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ID番号 09213
事件名 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 凸版物流ほか1社事件
争点 派遣社員給与からの事務手数料天引きの賃金全額払い違反などが問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1)派遣元Y1(被告・被控訴人)の社員であるX(原告・控訴人)が、Y1および派遣先Y2(被告・被控訴人)に対して、Y1からY2への派遣は、日雇派遣および日々職業紹介という形式をとりつつ、実質は違法な労働者供給であるとして、職安法44条、労基法6条、労契17条2項、労基法24条1項(給与からの振込手数料控除)それぞれへの違反、Xの就労する機会を奪ったこと、およびY1Y2の安全配慮義務違反、Y1がXに誤情報を与えたり、意図的に仕事を紹介しなかったことについての損害賠償を求めた事案である。
(2)さいたま地裁川越支部はXの請求をいずれも棄却し、Xが控訴した。
参照法条 民法709条
民法710条
労働契約法17条
労働基準法6条
労働基準法24条
職業安定法44条
体系項目 賃金(民事)/賃金の支払い原則/(3) 全額払・相殺
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(23)使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 2018年2月7日
裁判所名 東京高判
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ネ)2856号
裁判結果 原判決変更自判
出典 判例時報2388号104頁
労働判例1183号39頁
労働法律旬報1910号63頁
審級関係 上告、上告受理申立て
評釈論文 伊須慎一郎・労働法律旬報1910号54~55頁2018年4月25日
萬井隆令・労働法律旬報1911号51~56頁2018年5月10日
松井良和・労働法学研究会報69巻22号18~23頁2018年11月15日
烏蘭格日楽(労働判例研究会)・法律時報91巻10号126~129頁2019年9月
判決理由 〔賃金(民事)/賃金の支払い原則/(3) 全額払・相殺〕
〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(23)使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 Y1の「即給サービスを利用した場合には、即給サービスの振込手数料として、振込先口座が、三井住友銀行の口座の場合には105円、他行の場合は305円が給与から天引きされるところ」、「Y1らがXの賃金と即給サービスの利用手数料を相殺することができるためには、Xが相殺に同意していることだけでは足りず、当該同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足る合理的理由が客観的に存在しなければならない」。
 「Y1らは現金による賃金支払の事務の負担を免れることができる一方、Xら就業者は、日雇派遣及び日々職業紹介という不安定な雇用に置かれている者であり、不本意ながら即給サービスを利用せざるを得ない立場にあるといえ、現に約四五パーセントに及ぶ就業者が即給サービスを利用しているのであるがら、Xら就業者の同意があるとしても、それが労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足る合理的理由が客観的に存在する場合には当たらず、Xの賃金から即給サービスの利用手数料を控除することは、労働基準法二四条一項に違反するというべきである」。
 労基法24条1項違反は、「労働者の権利・利益を侵害するものとして、民法の不法行為における違法性を構成するというべきところ、ここでの労働者の権利・利益には、賃金が労働者の生活の基盤であることからすると、単に経済的利益だけでなく、人格的利益も含まれるとするのが相当であ」り、Y1らは賃金全額を支払っていないことを認識しおり、「権利・利益を違法に侵害することについて、過失があったというべきである」。
〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(23)使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 XとY2は、トラブルになりかけており、Y1は今後Xと顧客であるY2との本格的なトラブルに発展することを懸念し、Xに対するY2での就業の紹介を差し控えたことには、合理的な理由があるといえるが、Y1がXに対し、Y2以外の紹介先に対する職業紹介までをも停止したことには、合理的な理由がないというべきであり、上記停止は、Xの就労の機会を喪失させるものであり、派遣社員としてY1に登録しているXの基本的な権利を奪うものであって、Xに対する違法な侵害行為として不法行為を構成する。
 それ以外のXの請求はいずれも理由がない。