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ID番号 09154
事件名 未払賃金等請求控訴事件
いわゆる事件名 在日米海軍横須賀基地事件
争点 在日米海軍基地内の勤務者の解雇につき、バックペイからの中間収入の控除および国の損害賠償責任が問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1) Y(国、被告・控訴人)国と締結した労働契約に基づき、X(原告・被控訴人)は在日米海軍基地内において勤務していたが、休業手当身分措置、暫定出勤停止措置の対象とされた後にYに解雇されたため、当該各措置はいずれも無効であり、または国家賠償法上違法である等として、Yに対して労働契約上の地位確認、未払賃金および慰謝料の支払を求めた事案である。
(2) 横浜地裁横須賀支部は、Xの地位確認請求を認容、未払賃金および慰謝料請求の一部を認容した。
参照法条 国家賠償法1条
民法536条
体系項目 賃金 (民事)/賃金請求権の発生/(10) バックペイと中間収入の控除
労基法の基本原則(民事)/国に対する損害賠償請求
裁判年月日 2017年2月23日
裁判所名 東京高裁
裁判形式 判決
事件番号 平成28年(ネ)2669号
裁判結果 原判決変更自判
出典 判例時報2354号74頁
審級関係 確定
評釈論文
判決理由 〔賃金 (民事)/賃金請求権の発生/(10) バックペイと中間収入の控除〕
 Xは、本件解雇後、全駐労横須賀支部で勤務しているほか、本件暫定出勤停止措置の期間中から本件解雇後までの間、コンビニQで勤務しており、これらの収入は、Xが本件部隊の勤務を免れたことにより得た収入であると認められ、中間利益に当たるから、その額を未払賃金から控除し、中間利益の額の合計が各月の平均賃金額の四割を超える場合にその超過額を直後の夏季・年末手当から控除する。
 中間利益の控除は、労働者が使用者に対する労務の提供を免れたことにより他の職に就いて収入を得た場合に、その労働者に労務の提供の不能が生じなかった場合以上の利益を受けさせるのは相当でないことから、使用者からの収入と他の職に就いて得た収入を二重に取得することを否定するものであり、このような趣旨からすれば、MLC(日米基本労務契約)にその旨の定めがあるかどうかにかかわらず、中間利益の控除は許されるものというべきである。また、Yが本件以外のケースにおいて中間利益を控除していないことを認めるに足りる証拠はないし、中間利益の控除が許されるかどうかは、その利益が解雇等の処分がなくても当然に取得する収入であったかどうかなどの個別の事情によっても異なり得るから、本件において中間利益を控除することが直ちにMLC第八章一に違反するとはいえない。さらに、中間利益の控除が許される上記の趣旨からすれば、XがY人から本件部隊以外での稼働を促されたことや本件暫定出勤停止措置が長期に及んだことだけで、中間利益を控除することが当事者間の公平に反するとはいえない
〔労基法の基本原則(民事)/国に対する損害賠償請求〕
 日米間でXに対する制裁措置についての意見が対立し、協議が重ねられていたとしても、前記のとおり、MLCは、その規定上、日本側の調査が終了した後は日米間の協議を早期に終了させ、協議が整わない場合に日米合同委員会に付託し、その決定に委ねることを予定しているのであり、しかも、日本側は、Xに対する制裁措置として解雇ではなく出勤停止五日間が相当という意見であったのであるから、日本側の担当者としては、MLCの上記規定に従い、減給を伴う暫定出勤停止措置の長期化が労働者に重大な不利益を与えるものであることも考慮して、日本側の調査終了後は日米間の協議を早期に終了させ、協議が整わなかった場合には速やかに日米合同委員会の決定に委ねるべきであったというべきである。しかし、平成二四年二月二一日に日本側の調査結果が通知されてから、平成二五年四月五日まで日米間の協議が行われ、日米合同委員会に付託されることがないまま、Yが同年五月九日にXを解雇したことは、前記のとおりである。以上を考慮すると、日本側の担当者は職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく本件暫定出勤停止措置を継続したと認められるから、国家賠償法上違法との評価は免れない。
 本件暫定出勤停止措置及び本件解雇は、単にMLCが規定する要件を満たさない無効なものであるだけでなく、通常想定される協議の期間を大幅に超過したため、暫定出勤停止期間が長期に及び、Xに大きな不利益を与えたこと、本件解雇は解雇事由の証拠が乏しく日本側と米国側で意見が分かれる状態で行われたことなどの事情によれば、本件暫定出勤停止措置及び本件解雇が無効とされ地位確認と未払賃金の支払を命じただけではXの精神的苦痛は回復されないと認められ、Xに損害が発生したと認めるのが相当である。