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ID番号 09103
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 O公立大学法人(O大学・准教授)事件
争点 アスペルガー症候群由来の行動などを理由の解雇の有効性等が問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1) 、公立大学法人Y(被告)との間で労働契約を締結し、Yの設置、運営する大学において准教授として勤務していたX(原告)が、Yに解雇されたことにつき、解雇対象事由はXの障害であるアスペルガー症候群に由来するものであること、Yから上記障害についての配慮、援助等は講じられておらず、上記の行為や態度に対する注意、警告等を受けたことがないこと、准教授としての本来的業務に支障は生じていないことなどから、解雇は無効であるなどと主張して、Yに対して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、未払賃金及びこれらに対する遅延損害金の支払を求めるとともに、上記解雇及びこれに至る手続がXに対する不法行為を構成すると主張し慰謝料200万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
(2) 京都地裁は、本件解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でないとし解雇は無効であるとしたが、解雇手続き等は違法でなく、不法行為は成立しないとした。
参照法条 民事訴訟法135条
労働契約法16条
障害者基本法19条2項
障害者の雇用の促進等に関する法律36条の3
体系項目 解雇(民事)/解雇権の濫用
解雇(民事)/解雇手続/(4) 弁明の機会
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(23)使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 2016年3月29日
裁判所名 京都地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成26年(ワ)1148号
裁判結果 一部却下、一部認容、一部棄却
出典 労働判例1146号65頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔解雇(民事)/解雇権の濫用〕
 障害者基本法19条2項においては、事業主は、障害者の雇用に関し、その有する能力を正当に評価し、適切な雇用の機会を確保するとともに、個々の障害者の特性に応じた適正な雇用管理を行うことによりその雇用の安定を図るよう努めなければならないとされており(なお、本件解雇当時は未施行であるが、障害者の雇用の促進等に関する法律36条の3においては、事業主は、障害者である労働者について、障害者でない労働者との均等な待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するため、事業主に対して過重な負担を及ぼすものとなるものでない限り、その雇用する障害者である労働者の障害の特性に配慮した職務の円滑な遂行に必要な施設の整備、援助を行う者の配置その他の必要な措置を講じなければならないとされており、少なくともその理念や趣旨は、同法施行の前後を問わず妥当するものと解される。)、このような法の理念や趣旨をも踏まえると、障害者を雇用する事業者においては、障害者の障害の内容や程度に応じて一定の配慮をすべき場合も存することが予定されているというべきである。
 Xについては、Yが大学教員として問題であるとする行為や態度には必ずしもそのように評価することが相当でないものも含まれ、これを措くとしても、YからXに対する指導や指摘がなかったために、Xがこれを改善する可能性がなかったとまでは認められず、また、YにおけるXへの配慮が限度を超える状態に達していたとも認められないのであって、これらを総合評価すると、未だ、Xが大学教員として必要な適格性を欠くと評価することはできない。
 したがって、労働契約法16条に照らすと、本件解雇は、就業規則所定の解雇理由に該当する事由があるとは認められないから、客観的に合理的な理由を欠くものであって、無効である。
〔解雇(民事)/解雇手続/(4) 弁明の機会〕
〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(23)使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 解雇審査において原告にとって最も重要な手続は、弁明の機会付与と考えられるところ、懲戒等審査委員会は、原告からの申入れを受けて、原告の出頭可能と考えられる時期に口頭弁明期日を設定し、弁明書の提出期限もこれにあわせて延長しているのであって、原告の申入れを無視して、解雇審査手続を進めたとは認められない。したがって、懲戒等審査委員会による解雇審査手続の進行については、原告の権利を侵害した違法があるとは認められない。