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ID番号 09084
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 NHK堺営業センター(地域スタッフ)事件
争点 NHK受信料集金人の労働者性が問われた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 (1) 原告Xが、被告Y(日本放送協会)との間で放送受信契約の締結や放送受信料の集金等を業務内容とする有期の委託契約(以下「本件契約」という。)を締結し、一五年余にわたり業務に従事していたところ、業績不良を理由として中途解約(以下「本件中途解約」という。)をされたことから、Yに対し、Xは労働契約法上及び労働組合法上の労働者にあたり、本件中途解約は、労働契約法一七条一項違反、民法九〇条違反(不当労働行為)、本件契約の解約制限条項違反又は信義則違反により無効であると主張して、本件契約に基づき、〈1〉労働契約上の地位確認(請求1項)、〈2〉休業見舞金、報奨金・特別給付金、遅延損害金の支払(同2項)、〈3〉事務費及びこれに対する遅延損害金の支払(同3項)、〈4〉報奨金・特別給付金及びこれに対する遅延損害金の支払(同4項)を求めるとともに、〈5〉不法行為に基づく損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払(同5項)を求め提訴したもの。
(2) 大阪地裁堺支部は、Xの労働者性を否定して地位確認請求を棄却したが、労働契約法17条1項の類推適用はあるとして、Xの請求を一部認容した。
参照法条 労働契約法17条1項
民法90条
労働契約法2条1項
労働基準法9条
体系項目 労基法の基本原則/労働者/委任・請負と労働契約
解雇/解雇事由/已ムコトヲ得サル事由(民法628条)
解雇/短期労働契約の更新拒否(雇止め)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償請求
裁判年月日 2015年11月30日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成25年(ワ)7442号
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 労働判例1137号61頁
労働法律旬報1860号41頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-委任・請負と労働契約〕
〔解雇-解雇事由-已ムコトヲ得サル事由(民法628条)〕
 労働契約法二条一項は、同法における労働者につき、「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう」と定義している。これは、労働基準法九条の労働者と異なり、事業に使用されているという要件を含まないものの、その余の点では同法の定義をそのまま継承したものと解される。したがって、労働契約法上の労働者性は、労働基準法上の労働者性と同様に、基本的に〈1〉「使用者に使用されて労働し」すなわち労働が使用者の指揮監督下において行われているか否かという労務提供の形態と〈2〉「賃金を支払われる」すなわち報酬が提供された労務に対するものであるか否かという報酬の労務対償性によって判断されることになる。(以下、〈1〉及び〈2〉の基準を併せて「使用従属性」という。)。
 そして、労働基準法は刑事法でもあるから、その適用対象を画する使用従属性は、明確かつ厳格に解釈しなければならないが、雇用契約、委任契約、請負契約といった契約の形式にとらわれるのではなく、労務提供の形態や報酬の労務対償性及びこれらに関連する諸要素を総合考慮し、実質的に判断する必要がある。(中略)
  地域スタッフは、Yの具体的な仕事の依頼、業務従事地域の指示等に対して諾否の自由を有しないといえるが、これは、委託業務を包括的に受託したことによるものであると解されるから、これをもって直ちに指揮監督関係を肯定することはできない。さらに、地域スタッフは、〈1〉Yから業務の内容及び遂行方法について具体的な指揮命令を受けているとまではいえないこと、〈2〉指示された業務従事地域内の勤務場所・勤務時間に関する拘束性は緩やかであること、〈3〉業務の再委託が容認され、委託業務の代替性が認められること、〈4〉報酬についても、使用従属性を補強する側面と減殺する側面の両方を併せ持ち、一義的に解することができないことを総合すると、使用従属性を認めることはできないから、労働基準法及び労働契約法上の労働者であるということはできない。
(イ) しかしながら、〈1〉地域スタッフは、個人であること、〈2〉本件契約は、民法上の労務供給契約(混合形態のものを含む。)にあたること、〈3〉地域スタッフは、Yの業務従事地域の指示(具体的な仕事の依頼)に対して諾否の自由を有しないこと、〈4〉Yは、地域スタッフに対し、典型的な請負や委任ではみられないほどの手厚い報告・指導体制を敷いており、Yと地域スタッフとの間に広い意味での指揮監督関係があること、〈5〉その報酬も一定時間労務を提供したことに対する対価と評価される側面があること、〈6〉地域スタッフは再委託することを容認されているものの、地域スタッフ全体に占める再委託者の割合は二パーセント前後と少なく、Xは再委託を行っていないこと、〈7〉地域スタッフの事業者性は弱いことを併せ考慮すると、Xは、Yに対し、労働契約法上の労働者に準じる程度に従属して労務を提供していたと評価することができるから、契約の継続及び終了においてXを保護すべき必要性は、労働契約法上の労働者とさほど異なるところはないというべきである。そして、労働契約法は、純然たる民事法であるから、刑事法の性質を有する労働基準法と異なり、これを類推適用することは可能である。そうすると、期間の定めのある本件契約の中途解約については、労働契約法一七条一項を類推適用するのが相当である。(中略)
 本件中途解約は、業績不良を理由とするものであるが、これは、期間満了を待たずに直ちに契約を終了せざるを得ないような事由であるとまではいえないから、労働契約法一七条一項にいう「やむを得ない事由」にはあたらないというべきである。  なお、Xは、本件中途解約当時、うつ病のため就労不能であることを理由として休業していたが、Yは、本件訴訟において、Xがその当時就労不能であったことを争っているところであるから、本件中途解約の理由に就労不能が含まれると解する余地はない。
ウ よって、本件中途解約は、労働契約法一七条一項の類推適用により、無効であるといわなければならない。 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 Xは、〈1〉平成二一年度第三期から平成二四年度第二期までの三年間にわたり、業績不良のため特別指導の対象者とされていたこと、〈2〉六度目の契約更新後(平成二三年四月以降)も、総じて業績が低迷していたこと、〈3〉Yの職員の指導・助言に対して素直に従う姿勢を見せなかったこと、〈4〉平成二三年四月四日から同年八月三日までと平成二四年七月二五日から同年九月一日(本件中途解約の日)まで二度も精神疾患を理由に長期休業をしたことを総合考慮すると、復職を申し出た平成二五年一月以降に稼働することができなかったことを踏まえても、Xの本件更新申込みに対するYの拒絶は、客観的に合理的な理由があり、かつ社会的通念上相当であるというべきである。
〔労働契約(民事)-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
〈1〉地域スタッフは、Yの業務に不可欠ないし枢要な労働力として組織内に組み入れられていること、〈2〉地域スタッフの契約内容は、Yがその大半を一方的、定型的に決定していること、〈3〉地域スタッフに支給される「事務費」は、労務対償性の側面を有すること、〈4〉地域スタッフは、Yの具体的な仕事の依頼、業務従事地域の指示に対して諾否の自由を有しないこと、〈5〉Yと地域スタッフとの間には、広い意味での指揮監督関係があるといえること、〈6〉地域スタッフは、事業者としての性格は弱いことを総合考慮すると、地域スタッフは、労働組合法上の労働者にあたるというべきであり、これと異なるYの主張は採用できない。(中略)
 Xが主張するYの不当労働行為は、いずれも認められない。ただし、本件中途解約は、労働契約法17条1項の類推適用により無効であり、これによって、Xが精神的損害を被ったことは否定できない。しかしながら、本件中途解約により被った精神的損害は、特段の事情のない限り、Yに対し本件中途解約後から本件契約の期間満了日までの報酬の支払が命じられることにより填補されるものと解されるところ、本件においては、これによってもなお填補され得ない精神的損害が生じたという特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
 よって、Xの不法行為に基づく損害賠償請求は、理由がない。