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ID番号 09044
事件名 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 いすゞ自動車(雇止め)事件
争点 自動車製造会社に契約不更新とされた元期間労働者、派遣労働者らが地位確認等を求めた事案(労働者敗訴)
事案概要 (1) 自動車製造業等を営むY(被告、控訴人兼被控訴人)の期間労働者又は就業先をYとする派遣労働者であったXら(原告、控訴人兼被控訴人)らが、Yに対し、X1、X2、X3、X4(以上第1グループ)、X5、X6及びX7においては、労働者たる地位の確認並びに雇用契約に基づく賃金、就業規則に定める満期慰労金、不法行為に基づく慰謝料及びこれらに対する遅延損害金の支払を、X8、X9及びX10(以上第5グループ)においては不法行為に基づく慰謝料及びこれに対する遅延損害金の支払を、それぞれ求め提訴したもの。
(2) 東京地裁は、第1グループの請求のうち、民法536条2項による賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める部分をそれぞれ認容し、その余を理由がないものとして棄却したしたため、XY双方が控訴したところ、東京高裁は第1グループの請求につき原審認定額より減額して認容し、その余の控訴を棄却した。
参照法条 民法536条
民法709条
労働者派遣法40条の4
職業安定法4条6項
労働基準法26条
労働契約法17条2項
体系項目 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償請求
解雇(民事)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 2015年3月26日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成24年(ネ)第3578号
裁判結果 原判決一部変更
出典 労働判例1121号52頁
審級関係 一審 平成24年4月16日/東京地方裁判所/民事第36部/判決/平成21年(ワ)10678号
上告、上告受理申立
評釈論文
判決理由 〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
〔解雇(民事)‐短期労働契約の更新拒否(雇止め)‐短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 〈5〉第1グループXらの契約が、本件雇止めまでの間、最短で2か月、最長で6か月の雇用期間で計7回、期間にして約2年半もの間更新を重ねてきたこと、〈6〉第1グループXらの業務内容が、いずれも、生産ラインを担当するものであって、Yの生産直接部門の正社員の中に同一の業務に従事している者もいることから、臨時的・補助的な業務に限定されているとはいえないこと、〈7〉契約更新に係る各契約書の作成手続で、その一部の署名・押印について他の者が代署したり、Y担当者が預かっていた印鑑を使用して押印したりする等、更新手続が相当程度簡易なものとなっていたことという諸点に鑑みれば、第1グループXらについては、職務能力や勤務態度に問題がなく、不況等の事情の変化による生産計画の変更に伴う要員計画に変更がない限り、契約更新により少なくとも契約通算期間2年11か月までは雇用が継続される合理的期待を有していたというべきである。なお、通算契約期間2年11か月を超える雇用継続の期待については、3年規定及び2年11か月運用によりこれが直ちに否定されるものではないと解されるが、同2年11か月までの雇用継続の期待に比して、相対的に合理的期待の程度は低くなるものと解される。
 以上によれば、通算契約期間2年11か月の限度内では、第1グループXら臨時従業員にも雇用継続の期待に客観的合理性があるというべきであって、このことに鑑み、この限度内では臨時従業員の雇止めにも解雇に関する法理が類推適用されるというべきである。しかしながら、正社員のような期間を定めない労働契約に比べれば、上記限度内であっても、雇用継続の期待に対する合理的期待には限度があり、したがってその保護は限定的なものになるといわざるを得ない。解雇に関する法理の類推適用によって雇止めの可否を検討する場合にも、そのことを踏まえる必要がある。
(2) X5の地位確認に係る主位的請求について(中略)
 X5は、退職願を提出したのはX5の自由な意思に基づくものではなく、Yは解雇権濫用の法理の類推適用に係るX5の利益をその自由な意思に基づかずに放棄させたものであって無効である旨を主張するが、退職願はX5の自由な意思に基づいたものではないとのX5の主張事実を認めるに足りる証拠はなく、この主張も採用できない。
(3) X6の地位確認に係る主位的請求について(中略)
 X6は、臨時従業員を退職する際の退職願の提出において、Yを退職する意思がなかったから退職合意は不存在である旨主張するが、X6が退職の意思を欠いていたと認めることはできないから、退職合意が不存在とはいえず、心裡留保に当たるともいえない。
(4) X7の地位確認に係る主位的請求について(中略)
 X7は、退職の意思表示の心裡留保による無効、錯誤、詐欺による取消し、公序良俗違反、信義則違反を主張するが、退職の意思を欠いていたと認めることはできないし、3年規定及び2年11か月運用は公序良俗違反といえず、就業規則が不合理な内容であり拘束力が認められないとの主張も直ちに採用できず、3年規定及び2年11か月運用の存在を踏まえれば派遣労働者の方が長く働ける旨のaaの監督の説明が事実に反するとか欺罔であるとも直ちにはいえない。
(5) 第1グループXら、X5、X6及びX7の地位確認に係る予備的請求について
 Y、各請負会社及びXらとの関係が労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当し、そのため職業安定法4条6項にいう労働者供給に該当するとは解し得ないこと、また、労働者派遣法に違反する労働者派遣であっても、特段の事情がない限り、そのことだけで派遣労働者と派遣元との労働関係が無効となることはないこと、そしてXらの各請負会社への採用にYが関与していないことなど、本件における事情の下では、XらとYとの間に労働契約関係が黙示的に成立していたとみることはできないことは、原判決が判示するとおりである。Xらは、Yが各請負会社との間で1人1時間当たりの単価を決めていたことを重視すべきであるとするが、そのことだけで各請負業者が独立の企業であることが否定されると解することはできず、上記結論は左右されない。
 労働者派遣が職業安定法4条6項にいう労働者供給に該当するとは解し得ないこと、労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合でも、特段の事情がない限り、そのことだけで派遣労働者と派遣元との間の労働契約が無効になることはないと解すべきことは前述のとおりである。また、Xらの各派遣会社への採用にYが関与していないことなど本件における事情の下では、XらとYとの間に労働契約関係が黙示的に成立していたとみることはできないこと、Yが各派遣会社との間で1人1時間当たりの単価を決めていたことだけで各派遣会社が独立の企業であることが否定されると解することができないことも前述のとおりである。その他、平成18年10月からの1回目の雇用をクーリング期間の要請を満たすように設定したことなど、Xらの挙げる他の事情を考慮しても、労働者派遣法が取締規定であることに照らせば、その違反が直ちに何らかの私法的効力を発生させるとはいえない。