全 情 報

ID番号 09125
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 国際自動車(再雇用更新拒絶・仮処分第1)事件
争点 組合労働者供給によるタクシー運転手の労働契約更新拒絶の有効性が問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1) 国際自動車グループの一つとして、タクシーによる一般乗用旅客自動車運送事業を営む株式会社Y(債務者)との間で有期労働契約を締結してタクシー運転手稼働していたX(債権者)らが、Yによる労働契約の更新拒絶が労働契約法19条に違反するなどと主張して、Yに対し、地位保全及び賃金仮払いを求める事案である。
(2) 東京地裁は、Xらは所属組合を通じての労働者供給により雇用契約を締結しているとしても、雇用契約を締結している以上、労働契約法の適用はあるとして、Xの請求を一部認容した。
参照法条 労働契約法19条
体系項目 解雇(民事)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)
解雇(民事)/解雇権の濫用
裁判年月日 2016年8月9日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 決定
事件番号 平成28年(ヨ)21021号
裁判結果 一部認容、一部却下
出典 労働判例1149号5頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇(民事)/短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 Yは、平成26年6月に本件組合との間で本件供給契約が締結されたことにより、定年を迎えた従業員について再雇用のために労働者供給の申込みをするか否かは債務者の自由裁量であるから、本件供給契約は労働契約法や労働基準法の規制に服さず、本件雇止めに労働契約法19条の適用はない旨主張するので、最初にこの点について検討する。
 本件供給契約は、Yが供給の申込みをしたXとYとの間で、別途雇用契約が締結されることを当然の前提としているものと認められる。そうすると、本件供給契約に基づくYからの供給申込みが契機となるとしても、XらとYとの契約関係は雇用関係であるから、労働契約法及び労働基準法が適用されることは明らかである。
 X1は(略)指定場所一時不停止等(略)通行帯違反(通行帯)、(略)信号無視(赤色等)の各交通違反をした事実が認められる。これらの交通違反自体は、旅客運送に携わるタクシー乗務員として決して褒められた運転態度とはいえない。しかしながら、〈1〉その頻度は年1回ないし2回程度であること、〈2〉上記の交通違反はいずれも比較的軽微な違反であり、雇用契約書(〈証拠略〉)に記載された不更新事由(交通違反により運転免許取消処分ないし運転免許停止となった場合)にも該当しないこと、〈3〉上記交通違反が存在したにもかかわらず、平成26年3月及び平成27年3月には債務者との間で雇用契約が更新されていることなどに鑑みると、当該交通違反を理由に契約更新を拒絶する(供給申込みをしない)ことは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないというべきである。
 (X2の)事故〈1〉、〈3〉及び〈4〉は、いずれも軽微な物損事故である。事故〈2〉は自転車の転倒による人身事故ではあるものの、X2の運転車両が自転車に直接衝突したのではなく、同車両との衝突を避けようとした自転車が転倒した事故であり、結果は重大とはいえず、かつ態様も悪質とはいえない。また、X2は、直近4年間で平均して年1件程度の交通事故を起こしていることになるところ、債務者のタクシー乗務員による有責事故の発生件数(1人当たり平均約0.5件/年)と比較しても、X2の事故件数が著しく多いとはいえない。以上に加え、Yは、事故〈1〉及び〈2〉があったことを前提にX2との間で平成26年及び平成27年に労働契約を更新していること、X2が債務者との間で平成20年3月以降8年間にわたり有期労働契約を締結、更新してきたことを踏まえると、Yが上記交通事故を理由に契約更新を拒絶する(供給申込みをしない)ことは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないというべきである。