全 情 報

ID番号 09059
事件名 共済金請求事件
いわゆる事件名 クレイン農協(共済金支払)事件
争点 パワハラ等が原因の精神障害による自殺が共済契約の免責条項に該当するかが問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1) 農業協同組合である被告Yに入組していた原告Xが、Yに対し、Xの子であるBが、Yとの間で平成20年6月10日付け終身共済契約及び平成21年7月14日付け定期生命共済契約を締結した後、平成22年3月28日に自殺で死亡し、Xが共済金受取人であると主張して、上記各共済契約に基づき、共済金合計4650万円及びこれらに対する遅延損害金の支払を求め提訴したもの。
(2) 甲府地裁は、Bの自殺は上司からのパワハラなどが原因で罹患した精神障害によって発生したものであるため、本件共済契約の免責条項の「自殺」にはあたらないとして、Xの請求を認容した。
参照法条 保険法51条
体系項目 労災補償・労災保険/損害賠償等との関係/損害賠償等との関係
裁判年月日 2015年7月14日
裁判所名 甲府地
裁判形式 判決
事件番号 平成25年(ワ)301号
裁判結果 認容(控訴後和解)
出典 判例時報2280号131頁
労働判例1129号81頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険/損害賠償等との関係/損害賠償等との関係〕
(1) 本件免責条項の「自殺」とは、被共済者の自由な意思決定に基づいてされた自殺をいうことから、被共済者の自由な意思決定に基づかないでされた自殺は本件免責条項にいう「自殺」に含まれないと解されるところ、Yが主張するとおり、労災における判断と生命共済契約における判断とはその趣旨が異なることに鑑みれば、〈1〉 精神障害罹患前の本来的性格・人格との乖離、〈2〉 自殺に至るまでの言動、〈3〉 自殺の態様及び動機等の事情を総合的に考慮して、当該精神障害が被共済者の自由な意思決定能力を喪失ないし著しく減弱させた結果自殺に及んだと認められる場合に限り、本件免責条項の「自殺」に当たらないと解すべきである。
(2) 精神障害の罹患 ア 前記認定事実のとおり、Bは、Eから叱責されたり、Bにとって達成が困難なノルマを課されるなど、従前から相当程度心理的ストレスを蓄積していたところ、これに加えて、Eから暴行を受けた。本件暴行はその回数も多く、その態様も、Eは、Y D支店の職員から羽交い締めにされてようやくやめていることやその傷害結果からすると、暴行の程度は強力かつ執拗であったものといえる。
 Bは、その後も、Eから、ファイルで殴打されたこと及び「給料を返してもらわなければならない」との叱責等が続いたこと、Eを監督する立場にあったY幹部職員も、本件暴行のほかBの置かれた状況を把握せず対策を立てなかったことなどにより、心理的ストレスがさらに増加し、平成22年3月中頃には、重度ストレス反応(重度ストレスへの反応)及び適応障害を発症したと認めるのが相当である。(中略)
 Bは、重度ストレス反応(重度ストレスへの反応)及び適応障害の精神障害を発症しており、Bの本来的性格・人格と、自殺前の性格・人格には乖離が見られ、自殺に至る言動や自殺の態様にも異常性が認められることなどから、上記精神障害がBの自由な意思決定能力を喪失ないし著しく減弱させた結果、Bは自殺に及んだといえ、本件免責条項所定の支払免責事由である「自殺」には該当しないというべきであるから、Yは、本件各共済契約に基づく共済金の支払を免責されない。
 したがって、共済金の受取人であるXは、Yに対し、共済金4650万円(終身共済契約に基づく共済金150万円及び定期生命共済契約に基づく共済金4500万円の合計)及びこれらに対する訴状送達の日である平成25年8月7日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。