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ID番号 09165
事件名 配転処分無効確認等請求事件
いわゆる事件名 学校法人原田学園事件
争点 大学の教授職務から事務職務への業務変更命令に従う義務のないことなどが争われた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 Yの設置するD短期大学(本件短大)の准教授であるXが、Yに対し、 (1)授業をする地位にあることの確認およびXに授業を割り当てず、学科事務のみを担当させる旨の業務命令(本件職務変更命令)に従う義務がないことの確認、(2)研究室(本件研究室)を使用する地位にあることの確認および本件研究室の明渡しを命じる旨の業務命令(本件研究室変更命令)に従う義務がないことの確認、(3)本件職務変更命令は、Xに対するパワーハラスメントであり、Yが、Xに対し、退職強要目的で本件職務変更命令及び本件研究室変更命令を行ったことならびに隔離・仲間外し・無視等を行ったことなどはいずれも違法であるとして、不法行為に基づき、慰謝料500万円を求めた事案である。
参照法条 民法709条
民事訴訟法134条
学校教育法92条
学校教育法108条
労働契約法
体系項目 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(25)担務変更・勤務形態の変更
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(23)使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 2017年3月28日
裁判所名 岡山地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成28年(ワ)274号
裁判結果 一部却下、一部認容、一部棄却
出典 労働判例1163号5頁
労働経済判例速報2324号3頁
審級関係 控訴
評釈論文 長谷川珠子・季刊労働法259号193~201頁
榎本英紀・経営法曹197号72~76頁
判決理由 :〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(25)担務変更・勤務形態の変更〕
 Xに大学教員としての研究及び教授・指導の利益が認められるとしても、上記のような組織・目的を有する本件短大においては、自ずから制約があるというべきであり、Yは手続きに従って、Xの担当していた授業を新教員に担当させることとし、Xに対して本件職務変更命令及び本件研究室変更命令を決定したのであり、Y内部の手続きを何ら経ていないXが、当然に本件各授業を担当すべきものとはいえず、したがって、Xは未だ、本件各授業を担当する具体的な権利、利益を有するものとは認められないため、従前から担当してきた授業をする地位にあることの確認を求める訴えの利益はない。
 Yに、大学設置基準等の定めにより大学に課せられた研究室の設置義務があるとしても、Yは、施設管理権を有し、研究・教育に従事する多数の教員の提供する役務を合目的的に管理し統括する必要があることからすれば、大学教員において、研究室の設置を受けることができるとしても、ある特定の研究室を排他的に使用する法的権利、地位があるとまでは認められないため、Xに従前から使用してきた研究室を使用する地位にあることの確認を求める訴えの利益はない。
 Yが本件職務変更命令の必要性として指摘する点は、あったとしても授業内容の改善、補佐員による視覚補助により解決可能なものと考えられ、本件職務変更命令の必要性としては十分とはいえず、本件職務変更命令は、Xの研究発表の自由、教授・指導の機会を完全に奪うもので、当該年度に限らず、それ以後Xには永続的に授業を担当させないことを前提とするものであるから、直ちに具体的な法的権利、地位とまでは認められないにせよ、Xが学生を教授、指導する本件利益を有することにかんがみると、Xに著しい不利益を与えるもので、客観的に合理的と認められる理由を欠くといわざるを得ず、Xには本件職務変更命令に従う義務はない。
 本件研究室変更命令は、本件職務変更命令と密接不可分な業務命令として、また、使用困難な研究室への変更として、客観的に合理的と認められる理由を欠くものであって、権利濫用であり無効と解すべきであるから、Xには本件研究室変更命令に従う義務はないと認められる。
〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(23)使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 Xは、各命令により平成28年度、授業をすることができず、したがって、更に学問的研究を深め、発展させることができず、本件利益が侵害されたのであるから、Xに対する不法行為を構成するというべきである。この不法行為は、本件利益が准教授であるXにとって重要な意義を持つところ、Xに授業を全く担当させないものであるし、事実上使用が困難と認められる部屋を研究室とするよう命ずるものであって、またYは、Xに、本件職務変更命令後の担当事務として、本件学科全教員で分担している事務処理の中から手伝いが可能な作業の分担を考えているとしており、また、その作業も、質的判別を伴うものではなく、量的な情報を基にした整理や数値情報の検出などをさせることを意図していたと認められ、そのことを文科省に報告するとともに、対外的にも、平成28年度のYのパンフレットの教員紹介欄からXを外すなどしていることが認められ、Xは精神的苦痛を被ったというべきである。これを慰謝するには、慰謝料として100万円の支払を認めるのが相当である。