ID番号 | : | 09137 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 日立コンサルティング事件 |
争点 | : | 裁量労働制除外措置の有効性等が問われた事案(労働者勝訴) |
事案概要 | : | (1) X(原告)が、使用者であるY(被告)に対し、違法・無効な解雇を受け、解雇前の降格及び裁量労働制から適用除外も違法・無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位の確認並びに平成25年10月以降の降格、裁量労働制からの適用除外及び未払賃金の各支払を求めている事案である。 (2) 東京地裁は、Xに対する懲戒処分としての降格の有効性は認めたが、裁量労働制除外措置及び解雇は無効であるとして、Xの請求を一部認容した。 |
参照法条 | : | 労働基準法38条の3第1項4号、労働基準法38条の4第1項4号 労働契約法16条 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/(20) 職務能力 労働時間(民事)/裁量労働制 |
裁判年月日 | : | 2016年10月7日 |
裁判所名 | : | 東京地裁 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成27年(ワ)1761号 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却 |
出典 | : | 労働判例1155号54頁 |
審級関係 | : | 控訴 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇/懲戒事由/(20) 職務能力〕 Xは、かねてから自己中心的な態度を示しており、上司からの指導にも反省がなく、明確な指示に反した挙句、3月28日夜の騒ぎを起こし、その結果、Y及び日立製作所の本件銀行に対する体面は著しく損なわれ、Xの自己中心的な行動による企業秩序の混乱も軽視できないものというべきである。本件降格は就業規則上の根拠を有し(前記第2の2争いのない事実等(2)ウ)、その手続も適正なものといえ、偽装請負申告とは無関係に決定されたものと認められる。処分内容はかなり重いといえるが、社会通念上過酷に失するものとまでは認められず、懲戒権を濫用したものということはできない。 〔労働時間(民事)/裁量労働制〕 裁量労働制は、労働時間の厳格な規制を受けず、労働時間の量ではなく、労働の質及び成果に応じた報酬支払を可能にすることで使用者の利便に資する制度であり、労働者にとっても使用者による労働時間の拘束を受けずに、自律的な業務遂行が可能とする利益があり、裁量労働制に伴って裁量手当その他の特別な賃金の優遇が設けられていれば、その支払を受ける利益もあるから、ある労働者が労働基準法所定の要件を満たす裁量労働制の適用を受けたときは、いったん労働条件として定まった以上、この適用から恣意的に除外されて、裁量労働制の適用による利益が奪われるべきではない。(略)個別的労働契約で裁量労働制の適用を定めながら、使用者が労働者の個別的な同意を得ずに労働者を裁量労働制の適用から除外し、これに伴う賃金上の不利益を受忍させるためには、一般的な人事権に関する規定とは別に労使協定及び就業規則で裁量労働制の適用から除外する要件・手続を定めて、使用者の除外権限を制度化する必要があり、また、その権限行使は濫用にわたるものであってはならないと解される。 裁量労働制に関する労使協定は、労働基準法による労働時間の規制を解除する効力を有するが、それだけで使用者と個々の労働者との間で私法的効力が生じて、労働契約の内容を規律するものではなく、労使協定で定めた裁量労働制度を実施するためには個別労働契約、就業規則等で労使協定に従った内容の規定を整えることを要するから、労使協定が使用者に何らかの権限を認める条項を置いても、当然に個々の労働者との間の労働契約関係における私法上の効力が生じるわけではない。本件労働契約、被告就業規則及び裁量勤務制度規則に本件労使協定5条3号を具体的に引用するような定めは見当たらず、むしろ、本件労使協定は、本件裁量労働制除外措置のあった平成25年6月時点では、労働者に対し、十分周知される措置が取られていなかったことが認められるから、本件労使協定5条3号に従った個別労働契約、就業規則等は整えられていないし、XとYとの間で黙示に本件労使協定5条3号の内容に従った合意が成立していると推認することもできない。(略)本件裁量労働制除外措置は、Xの反対にもかかわらず、Yのみの意思により労働条件を変更する十分な労働契約上の根拠を認めることはできず、「健康及び福祉のための措置」として合理的なものであるともいえないから、これを法的に有効なものと認めることはできない。 |