全 情 報

ID番号 09063
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 日本電気事件
争点 アスペルガー症候群に罹患した社員について休職期間満了時に休職事由が消滅していたかが問われた事案(労働者敗訴)
事案概要 (1) 被告Y(日本電気株式会社)に雇用され、業務外の傷病により休職し、就業規則の定めに基づき休職期間満了により退職を告知された原告Xが、休職期間満了時において就労が可能であったと主張して、休職期間満了後の賃金、賞与及びこれに対する遅延損害金の支払を求め提訴したもの。
(2) 東京地裁は、休職期間満了時に休職事由が消滅していなかったとして、Xの請求を棄却した。
参照法条 民法493条
民法627条
労働契約法16条
労働基準法
障害者の雇用の促進等に関する法律36条の3
障害者基本法 19条
発達障害者支援法4条
体系項目 退職/失職/失職
休職/休職の終了・満了/休職の終了・満了
休職/傷病休職/傷病休職
裁判年月日 2015年7月29日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成25年(ワ)18093号
裁判結果 棄却
出典 判例時報2279号125頁
判例タイムズ1424号283頁
労働判例1124号5頁
労働経済判例速報2259号3頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔退職‐失職‐失職〕 〔休職/休職の終了・満了/休職の終了・満了〕
〔休職/傷病休職/傷病休職〕
(2) 「休職の事由が消滅」の意義
本件休職命令は、解雇の猶予が目的であり、就業規則において復職の要件とされている「休職の事由が消滅」とは、XとYの労働契約における債務の本旨に従った履行の提供がある場合をいい、原則として、従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合、又は当初軽易作業に就かせればほどなく従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合をいうと解される。また、労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務を提供することができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った労務の提供があると解するのが相当である(片山組事件最高裁判決参照)。
 イ 本件では、XとYの労働契約は、職種は総合職で、給与は月給23万6600円で、本件休職命令時の職位はA職群3級(総合職の最下位)であったから(第2の2(1)、第3の1(1)ア(エ))、「休職の事由が消滅」といえるには、Yの総合職の3級として債務の本旨に従った労務の提供といえることが必要であり、従前の職務である予算管理業務が通常の程度に行える健康状態となっていること、又は当初軽易作業に就かせればほどなく上記業務を通常の程度に行える健康状態になっていること、これが十全にできないというときには、YにおいてA職群(総合職)3級の者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務を提供することができ、かつ、Xがその提供を申し出ていることが必要である。
 ウ なお、Xの障害がアスペルガー症候群であることからすれば、障害者基本法が、事業主は、障害者の雇用に関し、その有する能力を正当に評価し、適切な雇用の機会を確保するとともに、個々の障害者の特性に応じた適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を図るよう努めなければならない(19条2項)とし、発達障害者支援法が、国民は、発達障害者の福祉について理解を深めるとともに、社会連帯の理念に基づき、発達障害者が社会経済活動に参加しようとする努力に対し、協力するように努めなければならない(4条)としていることを考慮する必要がある。さらに、改正障害者雇用促進法(平成25年法律第46号。平成25年6月13日成立、平成28年4月1日施行)が、事業主は、その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならない旨定めていること(36条の3)の趣旨も考慮すべきである。他方、障害者基本法及び発達障害者支援法に基づく前記の義務は努力義務であり、平成28年4月1日から施行される改正障害者雇用促進法の合理的配慮の提供義務についても、当事者を規律する労働契約の内容を逸脱する過度な負担を伴う配慮の提供義務を事業主に課するものではないことにつき留意する必要がある(改正障害者雇用促進法36の3のただし書参照)。
(3) 本件休職期間満了時において、従前の職務を通常の程度に行える健康状態、又は当初軽易作業に就かせればほどなく従前の職務を通常の程度に行える健康状態であったか。(中略)
 本件休職期間満了時において、Xが従前の職務である予算管理業務を通常の程度に行える健康状態、又は当初軽易作業に就かせればほどなく当該職務を通常の程度に行える健康状態になっていたとは認められない。(中略)
(4) Xが、Yにおいて総合職3級の者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務を提供することができ、かつ、Xがその提供を申し出ていたか。(中略)
本件休職期間満了時、Xが、Yにおいて総合職3級の者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務を提供することができ、かつ、Xがその提供を申し出ていたとはいえず、「休職の事由が消滅」していたとは認められない。