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ID番号 09126
事件名 解雇無効確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 東芝(うつ病・解雇・差戻審)事件
争点 休業補償給付の遅延損害金債務充当の有効性が問われた事案
事案概要 (1) Y(被告、控訴人兼被控訴人、上告人)の従業員であったX(原告、被控訴人兼控訴人、被上告人)が、鬱病に罹患して休職し、休職期間満了後にYから解雇されたことにつき、上記鬱病はYにおける過重な業務に起因するものであるから、上記解雇は労働基準法19条1項本文等に違反する無効なものであると主張して、Yに対し、安全配慮義務違反等による債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求としての休業損害や慰謝料等の支払及びYの会社規程に基づく見舞金等の支払を求める事案である。
(2) 東京地裁は、地位の確認、未払賃金請求を一部認めたため、XY双方が控訴し、Xは追加請求をしたところ、東京高裁も地位の確認を認め、一部一審判決を変更したため、Xが上告したところ、最高裁は差戻し前の控訴審判決中、損害賠償請求及び見舞金支払請求に関するX敗訴部分を破棄し、同部分につき原審に差し戻すとともに、Xのその余の上告を棄却したところ、東京高裁差戻審は、休業補償給付を遅延損害金債務に充当することはできないとし、原判決を一部変更した。
参照法条 労働災害補償保険法1条
労働災害補償保険法14条
商法514条
体系項目 労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/(2) 休業補償 (給付)
労災補償・労災保険/損害賠償等との関係/(2) 労災保険と損害賠償
裁判年月日 2016年8月31日
裁判所名 東京高裁
裁判形式 判決
事件番号 平成26年(ネ)2150号
裁判結果 原判決一部変更
出典 労働判例1147号62頁
労働経済判例速報2298号3頁
審級関係 上告審 最高裁第二小法廷/平成26年3月24日/平成23年(受)1259号
控訴審 東京高裁/平成23年2月23日/平成20年(ネ)2954号 
第一審 東京地裁/平成20年4月22日/平成16年(ワ)24332号 
確定
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険/補償内容・保険給付/(2) 休業補償 (給付)〕
〔労災補償・労災保険/損害賠償等との関係/(2) 労災保険と損害賠償〕
 労災保険法に基づく休業補償給付は、労働者が業務上の事由等による負傷又は疾病により労働することができないために受けることができない賃金を填補するために支給されるものであるから(1条、14条)、填補の対象となる損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有する関係にある休業損害の元本との間で損益相殺的な調整を行うべきであるが、休業損害に対する遅延損害金に係る債権は、飽くまでも債務者の履行遅滞を理由とする損害賠償債権であって、遅延損害金を債務者に支払わせることとしている目的は、休業補償給付の目的とは明らかに異なるものであるから、休業補償給付による填補の対象となる損害が、遅延損害金と同性質であるということも、相互補完性があるということもできない。したがって、遅延損害金との間で損益相殺的な調整を行うことは相当ではないというべきである(最高裁判所平成22年9月13日第1小法廷判決・民集64巻6号1626頁、前掲最高裁判所平成27年3月4日大法廷判参照)。