全 情 報

ID番号 09057
事件名 残業代請求事件
いわゆる事件名 学生情報センター事件
争点 残業代及び付加金請求が争われた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 (1) 学生向けのマンションの入居募集及び管理の事業等を営む株式会社である被告Yの従業員であった原告Xが,Yとの間の雇用契約に基づき,Yに対し,平成23年6月16日から平成25年7月10日までに稼働した分の労働基準法所定の時間外労働等に係る割増賃金及びこれと同額の付加金の支払を求め提訴したもの。
(2) 東京地裁はXの請求を一部認容した。
参照法条 労働基準法37条
労働基準法41条
体系項目 労働時間(民事)/労働時間の概念/タイムカードと始終業時刻
労働時間(民事)/労働時間・休憩・休日の適用除外/管理監督者
雑則(民事)/付加金/付加金
裁判年月日 2015年6月24日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成25年(ワ)第33656号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働時間(民事)/労働時間の概念/タイムカードと始終業時刻〕
 Yは、複数の日にわたり、タイムカード(乙4)に入力がないことを理由にXの勤務した事実を否認しているが、Xが上司や同僚その他関係部署に送信した業務報告メール(甲12)にX主張に沿う記載がされている場合には、これらXが送信した業務報告メールが非常に多数に及び、Xがこの作成当時に殊更労働時間を積み増した内容の業務報告メールを送信したとみるべき理由も見当たらず(特に、Xは、Y代表者が業務報告メールを読んでいないものと考え、平成25年3月18日をもって業務報告メールを作成、送信することをやめており〔X本人・35頁〕、このことからもXが,自己の労働時間を証するのに利用するなどの目的で一連の業務報告メールを作成、送信していたものとは解されない。)、他に上記業務報告メールの記載内容に疑問を差し挟むべき事情も特段見受けられないことから、同メールによりXの勤務状況を認定した。 他方,業務報告メールの中には,ある特定日の業務について、業務結果の報告ではなく、業務予定を連絡したメールしか存しない場合があるが,そのような予定を記載したメールのみで当該業務に従事したものと認めることはできない。これと同様の観点から、Xの作成した月間予定表(甲13)も,あくまでも業務予定を記載したものであり、業務の結果を記載したものではないから、労働時間を認定するための証拠としてはこれを重視することはできない。また、上記業務報告メール(甲12)の作成・送信自体が、Yから義務づけられていた業務ではないから、その送信した事実のみをもって、当該作成、送信に要した時間を実労働時間に含めることはできない。
〔労働時間(民事)/労働時間・休憩・休日の適用除外/管理監督者〕
 Xの職務権限は非常に限定的で、Yの経営に関わる決定に参画していたともいえず、自己の出退勤を始めとする労働時間について裁量権を有していたとも認められないのであって、Xが,人事労務管理に関わる一応の権限を有していたほか,毎月15万円の役職手当を支給され、年収が約1000万円で、執行役員と同水準の待遇を受けていたこと(証人E・6頁)を考慮しても,なおXを労働基準法41条2号所定の管理監督者と認めるには足りないというべきである。
〔雑則(民事)/付加金/付加金〕
 Yにおいて、Xを労働基準法上の管理監督者に当たると解してきたことによるものと考えられるところ、Xは、Yに入社した直後からY東京本部の住設営業部長及びお客様サービス部長を兼務して10名ほどの部下を持ち,それらの者の人事考課を行うなど、前記のとおり限定的なものではありながら,一定の人事労務権限は有していたこと(後には統括部長として更に権限が拡大した。)、賃金待遇も,それ自体は管理監督者とみて不合理といえない程度のものといえることからすると,Yが,Xに対して割増賃金を支払ってこなかったのも、一応の根拠に基づくものといえるのであって(なお,いずれにしても深夜労働に係る割増賃金の不払いの理由にはならない。)、その悪質性が高いとはいえない。
 そこで、前記2で認定した未払の割増賃金の額、その他上記事情等を総合して、Xに対して支払うべき付加金の額は、500万円とする。