がファクス用紙として使用されていたことが窺われる紙への記載であること、本件手帳(甲3)の同月分の記載とも大幅に異なる時刻が記載された日が散見されることに照らせば、本件勤務表に関する前記判断を覆すに足りる証拠とはいい難い。
イ 休憩時間について
 Yは、従業員に対し、午後8時を超えて業務を行う場合には午後8時から午後9時まで1時間の休憩を追加する旨を通知したと主張する。
 しかしながら、一般に、所定終業時刻より後に休憩時間を設ける場合においては、使用者において従業員に対してそれを取得させるための具体的な施策を講じなければ、従業員において指揮命令から解放された状況になったとはいい難いところ、証拠(証人P3、証人P4)によっても、Yにおいて従業員に対して休憩を取得させる具体的な施策を講じたとは認められないから、Xが午後8時から午後9時まで休憩を取得していたとは認められない。
 これらの事情に加え、弁論の全趣旨によれば、Xが取得していた休憩時間は、1労働日当たり1時間と認めるのが相当である。
ウ 小括
 以上によれば、Xの始業時刻、終業時刻及び休憩時間は、別紙8労働時間集計表「当裁判所の認定」、「始業時刻」、「終業時刻」及び「休憩時間」各欄記載のとおりとなる。
〔雑則(民事)/付加金/付加金〕
 Yは、Xに対し、合計487万3071円の割増賃金を支払う義務を負うにもかかわらず、その支払をしていないのであって、この行為は労基法37条に違反するものというべきである。
(2)他方で,証拠(甲1、甲2の1から甲2の5まで、甲16、乙2、乙3、乙5、乙8から乙14まで、乙17、乙23から乙25まで)及び弁論の全趣旨によれば、Yは,就業規則及び給与規程を改定するなどして労働条件の明確化について一定の努力を払ってきたことが認められ、これらの事情は付加金の額を定めるに当たってYに有利な事情として斟酌すべきである。
(3)以上の事実を総合すると、Yに対し、労基法37条違反に係る全額についてその支払を命じることは相当でなく、前記金額の半額である243万6535円の限度でその支払を認めるのが相当である。