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ID番号 09183
事件名 未払賃金等請求事件
いわゆる事件名 医療法人社団E会(産科医・時間外労働)事件
争点 宿日直勤務につき本契約と別の非常勤契約を締結し、本契約との労働時間の非通算の違法性が問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 Y(被告)は産婦人科の診療所(以下「Y診療所」という。)を開設する医療法人であり、X(原告)は産婦人科を専門とする医師としてY診療所で、当初は当直業務を担当する非常勤医師として、続いて常勤医師として採用されていたが、XはYに対して、時間外労働時間に関する未払賃金、未払残業手当、付加金の支払を求めた事案である。
参照法条 労基法37条
労基法38条
労基法施行規則23条
体系項目 労働時間(民事)/労働時間の通算
労働時間(民事)/割増賃金/(2) 割増賃金の算定基礎・各種手当
裁判年月日 2017年6月30日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成26年(ワ)16952号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1166号23頁
審級関係 控訴
評釈論文 田中崇公・経営法曹197号36~42頁
判決理由 :〔労働時間(民事)/労働時間の通算〕
 Yは当直勤務については、常勤としての労働契約と別個に、非常勤契約が締結されており、当直勤務の労働時間と常勤勤務の労働時間とを別個に計算し、それらを合算して法定労働時間を超えても法定時間外労働にはあたらない、というような趣旨を主張するが、労働時間に関する規定は、労働者の健康保持及び生活時間の確保を目的としているから、労働時間を通算する範囲を定める際は個々の労働者を最も重要な要素とすべきである。とりわけ事業主と労働者が同一である場合に事業場、労働契約、労働内容その他の要素に着目して個別に労働時間に関する規定を適用すると、結局、全体として事業主に対して労働者の健康保持及び生活時間の確保のため容認される限度を超えて、労働者を労働に従事させることを容認することになってしまい、労働時間に関する規制が無意味になる。労働時間に関する規制は当事者間の合意で左右できない強行法規であるから、契約の締結方法等で労働時間の算定方法を変更する余地もない。また、Xの当直勤務は労働基準監督署長の許可を得ていないから、Xの当直勤務は宿日直であることを理由に割増賃金の支払義務を含む労働時間の規制を免れることもできない。
〔労働時間(民事)/割増賃金/(2) 割増賃金の算定基礎・各種手当〕
 労働契約において、労働の時間帯、態様等に応じて異なる内容の賃金が定められている場合において、どちらに基づいて残業代算定のための「通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額」(労働基準法37条1項)を認定すべきか、問題となる。宿直又は日直の勤務でも「断続的な業務」に当たらないもの又は労働基準監督署長の許可を得ないものは割増賃金に関する労働基準法37条を含む労働時間に関する規定が適用されるから、本来の業務に係る賃金が「通常の労働時間又は労働日の賃金」に当たり、本来の業務に係る賃金に割増を加えた賃金が支払われるべきと解される。しかしながら、本来の業務の延長であって「断続的な業務」に当たらない、又は宿日直手当が低廉に過ぎるものと判断されて労働基準監督署長の許可を得られないこともありうるところ、本来の賃金額を割増した割増賃金でなく、宿日直手当又はこれに宿日直手当若しくは本来の業務に係る賃金を基礎とした割増分のみを加えた賃金の支払で足りるものとすると、結局、使用者は、宿日直手当を低廉に定めることで、労働基準法施行規則23条の要件を満たさなくとも時間外労働等に伴う経済的負担を軽減できることになってしまい、相当でない。したがってXの当直勤務については、本件常勤契約に基づく日勤に係る年俸を基礎賃金として、時間外労働等の残業代を計算すべきである。