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ID番号 09050
事件名 雇用関係存在確認等請求、損害賠償等請求控訴事件事件
いわゆる事件名 学校法人矢谷学園ほか事件
争点 懲戒解雇の有効性および退職勧奨等の違法性が問われた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 (1) 学校法人である被控訴人Y1(被告)と雇用契約を締結した控訴人X1(原告)が懲戒解雇を不服として、Y1に対し、雇用契約上の地位確認、本件解雇後の賃金を、またYの理事長であった被控訴人Y2(被告)と元鳥取県議会議員であった被控訴人Y3(被告)が、X1に対し共同して、違法な退職勧奨及び違法な本件解雇をした旨主張して、Y2及びY3に対しては、共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、Y1に対しては、私立学校法29条・一般社団法人及び一般財団法人に関する法律78条に基づき、連帯して、損害金550万円及び遅延損害金の支払を求め(原審甲事件)、(2)Y1の理事であったX2が、平成22年10月15日に懲戒解任されたところ、本件解任を不服として、Y1に対し、本件解任後の報酬および遅延損害金の支払を求め、違法な本件解任をしたY1及び本件解任を主導したY2に対し、共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、連帯して、220万円及び遅延損害金の支払を求め(原審乙事件)提訴したもの。
(2) 鳥取地裁は、甲事件に係るX1の請求について、Y2がX1に対して違法な退職勧奨を行ったことを認め、Y1及びY2に対し、連帯して、損害金110万円及び遅延損害金の支払を求める限度で認容したが、その余をいずれも棄却し、乙事件に係るX2の請求を全部棄却したためXらが控訴したところ、広島高裁松江支部は原判決を変更して、甲事件に係るX1の請求については地位確認請求及び一部損害賠償請求を認容し、乙事件については、X2の損害賠償請求を一部認容し、その余の控訴を棄却した。
参照法条 労働契約法15条
民法629条1項
民法627条
体系項目 懲戒・懲戒解雇/懲戒権の濫用/懲戒権の濫用
労働契約(民事)/労働契約の期間/労働契約の期間
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償請求
裁判年月日 2015年5月27日
裁判所名 広島高裁松江支部
裁判形式 判決
事件番号 平成26年(ネ)第38号
裁判結果 原判決一部変更
出典 労働判例1130号33頁
審級関係 一審 平成26年4月23日/鳥取地方裁判所/民事部/判決/平成22年(ワ)320号
確定
評釈論文 宋昌錫・LIBRA16巻9号48~49頁2016年9月
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇/懲戒権の濫用/懲戒権の濫用〕
 Yらにおいて、Y3に対し、Y2が違法・不当な種々の行為に及んでいた旨の事実を説明して相談した行為は、上記パワハラの事実を除いて正当化されない上、かかる正当化されない事実のうちY2が種々の違法行為に及んでいた旨の指摘については、これが外部に漏れた場合、Y2及びY1の名誉及び信用を著しく損なうことになるから、そのような内容を含めてY3に対して説明及び相談したことは、上記パワハラの事実について説明及び相談したことについて正当化される余地があることを考慮しても、手段としての相当性を著しく欠いているといわざるを得ない。(中略)
 Y2が、後に説示するとおり、X1に対し、不法行為に該当するような退職勧奨行為等をしていたことが認められることからすると、X1において、Y2を理事長兼校長から退任させようとしたことや、Y2が理事長兼校長の地位にあるY1に対して反抗する姿勢を示したことには、酌量されるべき相応の理由があったと認められる。また、Xらが相談をしたY3は、形式的には、Y1の部外者ではあるが、本件以前にY1を巡り教職員と経営側が紛争となった際に解決に尽力した者であったことに照らすと、Xらが本件手紙及び29枚の文書を交付して説明した内容を他の部外者に漏らす可能性は極めて低かったものと認められ、実際、Y3が、上記内容を他の部外者に漏らしたものとは認められず、XらがY3に対して本件手紙及び29枚の文書を交付してした説明及び相談した行為によって、Y1に多少の混乱を生じさせ、また、Y2の心情を害したことは否定できないものの、Y1及びY2にX1を懲戒免職処分にすべき程の重大な実害が生じたとまでは認められない。これらの事情を総合考慮すれば、Y1が、X1を懲戒免職とすることは、重きに失し、著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないというべきである。
 したがって、本件解雇は、解雇権の濫用として無効になるものといわざるを得ない。
〔労働契約(民事)/労働契約の期間/労働契約の期間〕
 第1次雇用契約が黙示に更新されたことは前記前提事実のとおりであるところ、黙示の更新について定める民法629条が、1項後段において、各当事者は、期間の定めのない雇用の解約の申入れに関する同法627条の規定により解約の申入れをすることができると定めていることに照らせば、雇用契約が黙示に更新された場合、更新された雇用契約は、期間の定めのないものになると解するのが相当である。
 そして、本件管理職規程では、Y1に採用されたX1のような管理職の任用期間は2年以内とされているが、他方で、その任用期間を更新することができるとされているから、本件管理職規程をもって、上記と異なる法理が適用されるとも認め難く、X1とY1との間の雇用契約は、第1次雇用契約の黙示の更新によって、平成20年4月1日以降、期間の定めのないものになったというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇/懲戒権の濫用/懲戒権の濫用〕
 Y2が、前記のとおり、X1に対し、不法行為に該当するような退職勧奨行為等をしていたことからすると、X2においても、Y2を理事長兼校長から退任させようとしたことには、酌量されるべき相応の理由があったと認められる。また、Xらが相談をしたY3は、形式的には、Y1の部外者ではあるが、本件以前にY1を巡り教職員と経営側が紛争となった際に解決に尽力した者であったことに照らすと、Xらが29枚の文書を交付して説明した内容を他の部外者に漏らす可能性は極めて低かったものと認められ、実際、Y3が、上記内容を他の部外者に漏らしたものとは認められず、XらがY3に対して29枚の文書を交付してした説明及び相談した行為によって、Y1に多少の混乱を生じさせ、また、Y2の心情を害したことは否定できないものの、Y1及びY2にX2を懲戒解任にすべき程の重大な実害が生じたとまでは認められない。これらの事情を総合考慮すれば、Y1が、X2を懲戒解任することは、重きに失し、著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認できないというべきである。
 したがって、本件解任は、解任権の濫用として無効になるといわざるを得ない。
〔労働契約(民事)‐労働契約上の権利義務‐使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
 X2とY1との間の委任契約は、本件解任によって終了せず、その任期が満了するまで継続していたことになり、Y1は、X2に対し、本件解任後の報酬として、平成22年11月から理事の任期が満了する前月の平成23年9月まで、毎月21日限り月額3万円及びこれらに対する毎月22日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うべき義務を負う。