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ID番号 09106
事件名 時間外手当等請求事件
いわゆる事件名 仁和寺事件
争点 寺院の料理長の管理監督者性および長時間労働に関する寺院の安全配慮義務違反が問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1) 宗教法人Y(被告)との間で労働契約を締結し、Yが運営する宿泊、飲食施設で調理の業務に従事していた調理人であるX(原告)が、時間外手当請求、安全配慮義務又は注意義務に違反した異常な長時間労働を強制されたことにより抑うつ神経症を発症して勤務不能となったとして、その後の賃金及び期末手当請求、付加金請求、本件疾患に罹患したことにつき、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償請求を行った事案である。
(2) 京都地裁は、Xの管理監督者性を否定し時間外手当請求を認め、Xの長時間労働についてYの安全配慮義務違反を認めた。
参照法条 民法415条
民法416条
民法536条
民法709条
民法710条
民法722条
労働契約法5条
労働基準法37条
労働基準法41条
労働基準法114条
体系項目 労働時間(民事)/労働時間・休憩・休日の適用除外/(2) 管理監督者
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(16)安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 2016年4月12日
裁判所名 京都地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成25年(ワ)3844号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 判例時報2300号129頁
労働判例1139号5頁
労働法律旬報1866号62頁
審級関係 確定
評釈論文
判決理由 〔労働時間(民事)/労働時間・休憩・休日の適用除外/(2) 管理監督者〕
 Xは、料理長と呼称される地位にはあったものの、その職務内容及び権限についてみると(略)XがYの経営に係る重要な職務を行い、これに伴う責任を負っているなど、経営上重要な事項の決定等に関与する立場にあったとは到底いい難い。
 当時、調理部門には多くてもX以外に二人程度しか料理人がおらず、Xが他の料理人とのシフトを組むなどしてX自身の仕事量を調節することができる状況にあったとはおよそいい難く、Xが、労働時間について自由裁量を有していたとみることは困難であるといわざるを得ない。(略)Xが管理監督者に該当するとは認められない。
〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(16)安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 Xが本件疾患を発症するまでの約1年3か月間に関して、月時間外労働時間数は、最も少ない月では約65時間であるが、その他の月はいずれも140時間を超え、最も多い平成23年11月度及び平成24年4月度では約240時間にも及んでおり、平成23年は365日のうち356日もの、平成24年は240日のうち228日もの勤務を行っており、休日も極めて少なく、業務内容に照らしてもその業務の密度は濃いものであったものであり、本件におけるXのYにおける業務は、労働時間及び内容の面において、客観的にみても著しく過重なものであったといわざるを得ない。このことに加え、本件疾患は、一般的に業務に関連して発病する可能性のある精神障害に該当することを踏まえると、社会通念上、XのYにおける過重な業務は、それがなければXの本件疾患の発症もなかったといえる関係に立つものであり、両者の間の因果関係は優に認められるというべきである