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ID番号 09097
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 国際自動車事件
争点 歩合給の計算にあたり残業手当相当額を控除する賃金規則の有効性が問われた事案
事案概要 (1) Y(原告、控訴人・被控訴人、上告人)に雇用され、タクシー乗務員として勤務していたX(被告、被控訴人・控訴人、被上告人)らが、歩合給の計算に当たり残業手当等に相当する金額を控除する旨を定めるYの賃金規則上の定めが無効であり、Yは、控除された残業手当等に相当する金額の賃金の支払義務を負うと主張して、Yに対し、未払賃金等の支払を求める事案である。
(2) 東京地裁は、Xの請求を一部認容したため、XY双方が控訴したところ、東京高裁は原審を維持し、双方の控訴を棄却し、Yが上告したところ、最高裁は、本件賃金規則における賃金の定めにつき、労基法37条に違反するかに関して審理を尽くさなかった違法があるとして、破棄差戻した。
参照法条 民法90条
労働基準法37条
体系項目 賃金(民事)/割増賃金/(3) 割増賃金の算定方法
裁判年月日 2016年2月28日
裁判所名 最高裁第三小法廷
裁判形式 判決
事件番号 平成27年(受)1998号
裁判結果 破棄差戻し
出典 裁判所時報1671号5頁
判例時報2335号90頁
判例タイムズ1436号85頁
労働判例1152号5頁
労働経済判例速報2321号23頁
労働法律旬報1886号73頁
審級関係 一審 東京地裁/平成27年1月28日/平成24年(ワ)14472号
控訴審 東京高裁/平成27年7月16日/平成27年(ネ)1166号
評釈論文
判決理由 〔賃金(民事)/割増賃金/(3) 割増賃金の算定方法〕
 労働基準法三七条は、時間外、休日及び深夜の割増賃金の支払義務を定めているところ、割増賃金の算定方法は、同条並びに政令及び厚生労働省令(以下、これらの規定を「労働基準法三七条等」という。)に具体的に定められている。もっとも、同条は、労働基準法三七条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまり、使用者に対し、労働契約における割増賃金の定めを労働基準法三七条等に定められた算定方法と同一のものとし、これに基づいて割増賃金を支払うことを義務付けるものとは解されない。
 そして、使用者が、労働者に対し、時間外労働等の対価として労働基準法三七条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するには、労働契約における賃金の定めにつき、それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討した上で、そのような判別をすることができる場合に、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労働基準法三七条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべきであり(最高裁平成三年(オ)第六三号同六年六月一三日第二小法廷判決・裁判集民事一七二号六七三頁、最高裁平成二一年(受)第一一八六号同二四年三月八日第一小法廷判決・裁判集民事二四〇号一二一頁参照)、上記割増賃金として支払われた金額が労働基準法三七条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは、使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである。
 他方において、労働基準法三七条は、労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規定をしていないことに鑑みると、労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合に、当該定めに基づく割増賃金の支払が同条の定める割増賃金の支払といえるか否かは問題となり得るものの、当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し、無効であると解することはできないというべきである。
 しかるところ、原審は、本件規定のうち歩合給の計算に当たり対象額Aから割増金に相当する額を控除している部分が労働基準法三七条の趣旨に反し、公序良俗に反し無効であると判断するのみで、本件賃金規則における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否か、また、そのような判別をすることができる場合に、本件賃金規則に基づいて割増賃金として支払われた金額が労働基準法三七条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断することなく、被上告人らの未払賃金の請求を一部認容すべきとしたものである。そうすると、原審の判断には、割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った結果、上記の点について審理を尽くさなかった違法があるといわざるを得ない。