ID番号 | : | 09062 |
事件名 | : | 賃金請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 国際自動車事件 |
争点 | : | 歩合給の計算に当たり残業手当等に相当する額を控除する旨を定めるYの賃金規則の有効性が問われた事案(労働者一部勝訴) |
事案概要 | : | (1) タクシーによる一般旅客自動車運送事業等を営む株式会社Y(国際自動車、被告、控訴人兼被控訴人)に雇用されていたX(原告、控訴人兼被控訴人)らが、歩合給の計算に当たり残業手当等に相当する額を控除する旨を定めるYの賃金規則上の規定は無効であり、Yは、控除された残業手当等相当額の賃金支払義務を負うと主張して、Yに対し、雇用契約に基づき、未払賃金(主位的には時間外、休日及び深夜の割増賃金として、予備的には歩合給として)及びこれに対する最終支払期日の翌日以降(Yを退職したXらについては、退職日の翌日以降)の遅延損害金の支払を求めるとともに、労基法114条に基づき、上記未払賃金のうち法37条の規定に違反して支払われていない時間外、休日及び深夜の割増賃金(主位的請求に対応する。ただし、その支払期日から本件訴えの提起までの間に2年が経過したものを除く。)と同一額の付加金及びこれに対する判決確定の日の翌日以降の遅延損害金の支払を求め提訴したもの。 (2) 東京地裁は、賃金規則で割増金を控除している部分が無効であるとして未払賃金の一部を認容し、付加金の請求を棄却したためXY双方が控訴したところ、東京高裁は原判決を維持し、控訴を棄却した。 |
参照法条 | : | 労働基準法37条 労働基準法114条 賃金の支払の確保等に関する法律6条 |
体系項目 | : | 賃金(民事)/割増賃金/割増賃金の算定方法 雑則(民事)/付加金/付加金 |
裁判年月日 | : | 2015年7月16日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成27年(ネ)1166号 |
裁判結果 | : | 控訴棄却 |
出典 | : | 労働判例1132号82頁 労働法律旬報1847号49頁 |
審級関係 | : | 平成27年1月28日/東京地方裁判所/民事第11部/判決/平成24年(ワ)14472号 上告、上告受理申立 |
評釈論文 | : | 谷田和一郎・季刊労働者の権利313号98~101頁2016年1月 中山慈夫・ジュリスト1493号106~109頁2016年5月 |
判決理由 | : | 〔賃金(民事)/割増賃金/割増賃金の算定方法〕 本件規定の有効性について イ Y賃金規則は、所定労働日と休日のそれぞれについて、揚高から一定の控除額を差し引いたものに歩合率を乗じ、これらを足しあわせたものを対象額Aとした上で、時間外等の労働に対し、これを基準として計算した額の割増金を支払うものとし(前提事実(3)エないしキ)、Yは、Xらを含むそのタクシー乗務員に対し、かかる計算に則って算出された割増金を支給した(前提事実(6)ウ、弁論の全趣旨)。ところが、他方において、本件規定は、歩合給の計算に当たり、対象額Aから「割増金」及び「交通費」(以下、本件規定の定める内容を指すときは「割増金」、「交通費」と記載する。)を差し引くものとし、上記支払うものと定められている割増金及び交通費に見合う額を控除するものとしている(同(3)ク)。これによれば、割増金と交通費の合計額が対象額Aを上回る場合を別にして、揚高が同じである限り、時間外等の労働をしていた場合もしていなかった場合も乗務員に支払われる賃金は全く同じになるのであるから、本件規定は、法37条の規制を潜脱するものといわざるを得ない。そして、法37条は、強行法規であると解され、これに反する合意は当然に無効となる上、同条の規定に違反した者には、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金という刑事罰が科せられる(同法119条1号)ことからすれば、本件規定のうち、歩合給の計算に当たり対象額Aから割増金に見合う額を控除している部分は、法37条の趣旨に反し、ひいては公序良俗に反するものとして、民法90条により無効であるというべきである。なお、本件規定が対象額Aから控除するものとしている「割増金」の中には、法定外休日労働に係る公出手当が含まれており、また、所定労働時間を超過するものの、法所定の労働時間の制限を超過しない、いわゆる法内残業に係る残業手当が含まれている可能性もあるが、本件規定は、これらを他と区別せず一律に控除の対象としているから、これらを含めた割増金に見合う額の控除を規定する「割増金」の控除部分全体が無効になるものと解するのが相当である。 〔雑則(民事)/付加金/付加金〕 付加金の支払を命じることの可否及び相当性について 前記1(3)において判示したとおり、本件規定のうち歩合給の計算に当たり対象額Aから割増金に見合う額を差し引くとしている部分は、公序良俗に反し無効であるが、Y賃金規則のその余の部分については、これを無効と解すべき理由はない。また、Yは、Xらに対し、別紙個人別賃金計算書の「残業手当」、「深夜手当」及び「公出手当」の各欄記載の額の金員を支払っていたところ(前提事実(6)ウ)、Yは、Y賃金規則が有効であることを前提に、その定めに従って上記金員を支払っていたものと解される。そうすると、YがXらに支払っていた上記金員は、それぞれ、割増金である残業手当、深夜手当及び公出手当として支払われたものと認めるのが相当であり、したがって、前記認定に係る未払賃金は、歩合給の一部であったということになる。 イ 以上によれば、本件請求に係る賃金の未払について、Yが法37条の規定自体に違反したものとは認められないことになるから、Yに対して付加金の支払を命じることはできないというべきである。 |