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ID番号 09116
事件名 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 ケー・アイ・エス事件
争点 腰痛により休職中の従業員の退職扱い措置の有効性等が問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1) Y(被告)の従業員であったX(原告)が、腰痛を発症し就労不能な状態となってYを休職していたところ、所定の休職期間が経過した後にYがXを退職扱いにしたことから、Yの措置は労働基準法19条に違反し無効であるとして、Yに対し、雇用契約上の地位確認、安全配慮義務違反による債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償金、未払賃金等の支払を求めている。
(2) 東京地裁は、腰痛発症に業務起因性を認め、本件退職扱いが労基法19条違反であること、およびYの安全配慮義務違反を認め、Xの請求を一部認容した。
参照法条 民法415条
民法623条
体系項目 解雇(民事)/解雇制限 (労基法19条)/(3) 解雇制限と業務上・外
解雇(民事)/解雇制限 (労基法19条)/(4) 19条違反の解雇の効力
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(16)安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 2016年6月15日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成25年(ワ)34146号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働経済判例速報2296号17頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔解雇(民事)/解雇制限 (労基法19条)/(3) 解雇制限と業務上・外〕
〔解雇(民事)/解雇制限 (労基法19条)/(4) 19条違反の解雇の効力〕
 Xの腰痛発症の経緯については、(略)本件作業中に腰を痛めたものと認められる。(略)上記転倒事故は原告の腰痛が相当程度悪化したと考えられる平成22年3月以降に生じたものであるし、シャッターの持ち上げ作業や自転車通勤が原告の腰痛に及ぼした影響の大小や寄与の割合の具体的な認定は困難であり、少なくともこれらの事情が本件作業よりも相対的に大きな影響を及ぼしたとまでは認めるに足りないから、結論において、原告の現在の腰痛の症状、就労不能な状態となっていることについて、業務起因性を否定することはできない。
 YがXを平成24年1月20日限りで退職扱いにしたことは、業務上の負傷等による療養のために休業する期間中の解雇に相当し、労働基準法19条1項に違反する無効な措置であるから、Xは、Yに対し、依然として、雇用契約上の権利を有するものというべきである。
〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(16)安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 労働省(当時)において、腰痛予防対策の指針が定められて通達が発出され、その周知の措置がとられていることは前記認定事実(4)のとおりであり、Xの従事していた作業において腰部にかかる負荷が、上記指針の定める絶対的な重量、体重比の重量を超過していたものと認められる一方、Yにあっては、上記指針の定める腰痛の発生の要因の排除又は軽減のための方策が何ら講じられていないものと認められる(弁論の全趣旨)。そして、そうした方策が講じられていれば、Xの腰痛の発症、悪化について回避できた蓋然性は高かったものといえることからすれば、Yは労働者の身体の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮を尽くしていない安全配慮義務違反があり、また、Xが従事していた殺菌工程を具体的に管理していた担当者において過失があったものと認められ、YにはXの腰痛の発生に伴って生じた損害につき債務不履行又は不法行為に基づく賠償責任を負うべきである。