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ID番号 09151
事件名 労働保険料認定決定処分取消請求事件
いわゆる事件名 国・歳入徴収官神奈川労働局長(医療法人社団総生会)事件
争点 労働保険率に関するメリット制適用事業主に対する保険料増額の認定処分の取り消しが争われた事案
事案概要 労働保険の保険料の徴収等に関する法律(以下「徴収法」)12条3項に基づくいわゆるメリット制の適用を受ける事業の事業主(以下「特定事業主」)である、総合病院を開設する医療法人社団X(原告)が、上記病院に勤務する医師が脳出血を発症し、労災保険法に基づく休業補償給付等の支給処分(以下「本件支給処分」)を受けたことに伴い、処分行政庁から、本件支給処分がされたことにより労働保険の保険料が増額されるとして、徴収法19条4項に基づく平成22年度の労働保険の保険料の認定処分(前年度よりも増額された保険料額を認定したもの。以下「本件認定処分」)を受けたため、本件支給処分は違法であり、これを前提とする本件認定処分も違法であると主張して、本件認定処分のうち上記の増額された保険料額の認定に係る部分の取消しを求める事案である。
参照法条 行政事件訴訟法3条
行政事件訴訟法9条
行政事件訴訟法14条
行政事件訴訟法33条
労働者災害補償保険法
労働保険の保険料の徴収等に関する法律12条
労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則20条
体系項目 労災補償・労災保険/審査請求・行政訴訟/(2) 使用者の原告適格
裁判年月日 2017年1月31日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成26年(行ウ)262号
裁判結果 棄却
出典 訟務月報64巻10号1442頁
判例時報2371号14頁
判例タイムズ1442号82頁
労働判例1176号65頁
労働経済判例速報2309号3頁
審級関係 控訴
評釈論文 河本毅・労働経済判例速報2309号2頁
中山慈夫(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1512号127頁
北岡大介・季刊労働法259号204頁
北岡大介(判例実務研究会)・労働法令通信2471号28頁
荻谷聡史・経営法曹196号15頁
佐々木達也・労働法学研究会報69巻18号22頁
判決理由 〔労災補償・労災保険/審査請求・行政訴訟/(2) 使用者の原告適格〕
 特定事業主は、自らの事業に係る業務災害支給処分がされた場合、同処分の名宛人以外の者ではあるものの、同処分の法的効果により労働保険料の納付義務の範囲が増大して直接具体的な不利益を被るおそれがあり、他方、同処分がその違法を理由に取り消されれば、当該処分は効力を失い、当該処分に係る特定事業主の次々年度以降の労働保険料の額を算定するに当たって、当該処分に係る業務災害保険給付等の額はその基礎とならず、これに応じた労働保険料の納付義務を免れ得る関係にあるのであるから、特定事業主は、自らの事業に係る業務災害支給処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあり、その取消しによってこれを回復すべき法律上の利益を有するものというべきである。
 業務災害支給処分と労働保険料認定処分は、相結合して初めてその効果を発揮するものということはできず、上記各処分が実体的に相互に不可分の関係にあるものとして本来的な法律効果が後行の処分である労働保険料認定処分に留保されているということはできない。
 また、業務災害支給処分については、その適否を争うための手続的保障が特定事業主にも相応に与えられているものといえる一方で、特定事業主が労働保険料認定処分がされる段階までは争訟の提起という手段を執らないという対応を合理的なものとして容認するのは相当ではないといえる。そして、業務災害支給処分については、その法律効果の早期安定が特に強く要請されるにもかかわらず、仮にその違法を理由に労働保険料認定処分を取り消す判決が確定すると、所轄労基署長により職権で取り消され得ることとなり、上記の早期安定の要請(ひいては労働者の保護の要請)を著しく害する結果となるものといえる。これらのことに照らすと、上記各処分の関係については、公定力ないし不可争力により担保されている先行の処分である業務災害支給処分に係る法律効果の早期安定の要請を犠牲にしてもなお同処分の効力を争おうとする者の手続的保障を図るべき特段の事情があるとは認められないというべきである。
 以上の諸点に鑑みると、特定事業に従事する労働者について業務災害支給処分がされたことを前提として当該事業の特定事業主に対し労働保険料認定処分がされている場合には、業務災害支給処分が取消判決等により取り消されたもの又は無効なものでない限り、労働保険料認定処分の取消訴訟において、業務災害支給処分の違法を労働保険料認定処分の取消事由として主張することは許されないものと解するのが相当である。
 本件支給処分が取消判決等により取り消されたもの又は無効なもののいずれにも当たらない以上、本件認定処分の取消訴訟である本件訴訟において、原告が本件支給処分の違法を本件認定処分の取消事由として主張することは許されないものというべきである。そうすると、本件認定処分について本件支給処分の存在を前提とする労働保険料の算定及びその基礎となる関係法令の適用に誤りがあるとは認められない以上、その余の点について判断するまでもなく、本件認定処分は適法というべきである。