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ID番号 09100
事件名 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 ネットワークインフォメーションセンターほか事件
争点 出向元企業の安全配慮義務違反の成否が問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1) 原告Xらは、Xらの長男Aが自死したのは、Aの雇用主であった被告Y1、配置先又は出向先であった被告Y2、及び両社(以下「被告会社ら」ということがある。)の代表者であった被告Y3の安全配慮義務違反によるとして、Y1及びY2に対しては民法四一五条又は七〇九条に基づき、Y3に対しては同法七〇九条又は会社法四二九条一項に基づき、各自、Aの父であるX1に対する逸失利益、慰謝料、葬儀費用及び弁護士費用四八六七万七一四七円及びこれに対する遅延損害金の支払、Aの母であるX2に対する逸失利益、慰謝料及び弁護士費用四七〇二万七一四七円及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、Y1に対し、Aの時間外労働手当としてX1に対する一四六万七六七一円及びこれに対する遅延損害金の支払、X2に対する一四六万七六七二円及びこれに対する遅延損害金の支払、及び、前記各時間外手当についての付加金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
(2) 東京地裁は、Yらの安全配慮義務違反を認め、Xらの請求を一部認容した。
参照法条 民法709条
会社法429条
労働契約法5条
体系項目 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(16)安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 2016年3月16日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成25年(ワ)1985号/平成26年(ワ)22614号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 判例時報2314号129頁
労働判例1141号37頁
審級関係 確定
評釈論文
判決理由 〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(16)安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 労働者が長時間にわたり業務に従事する状況が継続する等して、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは周知の事実である。したがって、労働者の雇用主であるY1としては、労働契約に基づき、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する安全配慮義務を労働契約上の付随義務として負う。
 雇用主が労働者に他の企業への出向を命じて、他の企業の事業に従事させている場合には、法は不可能を強いるものではないことから、出向先・労働者との出向に関する合意で定められた出向元の権限・責任、及び、労務提供・指揮監督関係の具体的実態等に照らし、出向元における予見可能性及び回避可能性が肯定できる範囲で、出向労働者が業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して心身の健康を損なうことがないように注意する安全配慮義務を負うというべきである。
 出向元のY1としては、出向労働者であるAが、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して心身の健康を損なうことがないように注意する義務内容として、Y1の人事部に対し、出向労働者が長時間労働をしていないかを定期的に報告させることや、出向労働者が長時間労働をしているときはY3又はY4に対してその旨を報告するよう指示することにより、出向元の代表者であるY3や出向元の副社長であるY4において出向労働者が長時間の時間外労働をしていることを知り得るようにし、長時間労働をしている出向労働者がいるときは、Y3又はY4においてその業務負担の軽減の措置を取ることができる体制を整える義務があったというべきである。
 しかし、Y1代表者のY3は、Aの労働時間を把握しておらず、従業員に対してAの労働時間を把握してその内容をY3やY4に報告するよう指示したこともなく、前記義務を怠ったため、Aを前記イ(イ)の長時間労働により消耗させ、気分障害等の精神障害を発症させ、正常な認識をする能力等を低下させた結果、死に至らしめたのであるから、Y1には、労働契約上の安全配慮義務違反があり、これにより生じた損害の賠償責任を負う(民法七〇九条)。
 Y3は、出向先であるY2の代表者としては、Y2の指揮命令下にある出向労働者の労働時間、業務の状況及び出向労働者の心身の健康状態を適切に把握して、労働時間が長時間に及ぶ等業務が過重であるときは、配置転換や人員体制を拡充する等の措置により、業務負担を軽減する措置をとる義務を負い、出向元であるY1の代表者としては、出向労働者の労働時間を把握している出向元Y1の人事部に対し、出向労働者の労働時間について定期的に報告を求めたり、長時間労働をしている出向労働者がいるときは出向先の代表者のY3や出向先の副社長のY4に知らせるよう指示したりすることで、出向先の代表者であるY3や出向先の副社長であるY4において出向労働者が長時間の時間外労働をしていることを知り得るようにし、長時間労働をしている出向労働者がいるときに出向先のY3又はY4においてその業務負担の軽減の措置を取ることができる体制を整える義務があった。
 しかし、Aが、自殺直前の約2箇月、月172時間及び月186時間の時間外労働に従事していたのに、Y3は、Aの労働時間を把握しておらず、Y1の従業員に対してAの労働時間を把握してその内容を報告するように指示したことはなく、前記各義務を果たさなかった結果、Aを前記の長時間労働により消耗させ、気分障害等の精神障害を発症させ、正常な認識をする能力等を低下させた結果、死に至らしめたのであるから、安全配慮義務に違反したものとして、Aの死によって生じた損害を賠償する責任を負う(民法七〇九条)。