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ID番号 09186
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 医療法人社団康心会事件
争点 残業代を含む年俸額が合意されていた医師による割増賃金請求の可否が問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1)医療法人であるY(被告、被控訴人兼附帯控訴人、被上告人)に雇用されていた医師であるX(原告、控訴人兼附帯被控訴人上告人)が、Yに対し、Xの解雇は無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めるとともに、医師時間外勤務給与規程(以下「本件時間外規程」という。)に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金については、年俸1700万円に含まれるという合意(本件合意)を前提として、時間外労働および深夜労働に対する割増賃金並びにこれに係る付加金の支払等を求める事案である。
(2) 横浜地裁は、時間外労働が月60時間を超えた場合の割増賃金及び深夜労働に対する割増賃金については、年俸に含めて支払われたということはできないとしてその部分につき、割増賃金請求を認容し、東京高裁は、本件合意は、Yの医師としての業務の性質に照らして合理性があるなどとして、第一審で支払いが命じられた割増賃金額を除き、本件時間外規定に基づき実際に支払われたもの以外の割増賃金は、Yの月額給与および当直手当に含めて支払われたものといえるとして、Xの請求を退けた。
参照法条 労働基準法37条
体系項目 賃金(民事)/割増賃金/(3) 割増賃金の算定方法
裁判年月日 2017年7月7日
裁判所名 最高裁第二小法廷
裁判形式 判決
事件番号 平成28年(受)222号
裁判結果 一部破棄差戻し、一部棄却
出典 裁判所時報1679号1頁
判例時報2351号83頁
判例タイムズ1442号42頁
労働判例1168号49頁
労働経済判例速報2326号3頁
労働法律旬報1893号56頁
審級関係 一部差戻し
評釈論文 渡辺輝人・労働法律旬報1893号34~39頁
水町勇一郎・ジュリスト1510号4~5頁
山下昇・法学セミナー62巻10号123頁
山田省三・労働法学研究会報68巻20号18~23頁
中山慈夫(判例実務研究会)・労働法令通信2465号27~30頁
水町勇一郎・判例評論708号(判例時報2353)165~168頁
野川忍(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1516号114~117頁
森田梨沙・LIBRA18巻2号48~49頁
柴田洋二郎・中京法学52巻3・4号107~116頁
岡本舞子・日本労働法学会誌131号147~155頁
淺野高宏(労働判例研究会)・法律時報90巻8号136~139頁
判決理由 〔賃金(民事)/割増賃金/(3) 割増賃金の算定方法〕
〔賃金(民事)/割増賃金/((6) 固定残業給〕
 労働基準法三七条が時間外労働等について割増賃金を支払うべきことを使用者に義務付けているのは、使用者に割増賃金を支払わせることによって、時間外労働等を抑制し、もって労働時間に関する同法の規定を遵守させるとともに、労働者への補償を行おうとする趣旨によるものであると解される。
 労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまるものと解され、労働者に支払われる基本給や諸手当(以下「基本給等」という。)にあらかじめ含めることにより割増賃金を支払うという方法自体が直ちに同条に反するものではない。
 同条の上記趣旨によれば、割増賃金をあらかじめ基本給等に含める方法で支払う場合においては、上記の検討の前提として、労働契約における基本給等の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であり、上記割増賃金に当たる部分の金額が労働基準法三七条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは、使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである。
 このうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかったというのであり、上告人に支払われた年俸について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできず、YのXに対する年俸の支払により、Xの時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできない。