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ID番号 09088
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 中津市(特別職職員・年休)事件
争点 年休最低付与日数を下回る虚偽の情報を積極的に提供された市の非常勤職員による国家賠償請求等の可否が問われた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 (1)Y市(被告)およびそれ以前はYに編入されたA村に勤務していたXが、Yに対し、A村ないしYがXに対し、年次有給休暇付与日数について、労基法の最低付与日数を下回る虚偽の情報を積極的に提供したとして、公法上の義務の不履行又は国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき、不足する年休日数に対応する賃金相当損害金の賠償を求めるとともに、〈2〉年休の繰越しを認めない通知をしたとして、公法上の義務の不履行又は国賠法1条1項に基づき、慰謝料の損害賠償等を求める事案である。
(2) 大分地裁は、(1)継続勤務の実態があるXに対し、Yが年休について、労働基準法の最低付与日数を下回る虚偽の情報を告知したとして、取得しえなかった年休日数に相当する損害賠償を一部認めた一方、(2)年休の繰越しを認めない通知があったとは認められず、慰謝料請求を棄却した。
参照法条 民法415条
国家賠償法1条
労働契約法3条
労働基準法39条
体系項目 労基法の基本原則(民事)/国に対する損害賠償請求
年休(民事)/年休の成立要件(2) 継続勤務
年休(民事)/年休権の喪失と損害賠償
裁判年月日 2016年1月12日
裁判所名 大分地裁中津支部
裁判形式 判決
事件番号 平成26年(ワ)97号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1138号19頁
労働経済判例速報2276号3頁
判例地方自治412号61頁
審級関係 確定
評釈論文
判決理由 〔年休(民事)/年休の成立要件(2) 継続勤務〕
 労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るという年休の趣旨に照らせば、「継続勤務」(労基法39条)については、形式的に労働者としての身分や労働契約の期間が継続しているかどうかによってのみ決するべきものではなく、勤務の実態に即して実質的に労働者としての勤務関係が継続しているか否かにより判断すべきものである。
 旧A村がYに編入されるまで、Xは、空白期間なく旧A村に任用され、同一勤務場所、同一の業務内容で1年毎に再任用が繰り返されたものであり、勤務の実態は同一性を維持していたと認められる。(略)年休が付与されている一般職の職員との均衡の点でも、Xの1か月の勤務日数は18日であって一般職の職員よりも相当程度少ないものの、当時のXの労働実態が労基法39条3項に該当するとの主張立証もないのであるから、上記均衡を図る必要を否定できない(報酬月額が少ないのも勤務日数が少ないことに対応したものと推認され同様に判断される。)。したがって、Xの勤務実態は、「継続勤務」(労基法39条)に該当すると認められる。労基法39条が地方公務員にも適用され、年休は同条所定の客観的要件を充足することによって法律上当然に発生する権利であることからすれば、Xの雇用関係が公法上の任用関係であることは上記判断を左右するものではない。
 旧A村がYに編入された際、Xは旧A村の職員の身分をいったん失い、改めてYの職員として任用されている。しかし、(略)旧A村の編入に際してのXの任用も、合併における債権債務を含む包括的な事務の承継の一環としてされた手続にすぎず、Xの勤務実態が継続勤務であることを変更するようなものではないというべきである。(略)旧A村のYへの編入の前後を通じて、Aの勤務実態は継続勤務に該当すると認められる。
〔年休(民事)/年休権の喪失と損害賠償〕
〔労基法の基本原則(民事)/国に対する損害賠償請求〕
 Yは、〈1〉毎年、任用日までに、年休日数を10日と記載した任用通知書を交付したことが認められ、Yが、Xに対し、毎年任用通知書受領日に、年休付与日数について、労基法を下回る日数しかないように虚偽の情報を積極的に提供したと認められる。そうすると、上記第2の2(2)〈2〉について、判断するまでもなく、毎年Xの任用日までに、Xに虚偽の情報が提供されたものと認められる。
 Yは、XとYとの間の任用関係に基づき、虚偽の情報を積極的に告知しない法的義務を負っていると認められるところ、Yはこれに違反したものであり、国賠法上違法な行為に該当する。また、上記法的義務は継続的な任用関係に基づく信義則上の付随義務であって、その違反は債務不履行となると解される。
 YがXに対し、出勤簿の記載によって、年休の繰越しが認められないとの虚偽情報を提供したとみることはできない。