全 情 報

ID番号 09109
事件名 公務外処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 地公災基金名古屋市支部長(市営バス運転士)事件
争点 市営バス運転士の自殺につき公務起因性が問われた事案(労働者逆転勝訴)
事案概要 (1) 名古屋市交通局に名古屋市営バスの運転士として勤務していたA(被災者)が自殺したことについて、Aの父であるX(原告、控訴人)が処分行政庁に対し、公務災害認定請求をしたところ、処分行政庁が、Aの死亡を公務外の災害と認定する旨の処分(本件公務外災害認定処分)をなし、これに対する地方公務員災害補償基金Y(被控訴人)の名古屋市支部審査会に対する審査請求が棄却されたので、Yに再審査請求したが、同請求をした日の翌日から起算して三か月を経過しても裁決がなかったことから、本件公務外災害認定処分の取消しを求めて訴えを提起した事案である。
(2) 名古屋地裁はAの死亡について公務起因性は認められないとの理由でXの請求を棄却したため、Xが控訴を提起したところ、名古屋高裁は公務起因性を認め、Xの請求を認容した。
参照法条 労働者災害補償保険法16条
地方公務員災害補償法1条
地方公務員災害補償法13条
地方公務員災害補償法31条
体系項目 労災補償・労災保険/業務上・外認定/(2) 業務起因性
裁判年月日 2016年4月21日
裁判所名 名古屋高裁
裁判形式 判決
事件番号 平成27年(行コ)29号
裁判結果 原判決取消
出典 判例時報2308号133頁
労働判例1140号5頁
審級関係 確定
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険/業務上・外認定/(2) 業務起因性〕  Aが自死の直前に精神疾患を発症したのは、このような職場環境の下においてであること、本件添乗指導、本件苦情及び本件転倒事故の三つの出来事が僅か四か月という短期間に発生していること、殊に、本件転倒事故に関与していないと認識していたAにとって、E及びHによる事情聴取を経て、本件転倒事故に関する警察官の取調べを受け、実況見分に立ち会うことは、その認識と矛盾する対応をせざるを得なかったという意味で、大きな精神的負荷となったと考えられること等を考慮すれば、Aがこれらの出来事から受けた負荷は、平均的労働者にとっても強い精神的負荷であったと考えられる。そして、本件全証拠によっても、これらの出来事以外にAの精神障害の発症の契機となった出来事は見当たらない。
 以上によれば、Aが自死の直前に精神疾患を発症するに至った主たる原因をAの個体的脆弱性・反応性に求めることは相当ではなく、Aが顧客サービスの向上に努める当局の姿勢を強く意識して精神疾患を発症するに至ったと見られることからすれば、Aの精神疾患の発症は、公務に内在ないし随伴する危険が現実化したものと認めることが相当である。