全 情 報

ID番号 09181
事件名 未払賃金等請求事件
いわゆる事件名 東京港運送事件
争点 求人広告と異なる労働条件の労働契約の成否が問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 一般区域貨物自動車運送事業等を営む株式会社Y(被告)で正社員として雇用されていたX(原告)が、未払割増賃金および付加金の支払、ならびに基本給から控除されて未払いとなっている部分についての支払を求めた事案である。
参照法条 労働基準法37条
体系項目 労働契約(民事)/成立
賃金(民事)/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
賃金(民事)/賃金の支払い原則/(3) 全額払・相殺
裁判年月日 2017年5月19日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成28年(ワ)9818号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1184号37頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 :〔労働契約(民事)/成立〕
 求人広告は、使用者からの労働者に対する労働契約締結のための申込みの誘引で、それ自体は契約を成立させる意思表示ではないが、求人広告も労働条件を的確な表示で明示すべきもので(職業安定法5条の3、42条、65条8号参照)、労働者が求人広告に応募して労働契約を申し込むときは求人広告の内容を当然に前提としているから、求人広告で契約の内容を決定できるだけの事項(一定の範囲で使用者に具体的な決定権を留保するものを含む。)が表示されている限り、使用者が求人広告の内容とは労働条件が異なることを表示せずに労働者を採用したときは、労働者からの求人広告の内容を含む申込みを承諾したことにほかならず、両者の申込みと承諾に合致が認められるから求人広告の内容で労働契約が成立したというべきである。
 また、使用者から求人広告の内容とは労働条件が異なることが一応表示されて、外形上は労働者がこれに同意したように見えるときも、使用者の意図、労働条件の内容、表示及び同意の経緯等の事情に照らして、使用者が信義誠実の原則に反している、労働者に著しい不利益を与えるなどの特段の事情があるときは、労働者の同意は労働者の自由意思に基づくものではなく、使用者が労働者との外形上の同意内容に基づく労働条件を主張することはできないというべきである。
 Yは、求人広告での募集を見て応募してきたXに対し、これと異なる賃金の金額や計算方法を何ら示すことなく、Xをそのまま採用し、フルタイム勤務に従事するXには短時間勤務も想定した求人広告の時間単価より不利な待遇を受ける合理的な理由はなく、Yは、毎月、給与支給明細書で総支給額を基本給、皆勤手当、無事故手当、愛車手当、稼働手当、臨時手当、第二稼働手当及び職務手当に区分して支払う方法を用いていたことに照らして、XとYとの間では、賃金は時間単価1250円以上となるように毎月、基本給及び諸手当を支払う旨の労働契約が成立したと推認される。
〔賃金(民事)/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
〔賃金(民事)/賃金の支払い原則/(3) 全額払・相殺〕
 Xは13日間、本来勤務日であるのに勤務しなかった日があり、Yは基本給を減額する措置を講じたが、XはYの配車指示に従って出勤しなかったもので、これについてYは「Yの配車指示に従ったものでも出勤していない以上、賃金支払い義務はない」という独自の見解に従って賃金の減額を行ったと認められ、Xは出勤しなくともYの労務指揮に服していると認められ、Yは基本給を減額することはできない。
 Xはトラックの物損事故を起こし、YはXの賃金から弁償金を控除したが、Xの同意を認めるに足りる証拠はまったくないから、賃金から弁償金を控除することはできない。