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ID番号 09070
事件名 未払賃金等支払請求(差戻)事件
いわゆる事件名 ハマキョウレックス(差戻審)事件
争点 有期契約労働者と無期契約労働者間の労働条件差異の労契法20条違反が問われた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 (1) 一般貨物自動車運送事業等を営む被告Yとの間で、期間の定めのある労働契約を締結した原告X1が、Yとの間で期間の定めのない労働契約等が成立している、仮にそうでないとしても、期間の定めのない労働契約を締結したYの労働者とX1の労働契約における労働条件とを比較して不合理な相違のある労働条件を定めたX1の労働契約部分は公序良俗等に反して無効であるから、X1は、Yとの労働契約上、期間の定めのない労働契約を締結したYの労働者と同一の権利があると主張して、Yに対し、かかる権利を有する地位にあることの確認を求めるともに、期間の定めのない労働契約を締結したYの労働者が通常受給すべき賃金との差額について、Yとの労働契約に基づき、また、期間の定めのない労働契約を締結したYの労働者と同一の権利を有しないとしても、そのような権利を有すると期待させたにもかかわらず、いまだにXと期間の定めのない契約を締結しないYの行為は、X1の期待権を不法に侵害したものであり、かかる行為はX1に対する不法行為を構成すると主張して、上記差額分と同様の賃金ないし損害賠償金の支払を求め提訴したもの。なお、X1は破産手続開始決定を受け、破産財団となるべき未払賃金の4分の1についてX1破産管財人X2が本訴訟手続を受継した。
(2) 大津地裁彦根支部は、通勤手当の差額についてのみ「不合理と認められるもの」と認められ、これについて不法行為が成立するとして、Xの請求が一部認容された。
参照法条 労働契約法20条
体系項目 労基法の基本原則(民事)/男女同/賃金、同一労働同一賃金/男女同一賃金、同一労働同一賃金
労働契約/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 2015年9月16日
裁判所名 大津地裁彦根支部
裁判形式 判決
事件番号 平成27年(ワ)163号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1135号59頁
労働経済判例速報2292号19頁
審級関係 控訴審 平成27年7月31日/大阪高等裁判所/第5民事部/判決/平成27年(ネ)2106号
一審 平成27年5月29日/大津地方裁判所彦根支部/判決/平成25年(ワ)205号
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則(民事)-男女同一賃金、同一労働同一賃金-男女同一賃金、同一労働同一賃金〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
争点(2)(本件有期労働契約に基づくX1の労働条件は、公序良俗又は労働契約法20条に反して無効であるか)について
(1) 労働契約20条における「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者間の当該労働条件上の相違が、それら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同にその他の事情を加えて考察して、当該企業の経営・人事制度上の施策として不合理なものと評価せざるを得ないものを意味すると解すべきところ、YのD支店においては、正社員のドライバーと契約社員のドライバーの業務内容自体に大きな相違は認められないものの(弁論の全趣旨)、上記第2の2(1)記載のとおり、Yは、従業員数4597人を有し、東京証券取引所市場第1部へ株式を上場する株式会社であり、また、証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、従業員のうち正社員は、業務上の必要性に応じて就業場所及び業務内容の変更命令を甘受しなければならず、出向も含め全国規模の広域異動の可能性があるほか、Yの行う教育を受ける義務を負い、将来、支店長や事業所の管理責任者等のYの中核を担う人材として登用される可能性がある者として育成されるべき立場にあるのに対し、契約社員は、業務内容、労働時間、休息時間、休日等の労働条件の変更がありうるにとどまり、就業場所の異動や出向等は予定されておらず、将来、支店長や事業所の管理責任者等のYの中核を担う人材として登用される可能性がある者として育成されるべき立場にあるとはいえない。
 Yにおけるこれら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同等を考察すれば、少なくとも無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当及び家族手当、一時金の支給、定期昇給並びに退職金の支給に関する正社員と契約社員との労働契約条件の相違は、Yの経営・人事制度上の施策として不合理なものとはいえないというべきであるから、本件有期労働契約に基づく労働条件の定めが公序良俗に反するということはできないことはもとより、これが労働契約法20条に反するということもできない。(中略)
(3) もっとも、Yにおいて、通勤手当が交通費の実費の補填であること(〈証拠略〉)からすると、通勤手当に関し、正社員が5万円を限度として通勤距離に応じて支給される(2km以内は一律5000円)のに対し、契約社員には3000円を限度でしか支給されないとの労働条件の相違(弁論の全趣旨)は、労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同にその他の事情を加えて考察すると、公序良俗に反するとまではいえないものの、Yの経営・人事制度上の施策として不合理なものであり(Yは、正社員の場合は配置転換により長距離通勤が予定されていると主張するが、そうだとしても、正社員の下限の金額が、契約社員の上限の金額を上回っていることの説明にはならないはずである。)、労働契約法20条の「不合理と認められるもの」に当たるというべきである。
(4) ところで、労働契約法20条に反する労働契約の条件は、同条により無効となると解されるところ、無効とされた場合につき、Xらは、当該労働契約の条件は、無期契約労働者の労働条件によって自動的に代替されることになるというべきであるから、X1はYの正社員と同一の権利を有する地位にあることになると解すべきであると主張するが、特別の定め(同法12条参照)もないのに、無効とされた労働契約の条件が無期契約労働者の労働条件によって自動的に代替されることになるとの効果を同法20条の解釈によって導くことは困難というべきであるから、労働契約の条件が同条に違反する場合については、別途会社が不法行為責任を負う場合があるにとどまると解さざるを得ない。(中略)
 通勤手当についてのYの労働条件の相違は、労働契約法20条に反し、同条の解釈上、同条に違反する労働条件の定めは、強行法規違反として無効と解され、かかる定めをしたYの行為は、X1に対する不法行為を構成するというべきである。