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ID番号 09068
事件名 退職手当支払差止処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 北海道市町村職員退職手当組合事件
争点 退職手当組合による退職手当支給制限処分の適法性が問われた事案(労働者敗訴)
事案概要 (1) 控訴人Y(北海道市町村職員退職手当組合、被告)が、亡Aの公金の業務上横領等の複数の不正行為を理由として被控訴人X(原告)に対して行った退職手当支給制限処分の取消しをXが求め提訴したもの。
(2) 札幌地裁は、退職手当の全部を不支給とする本件処分は、社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権を逸脱したものと認められるとしてXの請求を認容したためYが控訴したところ、札幌高裁は原判決を取消し、Xの請求を棄却した。
参照法条 国家公務員退職手当法12条
国家公務員退職手当法施行令17条
市町村職員退職手当組合市町村負担金等に関する条例〔北海道市〕12条
市町村職員退職手当組合市町村負担金等に関する条例〔北海道市〕13条
市町村職員退職手当組合市町村負担金等に関する条例〔北海道市〕14条
体系項目 賃金/退職金/退職金請求権および支給規程の解釈・計算
裁判年月日 2015年9月11日
裁判所名 札幌高
裁判形式 判決
事件番号 平成27年(行コ)7号
裁判結果 原判決取消、請求棄却
出典 労働判例1129号49頁
判例地方自治403号23頁
審級関係 一審 平成27年4月8日/札幌地方裁判所/民事第2部/判決/平成26年(行ウ)8号
上告、上告受理申立
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 退職手当支給についての運用方針は、懲戒免職処分に相当する非違行為を行った者については、〈1〉退職手当を全部不支給とするのを原則とし、〈2〉一部不支給にとどめる場合の「非違の内容及び程度」に関する勘案事情を限定列挙した上で、公務に対する国民の信頼に及ぼす影響に留意して慎重な検討を行うものとし、さらに、〈3〉その他の勘案事情を具体的に明記するものである。かかる運用方針は、上記のとおり、公務員の退職手当が、勤続報償としての性格を基調として賃金の後払いや退職後の生活保障等の複合的な性格を有するものであること、本件条例及びこれと同趣旨の国家公務員退職手当法が、懲戒免職処分に相当する非違行為を行った者への退職手当の支給について、考慮要素を掲げるのみで、処分庁の広汎な裁量に委ねたと解されることからすれば、不合理なものということはできない。
 以上のとおり、運用方針が不合理なものということができないことからすれば、本件処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められるかを判断するに当たっては、Yが運用指針に則って本件処分をしたといえるかどうかによることが相当である。
5 本件処分の相当性
(1) 本件についてみると、不正行為1ないし7は、亡Aが、金銭の管理を委ねられていた自己の職務上の地位を利用して不正な金銭の受領及び着服を繰り返し行ったというものである。不正行為1ないし7の被害額の合計は18万5300円にとどまるものの、公金の不正な受領ないし着服は、額の多寡を問わず、それ自体非難の程度が大きいものであり、公務に対する信頼を大きく損なうものである。そして、亡Aは、各不正行為を認めることはなく、反省の態度を示していたとはいい難く、被害弁償は何らされていない。
(2) また、亡Aの従前の勤務状況は決して良好とはいえず、事務の未処理、多数誤謬等を繰り返すなど勤務実績が良くないことを理由として、平成18年4月1日付けで分限降任処分を受け、その後も、業者に対する支払懈怠、書類の紛失等を繰り返したとして、平成20年9月1日付けで懲戒処分(減給1月)を受けている(前記認定事実(9))。
(3) 以上によれば、運用方針に照らして、亡Aについては退職手当の全額不支給が相当であり、一部不支給にとどめるべき事由は見出し難い。